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つくりたいものは、使いやすいうつわだった。ー陶芸家・見野大介さんが語る、「自分らしさ」とは、「個性」とは。

「シンプルで使いやすい」
「スタイリッシュでおしゃれ」
「料理が映える」

うつわ業界ではよく、こんな言葉が飛び交う。
褒め言葉であるはずが、いっぽうで、『個性』を強く突きつけられる場面でもある。


世の中にうつわがたくさん出回るなかで、
「自分らしさを出す」って、一体どういうことなんだろう?

「自分らしさ」とは、「個性」とは。

奈良県で作陶する陶芸家、見野大介(みのだいすけ)さんが考え続けてきたことだ。見野さんは、まだ独立して間もないころ、周りがどんどん「個性」を表現するなかで、基本に立ち返りながら陶芸に向きあってきた。

そんな見野さんがたどりついた、『個性』とは。
約2年ぶりのインタビュー、奈良市内にある工房で、たっぷりお話を伺いました。

見野大介プロフィール:1980年 大阪生まれ。京都伝統工芸専門学校の陶芸科を卒業したのち、陶芸家、岡本彰さんに弟子入り。24歳から30歳までの6年間、技術を磨く。その後、京都の福祉施設で陶芸を教えることをきっかけに、陶芸の楽しさを再発見。奈良市の法華寺町に「陶芸工房 八鳥」をかまえ、陶芸教室を開く。2022年に奈良県川西町へ移転する予定。


息子の成長と、伸び代。

ーこうやって見野さんにお話を聞くのは久しぶりですね。

(見野)あれからもう2年も経つんですね。お互いだいぶ変わりましたね。相変わらずバッタバタです。


ーバッタバタですか。この2年でなにか変化はありましたか?

(見野)うーん、一番は息子が大きくなったことですかね。(※現在4歳)
普通に自分で手を洗ったり、トイレに行けるようになりました。最近、息子が「おさらをつくってみたい」と言ってきたので、ろくろを教えたんです。たどたどしいながらも、ちゃんと小さなうつわが出来あがって。喜んでいましたね。

ー息子くんの笑顔、とってもいいですね。楽しそう。

(見野)逆に息子がいるときは、作業内容を変えるようになりました。ろくろを触らないようにする、とか。ちょっと当たるだけでグチャッとなってしまうので..。

ーそこは、、シビアになりますね。

(見野)ろくろを挽いているときが一番ピリっとしているときなんです。誰にも話しかけられたくないモードに入ってしまうので。

ーろくろに向かうときって、どんな気持ちなんですか。

(見野)いかに少ない動きでいいものがつくれるか、常に考えながら手を動かしていますね。土に触れば触るほど、形が崩れてしまうんです。できるだけ触らずに、揃える。どうしたら土の味わいを残しながらつくれるのか。毎回、試行錯誤です。

ー触らずに揃えるのって、難しそう。

(見野)はい、難しいです..。あとはろくろを挽きながらうつわのデザインも少しずつ変えているのですが、ゴールが見えそうで、見えないものばかりなんです。

ー見えそうで見えない、ですか。

(見野)はい、伸びしろは減ってきたように感じるものでも、やっぱりまだまだだなぁと思うことが多いですね。
そのなかでも最近ようやく定番化してきたのは、「六角」や「勾玉」、「波紋」のうつわなのですが、数をつくるほど改善点が見つかって、またディティールを直して..の繰り返しなんです。

左下から時計まわりに、「六角」「勾玉」「波紋」


色の重なりがおもしろい。

ー見野さんが陶芸をするにあたって大事にしていることってなんでしょうか。

(見野)一番は、陶芸としての「色のおもしろさ」を出したいなと思っています。

ーへぇ、色のおもしろさ。

(見野)はい。うつわの表情に深みを出したいと思いながらやっています。そのために色の変化が出やすい釉薬ゆうやく(うわぐすり)を使っているのですが、自分のなかで「これだ!」と思える色に出会えるまで、何度も試しますね。

ー理想の色にたどりつくのってなかなか難しそう..。なにか基準のようなものはあるのですか。

(見野)色は、京都で弟子入りしていた時代の師匠の影響が大きいです。こだわりが強くて、使っている釉薬はおもしろいものが多かった。当時師匠が大事にしていたのは、「きれいにつくりすぎない」「土味を残す」ことでした。そして、うつわの表面に「指筋を残す」ことも。

ー指筋を残す。見野さんのうつわには、ほんのり筋がついていますよね。

(見野)はい、こうやって指筋を残すことでうつわの表面に凹凸が生まれて、釉薬がたまったり薄くなったりするんです。焼いてる間に、色が重なって立体感が出てくる。それがおもしろいよね、ということを師匠から教えてもらいました。

