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まるくなった感情と反する記憶:本の感想

すごい本に出会ってしまった。

時折、こういう出会いが訪れるから本を読むのはやめられない。

西加奈子さんの「きいろいゾウ」。

タイトルからは想像できない、夫婦の絆についてのお話。夫婦の日常についてでもあるし、過去の恋愛からの脱却についての話でもある、でもこの本を説明するのにはこんな言葉ではしっくりこない。もっと単純な言葉。そうだ。愛についての話なのかもしれない。 


実は、この本の序盤に、トゲトゲした感情がわいてくることに気づいた。

主人公夫婦の妻である「ツマ」。

この女性は、感受性が豊かで、かざらない姿が描かれている。通常は見えないものが見えたり聞こえたりする敏感さも持っている。

そして、本のなかで、彼女はとても自然に神様なんて言葉がポンとだしたりする。
だから、本のなかに対してなのに、思わず反感を覚えてしまった。

「えっ、それはDNAによって決まるんだよ」なんて現実的なことが、つい頭に浮かんでしまう。

わたしは、目に見えるものが好きだし、数字が好きで、科学というものを信じている。

つきつめれば、科学もなにも分からないんだけど、もっともらしい理由がつけられるので好きだったりする。

だから、本のなかであれ、現実であれ、ちょっと空想的なことに出会うと、理由をつけたくなる。いちいち理由をつけるなんて、トゲトゲして角ばっているなと思うけれど、つい考えてしまうものだからしょうがない。

それに、トゲトゲなんて文字もそう。ツンツンした感がなんか増している。


物語を読み進めていくと、不思議なことが起こった。トゲトゲした気持ちはどこにいったのか、小さなトゲが溶けて、まあるくなってしまったようだ。

子供のような主人公の感性に触れて、こんな世界もあるのかと思った。ともすれば味気なくなる日常を感性たっぷりに楽しむ様子はうらやましくもなる。

さるすべりの木は、つるつるしている。猿も滑る!薄桃色のお花が咲いている、小さなアイスクリームみたいに、それはきっとイチゴ味だね。くにゃくにゃと曲がって、そのまま私たちを空に誘おうとしているみたい。

きいろいゾウ

主人公夫婦が暮らす山の中の家。その庭での描写。

なんか、いい。
ツマが世界と一緒になって楽しんでいるみたいだ。

もちろん、しばらく経てばまた小さなトゲは復活するんだけれど、今はまるくなった感情を楽しみたいと思える。

この本の主題「愛」(とわたしは思っている)については、本を読んでいただくとして、本を読み終わったあと、自然と過去の恋愛を思い出していた。

キラキラした宝石みたいに輝いている記憶と、どれだけ擦っても鈍い色しかうつさない石のような記憶。どの恋愛でも、宝石と石、真逆な記憶が両方ともうかんでくる。

川沿いのベンチに座って、おでんを食べながら桜の花を眺めたこと。
終わり間近のときの、触れることをためらわせる冷えた空気。

近所のブラジル料理店で、仕事の愚痴をいいながら笑い合う姿。
別れを告げるときに、箸でつついていたホッケ。

どの関係でも、眩しさの裏に苦しさがあるけれど、それは決して嫌なことじゃないと思う。切なさに胸を痛めるけれど、それを抱えつつも、いつか目の前にいる人を見れたらいいなと思う。
(本の内容がこういう話だったから、自然と思い出して感情がリンクしたみたい)

こういう記憶って、みんな持ってるんじゃないかな。

「過去に何人と付き合いましたか?」なんて質問からじゃわからないこと。

もちろん「輝いている記憶と暗い記憶はなんですか?」なんて野暮な質問はしないけれど、みんなそれぞれ、そういうものを抱えている。

恋愛だけじゃなくて、家族や日々の生活、そして仕事。きっとそれぞれに明るさと暗さ両方があるんだろう。それをみんな抱えているのかなと思う。

道ゆく人にも物語がある。
そう思うと、急にあたたかな気持ちになった。
暗がりにポッとともる街灯みたいに。

それに、もっと真っ直ぐに人のことを見れる気がする。
そんな気がした。


お読みいただき、ありがとうございます。
次の記事でお会いしましょう。

またねー!


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