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【読書感想文】テクノロジーと勇気と愛で、人間を超えてより人間に - 『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン』ピーター・スコット・モーガン

久しぶりにすごい本を読んだ。

脳は完全に機能したまま、眼球以外の肉体の自由を徐々に失い、最終的には自分の体に閉じ込められてしまう難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を患ったロボット工学の専門家でもある著者が、テクノロジーと勇気と愛で、自身の人間としての存在をアップデートしていく物語。

『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン』ピーター・スコット・モーガン

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ALSを含めて、総称として「運動ニューロン病(MND)」と呼ばれるので、以下、MNDと表記。


MND(あるいはALS)は数年前にバズった「アイス・バケツ・チャレンジ」で初めて目にした人が多いかもしれない。あるいは、イギリスの理論物理学者であるスティーヴン・ホーキング博士の病気といった理解だったり。

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従来だと、MNDと診断された患者は、なすすべなく悲劇的な病の進行に運命を委ねるしかなかったのだが、著者は人類の歴史を塗り替えるために、全力で先回りして立ち向かう。

”元の僕”、あるいは〈ピーター1.0〉の性質そのものが変化するということだ。”新しい僕”、つまり〈ピーター2.0〉とは、元の脳の大部分(基本的には動作を使っとっている部分なので、最終的には使い物にならなくなる)に、人工頭脳による拡張機能をたくさん追加したものだ。一方、僕の体そのものは、眼球を例外として、単に脳を動かすためだけに存在することになる(185ページ)

排泄機能を失ってしまう前に、まだ健康な膀胱と結腸を切除して、膀胱ろうと結腸ろうを造設する。嚥下障害や誤嚥性肺炎を予防するために、胃ろう手術を行う。著者は、まだ健康なうちに、この3つを1回の手術でおこなう、前代未聞の「トリプルオストミー」を、医療界の暗黙のルールと戦いながら、敢行する。

体内の”改修工事”を行う、それが私の提案です
3つの手術がセットになっているんです。胃に直接栄養を送り込む”インプット”のチューブ。排尿用に膀胱につなぐ”アウトプット1号”のチューブ。排便用に結腸につなぐ”アウトプット2号”のチューブ。この3つを通すわけです
胃ろう、膀胱ろう、結腸ろうの造設を一気にやってしまうという事ですね(136・137ページ)

これにとどまらず、予想される全ての症状に対して、同様のアプローチをとっていく。まるで『攻殻機動隊』のよう。電脳化と義体化。

・声帯を切除して声を失ってしまう前に、さまざまなフレーズを肉声で録音して、AI学習とボーカロイドによる自然なコミュニケーションに備える。
・顔面の筋肉が機能しなくなることによる表情の喪失に備えて、ハリウッドの最新テクノロジーを用いて様々な表情をキャプチャーして、高精度アバターの生成の準備をしておく。
・移動の自由の喪失に備えて、遠隔コミュニケーションやテレプレゼンスのテクノロジーを取り入れていく

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著者は、全人生と全人格を賭けて、人間性の再定義、人間の拡張に挑み続ける。


以下、続きはよければブログにて。



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