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黄ばんだワイシャツは妻へ、ではない。

夫のワイシャツが黄ばんだので、スーツ屋さんにワイシャツを買いにいった。どうやら面接用に必要らしい。

スーツ屋さんは近所に2店舗ある。一つは販売実績No.1の某店、二つめは品質なら●●のフレーズでおなじみの某店。

どちらも以前から利用していたが、後者のアプリがたまたまスライド先の近くにあったので、今回はこちらを利用することにした。

店内に入りワイシャツを探していると、店長らしき人が駆け寄ってきた。

「なにかお求めですか?」

「面接で着る用のワイシャツを探してまして」

夫が店長らしき人に訪ねた。ネームホルダーに『店長』と書かれていたので、以下店長と呼ぶことにした。

素人が選ぶワイシャツより、プロが選んだワイシャツのほうが信頼性は高い。お勧めされたワイシャツを2点選び、いま流行りの穴なしベルトを購入した。3点セットでおよそ3000円引きはお得中のお得だ。

ここまでがテンプレ。問題はワイシャツの説明を受けている最中に発生した出来事だ。

店長「ワイシャツはすぐ黄ばんでしまうので、小まめに洗ってくださいね」

それはそう。放置すると皮脂汚れが浮かんでくるためだ。「お二人は結婚されているので大丈夫だと思うんですが、単身の人は洗わずに放置しちゃうことが多くて。うっかりワイシャツが黄ばんでしまった、という話をよく耳にします」とご丁寧にアドバイスをくれた。

私は内心ヤレヤレ顔で「これが俗にいう、世間の常識か」と思いながら聞いていた。”夫のワイシャツは妻が洗う”なんて、どこの国のルールなんだ。私だって、夫のワイシャツ着たことないのに。

「炊事洗濯は妻の役目」と命じられると、申し訳ないが反論したくなる。やりたくないものを押しつけられるのは、どうしても嫌だと感じる。

私は家事が苦手だ。対して夫は、家事が得意だ。特に洗濯物をたたませると、彼の右に出る者はいない。うそ、いっぱいいる。

夫は一人暮らし歴が長かったので、世間一般の男性陣よりも自立心がある、と客観的に見ている。家事面で私に頼ることは滅多にない。あまりにも家事バランスが崩れると、ふつうに叱られる。私たちは平等なので。

もちろんワイシャツに関しても、着後は洗濯とアイロンをかけ、衣装棚に収納している。初対面の夫婦のことなんて、他人には知る由もない。しかし、さも当たり前のように”洗濯は妻がやるもの”になってしまうと、途端に笑いがこみ上がってしまうのである。

おそらく店長の妻にあたる人は、ワイシャツを小まめに洗濯してアイロンをかけたあと、来たる夫の出勤日に備えて「最高の状態」に仕上げてから衣装棚に保管しているはずだ。

正直なところ、見習いたい。やりたいかと問われたら、是が非でもやりたくない。洗濯はするにしろ、人生で一度もアイロンをかけたことのない私は、妻失格の烙印を押されてもやむを得ないだろう。

あえて声を大にして主張するなら、私だって衣装棚の奥でしわくちゃになったブラウスにアイロンをかけてもらたい、になる。やってない側の意見がこんなにも説得力に欠けるなんて驚きだ。実家の母に聞かれたら「あんた、ほんとあかんで」と苦言を呈されていたに違いない。こんな娘でごめん。

そんなことを考えながらレジに立っていたら、「新作のお酒なんですよ。よかったらどうぞ」と店長から2種類のハイボールをもらった。アルコール度数はどちらも7%。ほろよい3%でちょうどいい私は「きっと飲めない」という先入観でいっぱいになった。

先入観は、時にチャレンジ精神をダメにする。アルコール度数が高いお酒は飲めない。では味はどうか?まだ試してもいないのに、そういった先入観で取捨選択をするのはいかがなものか。今回に至っては無料だ。条件は悪くない。

スーツ屋さんの店長も、私と同じ「先入観」に憑りつかれているかもしれない。もっというなら、ワイシャツの洗濯は奥さまではなく、店長自ら取り組んでいるかもしれない。ぜんぶ私の先入観で、思い込みの可能性も考えられる。

それでも私はワガママで、やりたくない家事はやりたくないし、家事が苦手な人であれば、帰る家が同じ人たちに協力してもらえばいいなと思っている。 

許される環境だからこそ、ありがたいと毎朝手を擦りつける。叶えるには手放しで喜べない日もあったけれど、いまが幸せなら万事解決だ。

7%のハイボールは、今夜の夕食にでも登場させよう。

読んでいただき、いつもありがとうございます。とても嬉しいです!