ーたしかにこの湯呑みをよく見ると色んな色が入り混じっている。凹凸に合わせるように、濃い緑色から淡い緑色の幅で重なりあっているようです。

(見野)そうなんですよ。あとは、表面に微妙な凹凸があるほうが、やさしくて柔らかい印象になると思います。逆にキチッときれいにしすぎると、機械っぽくて冷たい印象になったりする。その間のバランスを考えて、つくっていますね。

ーなるほど。「柔らかさがあるうつわ」って使いやすいなぁと思うんです。他のうつわと並べても変に浮いたりしなくて、どんな料理もほどよく受け止めてくれる安心感があるような気がします。

(見野)そうですね。色を出すときに気にしているのはまさにそこで、食卓に並べたときに「調和するかどうか」ということは大事だと思うんです。うつわは毎日使うものだから、手に取りやすくて、普段着のように使ってもらえたらうれしいなぁと思いますね。


デザインと技術。

ー見野さんがつくるうつわは、シンプル。荒々しい表現とは、対極のところにあるような気がします。

(見野)そうですね、実はね、シンプルなデザインをつくることって、もう本当に難しいんですよ。

ー「シンプルが難しい」とは?

(見野)シンプルなデザインって、きれいな曲線に、一箇所でもその丸みとは違うカーブを描いていたら、その部分がめちゃくちゃ目立ってしまう。そのちょっとのあらを、消すか消さないかは、かなりの技術がいります。

ーきれいだからこそ「粗」が目立つのですね。

(見野)はい、まず大前提として、「粗ができないように、ろくろで成形する技術」が必要です。さらに、ただきれいに成形するのだけではなく、「同じ形のものを、何枚もつくる技術」


ーまさに、「職人技」ですね。

(見野)うちがこだわっているのは、デザインと技術。両方のバランスが取れるものを目指してやっています。あと、デザインに関わるところで大事にしているのは実用性。どんなに見た目がいいものでも、使えなかったら意味がないと思うんです。

ーデザインがいいなと思ったうつわでも、実際使ってみたら「イメージと違った」ということ、よくあります。
デザインと技術、両立させる秘訣ってなんでしょうか?

(見野)うーん..。経験値と、探究心でしょうか。

ーあぁ、探究心。

(見野)結局、自分のなかで「満足できるラインをどこに引くのか」というところが大事だと思うんです。人の作品を見たり、話したりするなかで、数つくっているうちにふと気づくこともある。

そういう意味ではうちは、そのあたりのブレーキが、壊れているんですよ。

ーえっ。ブレーキって、探究心の?

(見野)はい、一度「こうしてみよう」と思うと探究心が止まらなくなるんです。できる限り、ずーっと土を触っていたい人間なんです。
..ぬかを触るのと似ているかもしれない。

ーぬかですか。少しだけ、分かる気がします。笑

(見野)よくあるのは、息子と遊んで1日の大半が終わってしまったとき。晩ごはん食べて息子が寝た後に、「ようやくろくろできるわ」「やっと土触れる」とつぶやくと、「まだそんなん言うの..」と嫁さんに呆れられるんですよ。

ー今の話をしている見野さんがなんだか、好奇心でワクワクしている子どものようです。そんな手から生み出されるうつわって健やかで、心地よさが伝わるだろうなぁと思います。


「使いやすさ」とは。

ー見野さんの話を色々聞いてきて、まだ自分のなかでぼんやりしているのが「使いやすい」という言葉です。最後にもう一度聞いておきたいのですが、見野さんが目指す、「使いやすさ」ってなんでしょうか。

(見野)うーん、使いやすいって色々ありますよね。重量感、サイズ感、色、口あたり、高台の処理、手触り..。使いやすさって、色んな要素がどう組み合わさるかだと思うんです。それを、どれかに振り切っている人もいれば、バランスよくやっている人もいる。

ーそう考えると、見野さんのうつわはバランスがいい方なのかなと思います。

(見野)ぼくが「使いやすさ」を意識しはじめたのは、福祉施設で働いた経験が大きいです。障害がある方の就労を支援する施設で、陶芸を教えていたのですが、そのときにただ「つくることが楽しい」だけではなく、「商品」をつくらなければいけなかった。
自分だったら、どんなうつわを使いたいと思うだろう。いいものってなんだろう。「使いやすさ」について、徹底的に考えましたね。

ー「使いやすさ」とひと口にいっても、なんだか認識合わせが難しそう。

(見野)難しかったですねぇ。最初は、お互いに使いやすいと感じるものにズレがありました。そもそも「どのレベルがいいものなのか」が曖昧だったので、早くつくることよりも丁寧につくることに重きを置きながら、だんだんとピントを合わせていきました。

(見野)実はね、この頃はぼく自身がモヤモヤしていた時期でもありました。なんで陶芸をはじめたんだっけ?と色々悩んでいたのですが、みんなでアイデアを出し合って商品化までできた福祉施設での5年半の経験が、陶芸に向き合う楽しさを思い出させてくれたんです。

そしてこのとき初めて、「自己表現」と「消費者目線で考える」ことの違いがわかったような気がします。

ー「自己表現」と「消費者目線」?

