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思いを込めて経営計画を語れますか?

御社の経営データをAIに与えれば、それらしい中期計画が描かれる日もそう遠くないという話があります。外部環境・内部環境を分析していくつかのオプションを出すのは、すぐにでもできるでしょう。おそらく精度も人間が考えるより高いですし、何よりスピードが違うはずです。1週間かかっていた環境分析が、タップ一つで目の前に現れる、そんな時代になっています。

では、AIが示した中期計画があれば経営はうまくいくのでしょうか。
計画は、そこに書かれたことを粛々とこなせばうまく行くわけではありません。実行するための力が必要です。また、進んでいくにあたって、障害もあるはずです。つまり、乗り越えるべき適切な課題を設定し、実行することで会社の実力が高まっていくのです。したがって、実行するのには困難を伴うところもあります。それでも「これこそはわたし達が実行するべき計画だ」と社員が思えるかどうかが大切です。そこで大切なのは、経営者が思いを込めて計画を練り、語ることです。

経営計画でダメな例としてよくあるのは「キレイすぎる」というものです。うまくまとめてはあるけど、ただのお題目になっているという意味です。なぜダメなのかと言えば、経営者が自分と向きあえていないからです。この会社を通じて何を実現したいのか、どのように社会に貢献したいのか、そして、それによって自分はどのような存在になりたいのか、その思いがなければ社員はおろか、自分を動かすこともできません。

多くの成功した経営者のエピソードを調べてみると、必ずどこかのタイミングで使命感や志をまとめ、社員に問いかけるというものが出てきます。あの松下幸之助さんも最初から水道哲学のような理念があったわけではなく、従業員が増える中で、経営者としてこの会社が何者であるかを示す必要性を感じたと著書の中で書かれています。一人でやっているわけではないからこそ、常に立ち返る大切な思いを明確にしておく必要があるのでしょう。

では、どのようにして自分の思いを見出していけば良いのでしょうか。私が経営者の皆さんと実践しているのは、自分や自社の「来し方、行く末」を語るというものです。どのように歩んできたのか、何にこだわって時間を使ってきたのか、今後どうしていきたいのか、どんなロマンを持っているのかをお聴きし、感じたことをフィードバックするようにしています。また、経営計画を検討するプロジェクトにおいても、参加者各自にこれまでの仕事経験や人生経験を振り返るワークをしていただくようにしています。その一つの例が下の「ライフラインチャート」です。

図1

「ライフラインチャート」は、これまでの人生の流れを1本の曲線で表現したものです。時系列でキャリアを振返り、充実度の山谷に着目することで、自分のターニングポイントを発見することができます。

ある会社のプロジェクトでのことです。参加者にライフラインチャートを書いてもらい、互いにインタビューしあうというワークをやりました。曲線が落ち込んでいるところや回復しているところについて、どんなことがあったのか、なぜ落ち込んで、どうやって回復したのかという問いに答えていきます。そうすることで自己理解が進んでいくのです。そして、最後に「今後どうなっていきたいですか」と問います。このとき参加者の中に「分からない」という方が出てきました。理由を聞くと「これまでも会社に仕事を与えられてきたので、自分では描きようがない」という回答でした。この答えについて、皆さんはどう思いますか? 私は、「こわいな」と思いました。様々な経験を積んで、業務のノウハウを持っている方が自分自身の行く末を描けないのです。自分の存在意義について考えないまま、来てしまった結果です。それでも仕事はもらえる、だから食べてはいけます。

さて、人を食べさせなくてはならない経営者の場合は、どうでしょうか。「これから先は描きようがないです」と言うわけにはいきません。自分と向き合い、自社の存在意義を考え続けないとならないのです。逆に言うと、存在意義や大切にすべきことに共感を得られれば、そこに希望を感じた社員が自らの知恵を活用してくれます。だからこそ、思いを込めて経営計画を練り、語ることが大切なのです。

AIがどんなに進化しても探してくるビッグデータに思いは存在しません。経営者の心の中にしかありません。

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