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遊郭で高人さんを見つけました。

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#綾木

遊郭で高人さんを見つけました。番外編5

日が暮れて辺りが暗くなると、遊郭の明かりが華やかに辺りを照らし始める。 俺は若い衆の半被を着て、厨房で貰った笹餅を食べながら夜霧さんから見えない場所で彼を見守った。 たまに見つける不届者を座敷に追い返し、また夜霧さんを追いかける。それの繰り返し。 「夜霧さんて、ほんと綺麗な人だなぁ。さすが准太さんを虜にしてるだけあるっスねぇ」 人間に無頓着で無機質な笑顔でつまらなそうに毎日を過ごしていた准太さんが、あんな優しく笑うようになったり、何かに怒ったり。この人のお陰なんだろうな。

遊郭で高人さんを見つけました。番外編4

今日は綾木さんからお休みをもらった。 そんなわけで東谷邸にやってきている。一連の報告をするためだ。 朝早く裏木戸からコッソリ入る。結構早く来てしまったけど、准太さん起きてるかな…。そーっと戸を閉めていると背後から声がした。 「成宮くん、おはよう?」 「わひゃあ!?」 びくうっと身体が跳ねる。変な声が出てしまった。 「准太さんっ!?気配消して近付くのやめて下さいっ」 「ん?別に消してないけど?」 きょとんと可愛らしく言ってもダメだから! 准太さんが牙抜かれた狼みたいになってて

遊郭で高人さんを見つけました。番外編3

准太さんは花房に居るようだ。じゃあ、あっちに連れて行かれた男は死ぬより酷い地獄を見る事になる。 准太さんと綾木の初対面だが、出来れば仲良くして欲しいと心の底から願った。 降っていた雨は降り止み、どんよりと空を占領していた雨雲が薄くなっていく。 やって来たのは遊郭地区の裏路地。悪辣の掃き溜め。 ここでは目が合えば殴りかかってくるような猿ばかりだ。表には出てこないコイツらは仕事をするにも盗みや殺しなど裏の仕事ばかりでそっちの噂話や事情にも詳しい。是非ともお話を伺いたいと思いや

遊郭で高人さんを見つけました。番外編1

俺の名前は、成宮涼! 俺は普段東屋商会で事務員として働いている。 事務と言っても肩書きだけだ。出社したら大体… 「成宮くん、いる?」 ほーらきた。 事務所の椅子でゆらゆらと遊んでいると、准太さんがドアを開けて覗き込んでくる。 「准太さん!おはようございまぁす!」 にこにこと人好きのする笑顔で返事をする。 「仕事、頼んでいい?」 にっこり笑う准太さんは大体悪い事を考えているってのが俺の持論だ。 「いいっすよ!何をすれば?」 「綾木屋に転職してくれる?」 綾木屋って、遊

遊郭で高人さんを見つけました。--その後

「高人さん、もう大丈夫ですよ?」 昨晩の逃走劇の後、医者からはもう大丈夫だと言われて、俺と高人さんはやっと自宅に戻ることができた。 けれど高人さんは心配でたまらないらしい。 ずっと俺の隣から離れない。 「大丈夫なわけあるか!心臓が止まってたんだぞ!」 ウルウルと涙を溜める顔が可愛すぎる。 しかしこれだと何も出来ない。 「とにかく、もう布団いけ!身体拭いてやるから。着替えるぞ。」 身体拭……ん?? 少しの間思考が止まる。 高人さんがお兄さんになっている。 てことは、俺は

遊郭で高人さんを見つけました。28最終回[BL二次創作]

見世の外は夕暮れに染まり、ひぐらしが鳴いている。見世の外から自分の部屋を見上げた。 あの部屋から見る外の景色が好きだった。 春の夜に、見世の準備をサボって夜桜を眺めていたら、見ない顔の男がやってきた。目が合って手を振ったら真剣に見つめ返してきて、ドキリとしたのだ。あれがチュン太だったと気付いたのは後からだった。 景色を眺めていた窓辺は、いつしかチュン太の姿を探すための窓辺になっていた。 楽しかったな。本当に。幸せだった。 ふと人の気配がする。前方を見やると、1人の軍