(見野)ぼくはずっと、「自分らしさってなんやろう」と思いながら、うつわをつくり続けていたんです。もっと自己表現に特化したものをつくるのが作家やと思っていた。ただ、その考えのもと色々試したのですが納得がいくものができなかったんですよね..。

それで、消費者目線でつくることに立ち返りながら陶芸に向き合っていたらだんだんと方向性が見えてきたんです。自分がどうありたいか、どう進めていきたいか。「もっとこうしてみよう」と思うことが増えてきました。丁寧に数をつくりながらだんだんと自分なりの形ができてきたときに、これが、うちの『個性や』ということに気づけたんです。

(見野)自己表現が強いことだけが、「個性」じゃない。ささいなことにも「個性」がある。うちがつくりたいものは、「使いやすいうつわ」なんだって。

ー「自分」に、ぐっと近づいた瞬間かもしれないですね。

(見野)そうなんです、今まで人の畑ばかり見すぎていて「自分」がぼんやりしていたのかもしれない。なにをするにも大事なのは、そこに「自分」がいるかどうか。それが見つかってからは真っ直ぐに陶芸に向き合えるようになりました。本当に、シンプルなことでした。


(見野)今でもやればやるほど、小さな気づきがたくさんあります。うちは陶芸教室もやっているのですが、色々な人との関わりがアイデアの種になることが多くて。その度に少しずつデザインを変えているのですが、そんなうつわを気に入ってもらえると、本当にうれしいですね。

ーわぁ、やりがいを感じる瞬間ですね。

(見野)僕がもともと陶芸に出会ったのは、大学で陶芸サークルに入ったことがきっかけだったんです。そのとき後輩に「教えてほしい」とか「作品がほしい」と言われたのですが、誰かに必要とされていることが楽しくてしょうがなかった。この気持ちが支えになって、今も陶芸を続けられているなぁと思うんです。つくるのがおもしろいし、教えるのが楽しいんですよ。

ーあぁ..。見野さんが陶芸にストイックに向き合う理由が、少しだけ分かったような気がします。

あとがき:
今回、2回目のインタビューでした。
その間に私たちは何回か会って話をしてきたのですが、今回のインタビューを通して対話を重ねるなかで、見野さんの新しい一面をたくさん見つけました。

そのなかで一番印象に残っているのは、見野さんが「まだまだなんです」と繰り返し言っていたこと。はっきり言葉にしなくても、言葉のあいだや言葉尻に、その姿勢はあらわれていました。私は今まで勘違いしていました。見野さんのうつわは、てっきりもう完成形に近づいているのだと思っていた。確かな自信と強い誇りをもって、ぐんぐん前に進んでいるものだと思っていた。でも、紐をほどいていくと私の考えていた見野さん像とは少しだけ違っていたのです。

「まだまだこれからなんです」といつもの様子で明るく話すその裏には、繊細さと、静かな野心が見えたような気がしました。そして、「使いやすさ」の理由と展望が、その言葉には詰まっていました。

このnoteで改めて、インタビューのおもしろさ、人への向き合い方を学ばせてもらったような気がします。見野さん、たくさんお時間いただき本当にありがとうございました。

※2年前のインタビュー記事はこちら↓

〈見野大介さんのインスタと展示会を紹介します〉

インスタ↓

展示会予定↓

【暮らしにいいもの -中嶋健 見野大介- 二人展】
日程:12月28日(火)-2月6日(日)8:00〜23:00 
※15日はお休み
※21日19:00-トークイベントがあります。お申し込みはこちらから。
場所:奈良蔦屋書店 1階 暮らしのフェア台
〒630-8013 奈良県奈良市三条大路1丁目691-1
0742-35-0600


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今回も長いインタビューを読んでいただきありがとうございました。

毎回書いていて思うのは、読んでもらえるだけでうれしいのに、感想までいただけるのは本当にありがたいなということです。
皆さんのコメントを通して気付かされることも本当に多いです。1日の中で大事な時間をつくって読んでもらえることのありがたさを感じながら、毎回陶芸家さんと向き合い、楽しみながらnoteを書いています。

いただいた感想やコメントはすべて見野さんに伝えますので、なにか感じたことなどありましたらぜひお気軽にいただけると嬉しいです。


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