ある夏の日と豆腐
冷奴が好きだ。
パックから豆腐がプリッと飛び出てくる瞬間もたまらない。
包丁で切り込みを入れて、水で戻したワカメをたっぷり載せる。最後にオカカをトッピングして、醤油をたらせばできあがり。
できた冷奴を、崩さないように口まで慎重に運ぶ。
そーっと、そーっと。
それでもいくつかのオカカは我慢できずに宙を舞う。
ここで気を取られてはいけない。
動揺すれば、豆腐が崩れてワカメと一緒に塊になって落ちてしまう。口に入るのは、醤油すらかかっていない土台だけになる可能性がある。
パフェでいったら、1番下のコーンフレークだけを食べることになる。そんなのいやだ。
そーっと、そーーっと。
無事に成功すれば、豆腐の冷んやりとした食感とワカメの水々しさ。それに醤油のしみたオカカの味を楽しめる。
うーん、美味しいっ!
これは、たまらない。
たまらなくなって、もう一個と早々に箸を伸ばす。今度は急いだせいか、豆腐が割れて崩れてしまった。
箸に残った豆腐を口にポイっと入れて、落ちてしまった片割れを急いで拾いにいく。
あ〜、美味しい。
崩れていても、冷奴は本当に美味しいのだ。
ある夏の日に、汗だくで目を覚ました。
パジャマは汗をすっていて、身体に張り付いてくるのが気持ち悪い。
寝る前には涼しくて冷房を切っていたけれど、今朝から太陽がやる気を出したらしい。にくらしいやつめ。額や首筋から汗がおちる。
「お腹すいたぁ。」
と、呟いて冷蔵庫を開けた。
ヒンヤリした冷気が顔に当たって気持ちがいい。ずっとこうしていたい〜。
っと、あぶない、あぶない。涼んでいる場合ではなくて、朝ごはんを作らなくては。
冷蔵庫を見回しても、すぐに食べれそうなものは何もない。卵は昨日の朝に使い切ってしまった。野菜はあるけれど、朝から気合の入った料理をする気分ではない。
使えそうなのは、パックの豆腐だけだ。
パックの豆腐。
そうだ!
名案を思いついて、豆腐をとりだした。最近お気に入りの濃い絹豆腐。
お味噌汁に入れても美味しいし、もちろん、冷奴にしても美味しい一品だ。
「朝から料理する元気なんてないんよね〜。」
独り言を言いつつ、キッチンから小さなスプーンと醤油を取りだす。
ふっふっふっ。
これから起こることを想像して、笑いがもれる。
豆腐と醤油をテーブルに置いて、
まずは、ぺりぺりっと豆腐のフィルムを剥がす。
豆腐のツヤツヤした表面が現れた。
その真ん中に、スプーンをサクッと入れる。
一口、二口。
うん、美味しい。
そしてできた空間に、醤油をちょっとたらす。
ひとすくい。
「う〜〜〜ん、美味しい〜〜!」
シンプルゆえの美味しさ。とまらない。半分ほど食べたところで、ちょっと物足りなくなってきた。なにか足らないような。
調味料をゴソゴソとあさる。
「あっ、これ合いそうじゃん!」
取り出したのは、ごま油だ。
これから起こるであろう味のハーモニーを想像して、ご機嫌になりながらテーブルに戻る。
かけすぎないように慎重にごま油を傾ける。醤油にごま油が混ざって、光を反射した。
絶対、美味しいやつじゃん!
パクリ。
「うまーーー!」
と、とまらん!
パク、パク、パク。
豆腐一パックはあっという間に消えてしまった。
「あーー、美味しかった。」
いつものような王道の冷奴もいいけれど、思うがままに食べる豆腐もとってもよい。
「あっ。」
「夕飯のお味噌汁に豆腐をつかおうと思っていたのに、食べちゃった。」
買いに行かなきゃ。
ある夏の日の出来事だった。
本日もお読みいただきまして、ありがとうございます。
また次の記事でお会いしましょう!
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