硬い雨の音と異国の天気
先週の月曜日は、関東ではどこも土砂降りだった。
もう梅雨がきたのかと思うくらい雨が一日中ふっていた。
かと思えば、次の日にはからりと晴れているのだから、初夏は移り気。気象予報士泣かせな季節だろう。
久しぶりに耳鼻科に行き、いつもの漢方をもらった。この漢方がえらく効くので、無いと途方に暮れてしまう常備薬のひとつだ。
漢方をもらってほくほくしながら車を運転する。
車体を雨が打ち付けた。
一日中雨がふる季節になったのか、ちょっと早すぎるけどな、
なんて考えながら雨の音をきく。
そう、この季節。
雨を楽しむ季節がきた。
わたしの記事で何度か紹介している、「日日是好日」という本がある。
茶道を通した成長を綴った感性たっぷりのエッセイ。
とても好きな本のひとつ。
自然の移り変わりを楽しむことを教えてくれる。
春には、道端に咲いている草花を。
冬には、シュンシュンと湯が煮える音を。
梅雨には、雨音のひとつぶひとつぶを味わうのだと。
雨が打ち付ける。
大粒の雨が車体をたたく。
ザーという音に混じって、雨が金属を強くたたく音がときおり聞こえた。文字通り叩くかのような音。
電線に溜まった大粒の雨が落ちたのか。
どこか硬質な音がして、ひとつぶひとつぶの音が響く。
ああ、この音は好きだな、と思う。
雨樋をながれた水滴が落ちる「ぴちゃん」という音も好きだけど、この「カツン」とでも表現したらいいのか、水にそぐわない硬い音も好きだ。
「あ、この音って水琴窟に似てるんだ。」
思い出した。
よくお寺の片隅にある水琴窟。
地中に金属製の瓶が埋めてあり、水滴をおとして金属に響く音を楽しむのだ。
水琴窟の看板を見ると、長蛇の列があったとしても並んでしまう。
そんな不思議な魔力のある水琴窟。
なんて雨音を楽しんでいたら、昨年デンマークに留学していたときを急に思い出した。
海沿いの学校では激しい風が身体をたたく。
雲も風におされて、現れたと思えば去っていく。
デンマークの天気は忙しなかった。
晴れたかと思えば、急に雨が降ってくる。
かと思えば、すぐにやむ。
誰も傘はささない。
30分くらいで、すぐにやむことが分かっているから。
防水のコートにフードをすっぽり被れば雨だって怖くない。
フードをかぶってドロドロの道を何度歩いただろう。最初こそ驚いたけれど、いつしか慣れて、外出時はフードのついたコートが必需品になっていた。
そんなデンマークの天気を思い出して笑ってしまう。
あんなに忙しなかったら、雨の音を味わう暇もない。実際、雨の音に注意していたときはなかったと思う。
デンマークの日々が次々に浮かんでくる。みんな半袖を着ているのに、わたしだけ完全防備の姿。あまりの風の強さに、カフェに入って避難したこと。
天気のことばっかりだ。思わず、笑ってしまう。
そういえば、「デンマークの天気はひどい」ってデンマーク人もよく言っていた。
なんて懐かしいのだろう。
わたしの好きな本「旅をする木」に書いてあったことを、ふと思い出した。
大自然の中でクジラを見た女性。都会に帰って忙しく過ごしていても、今このときに、クジラが舞っていると思うと癒される。
そんな話。
読んだ当時は、なんかいいなと思ったくらいだった。
でも、今は分かる気がする。
日本にいて雨を楽しみつつも、そんな暇がないデンマークという別の世界を考える。
この同じ瞬間に、全く別の世界があることがなぜだか嬉しい。
運転をしながら、ひとりで笑ってしまうくらいには。
また来週になると雨が降るらしい。
今度はどんな音が見つかるんだろうか。
お読みいただき、ありがとうございます。
次の記事でお会いしましょう。
またねー!
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