遊郭で高人さんを見つけました。27[BL二次創作]

高人さんが、他の男に身請けされるという話が入ってきた。昨日までは無かった話。ならば、昨晩何かが起こったという事だろう。 朝1番でこんな話が出てくるなんて。 いつ?身請けが決まったのなら花房をいつ出てもおかしくない。情報が少な過ぎる。 「…くそっ」 「若様、お客様が。」 トントン、とドアをノックされ声をかけられる。 「どなたです?」 「綾木屋の旦那様です。」 「…通してください。」 しばらくして、ガチャリととびらの開く音がした。 ちらりと見ると綾木千広がヨタヨタと部屋にはい

遊郭で高人さんを見つけました。20

雨が止み太陽が顔を出せば当然気温も上がっていく。夏の地下牢はジメジメとして不快感で吐き気がする。 地下牢を歩いて行き一つの牢の前で止まると、そこには先程連れて来られた男が手足を縛られて倒れていた。 足音にも気配にも無視を決め込んでいる男に何を言うでもなく牢を開けて入るや否や、寝転がる男の腹を思い切り蹴り上げ、踏みつけてやった。 「がっ…はっ…」 「…目は覚めたか?」 無表情のまま相手の顔を覗き込む。  死んだ目は、なにをやっても死んだままだ。生きている目を地に落とす瞬間

遊郭で高人さんを見つけました。19

「高人さん、ただいま戻りました。」 すーっと襖を開けると、雨の匂いのする風が部屋をふわりと通り抜けて行った。 外が見えるように敷かれた布団は乱雑に剥がれ、もぬけの殻だ。 「高人さん?」 楼主と話をして戻ってみれば、高人さんの姿はどこにも無い。 見ればいつも外に見送りに来てくれる時に着ていた上着も無いようだ。 用を足しに出たのかもしれないし、水を飲みに行ったのかもしれない。 俺は勝手知ったる見世の中を探してみる。 すれ違う遊女や男衆は少なかったが、歩く人を見つけては手当た

遊郭で高人さんを見つけました。10

2ヶ月間の激務がやっと落ち着いてきた。 睡眠時間を削り、視察や挨拶回り、社内会議に他社との合同会議、夜には資料や報告書に目を通して食事も書類片手に軽く済ませるような日々がようやく終わる。 東谷准太は執務室の椅子にだらりと座る。 「流石に疲れたな。」 仕事については父を黙らせるほどの売上を出せている。ここから新しい試みすら提案しているし、損害と言われた部分については返上できた。 父は損害と言うが、俺にとっては手に入れたい人が同じ価値かそれ以上なのだから、損害とは言えない。

遊郭で高人さんを見つけました。9

まったく、気に食わない。 綾木千広はそう思いながらぼりぼりと頭を掻く。 イライラするとやってしまう癖だ。 夜霧の側に居るために、面倒だった呉服屋を継いで約2年が過ぎる。政治家の奥様や大企業のご婦人方に媚を売り続け順調に商売を広げ力を付けてきた。そんな折に問題が起こった。 ここ数ヶ月、夜霧の周りをウロチョロと嗅ぎ回る男が居たのだ。 誰かと思い調べてみれば、大手商社の東屋の若君というではないか。この商社の黒い噂は商売人なら誰しも噂くらいは知っている。 実に気に食わない。

遊郭で高人さんを見つけました。8

卯月、春の終わりの風に新緑が香る。 高人はサワサワと気持ちの良い風に目を細めた。 花房屋は夏の衣替えの季節を迎えている。 呉服屋を呼んで着物や打掛を新調するため、昼間でも見世の中は賑やかだった。 俺はというと…、 窓辺の縁に肘をつき、自室の隅にある、ご大層な打掛けを眺めている。 「チュン太のやつ、俺はもう最前から退いてんのに、こんな派手なやつ送ってきやがって。」 薄い群青の生地に金で縁取られた大輪の白牡丹がいくつも咲き誇り、薄桃の桜や撫子が周りを華やかに囲う。そんなお貴