【お店雑記】 飽きられること、よりも。
先日、とある飲食店の店主がこんな話をしてくれた。
「あのお店ね、待つのに疲れちゃったらしいですよ。」
なぜあのお店は閉店してしまったのか。
ご飯はおいしくて、地元にも愛される人気店だと思っていたのに。
こんな話をしていたとき、店主がポロリと教えてくれたことだった。
「ほら、やっぱりお店をやっていると ”待つ" 時間って長いじゃないですか。」
そう話す店主は、メニューをコロコロ変える。
自分なりの「おいしい」を追求していて、実際にいつも唸るほどおいしいものを開発してくるから感心してしまう。探究心、好奇心、いったいどこからくるものなのか。彼は絶対におんなじ場所に居座ろうとしない。それが、どれだけ心地よくても、だ。
食べるたびに「すごいですねぇ」と私がいうと、店主は「臆病だからですよ」という。ずっとおなじことをやり続けていても、いつかお客さんが飽きて来なくなるかもしれない。それがこわくて、新しいものを出し続けている、と。
いつも淡々と厨房に立って料理をつくる様子からは想像できない話だった。
***
お店をやっていて、「飽きられること」はこわいことだなぁと思う。
たまにお客さんから「これから新しいうつわが色々入ってくるんですか?」と聞かれることがある。そのたびに心のなかでじんわり汗をかく。それを聞くってことは、いまあるものには興味はない、でもこれから新しいものが入るなら来てみようかな、ということだよなぁなんて思ってしまう。
でもね、そのたびに立ち止まって考える。
新しいものばかりを追いかけたら、どうなるんだろうって。
東京に住んでいた頃、新しいものばかりを追いかけた時期があった。
渋谷にあんなおいしい店ができたらしい。
ここでこんなイベントやっているよ。
休みの日は忙しかった。色んなところへいき、食べたり体験したりして、一生懸命SNSにアップしていた時期があった。同僚や友だちに会うたびに、あそこいったよと得意げに話をした。みんな食い気味で聞いてくれるし、逆に相手から情報をもらったらすぐに飛びついた。そんなことを繰り返していくうちに、「情報疲れ」をした時期があった。気づけば自分がいいと思うものがわからなくなっていて、うっすらと虚しい気持ちだけが残った。
とはいえ、新しいものを否定することはできない。やっぱり時代に合わせてアップデートすることは必要だし、知りたい欲求がある。しかし、新しいものばかりを追いかけてしまうと足元に転がっている「いいもの」を見つけにくくなってしまうのではないだろうか。先に先に進んでいるようで、自分の感性が置いてけぼりになってしまう。最近とくに、そんな気がするのだ。
うつわ屋さんとして、どんどん新しいもの、新しい陶芸家さんを見つけて取り入れていきたい気持ちと、いまお店にある「いいもの」をずっと残していきたい気持ち。軸足はね、やっぱり後者に置いておきたいと思うのです。
あのお店へいくと必ずいいお茶碗に出会える。
いい湯呑みや豆皿が、必ず置いてある。
長く太く続けていくためには、「飽きられる」こわさを飛び越えていかなくちゃいけないな。こんなことをぼんやりと考えながら、今日も看板を置いているのであります。
うつわと暮らしのお店「草々」
住所:〒630-0101 奈良県生駒市高山町7782-3
営業日:木・金・土 11:00-16:00
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