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イノベーションを生み続ける組織は、社長が一貫してお客様の方を向いている

お客様第一主義、といってあまり反対する人はいないと思います。ただ、それがなぜ大切なのかを考えることは少ないように思います。

社長が、お客様第一ではないと、組織は保守的になる構造的欠陥を抱えています。逆に、お客様第一を貫くことで、イノベーションを生みつづける組織になるというのがわたしの考えです。お客様から学ぶ組織を作るのは、経営者の姿勢にかかっています。

社長の上役はお客様である

伝説の経営コンサルタント、一倉定さんの「マネジメントへの挑戦 復刻版」さすがに珠玉の言葉が並んでいます。

経営担当者にとって、ほんとうにたいせつなことは、下を向くことではなくて、まず上を向くことである。経営者が上を向く、ということは、顧客のほうを向くことである。よい社長、よい経営担当者になるまえに、顧客にとってよい会社、上役からみてよい部下になることである。 よい部下になれないものが、よい上役になれるわけがない。よい上役になろうとするまえに、よい部下になることなのだ。では、よい部下の態度とはどういうものであろうか。 それは、「上役は自分に何を求めているか」をはっきりと認識することである。このことは非常にたいせつなことである。というより根本的な問題である。それにもかかわらず、これをたしかめようとせず、自分の得意なもの、関心のある事がらのみに心をうばわれ、それを部下に要求することが自分の仕事だと思っている人々が少なくない。
出典:「マネジメントへの挑戦復刻版」一倉定


社長は組織の構造上、上役がいないと考えるのが普通です。だから、下ばかりを見ることになる。社員も社長だけを見てしまう。結果、社長も社員もお客様を見ること、お客様から学ぶことを忘れてしまいます。これを防ぐべく、「社長にはお客様という上役がいる」とするのは、ものすごく分かりやすい指摘です。

社長がお客様を見れば、社員のフォロワーシップも開発される

もう少し詳しく、見ていきましょう。社長が、お客様を上役だと思わないと何が起こるのでしょうか。ここで「フォロワーシップ」という考えを参照してみます。

フォロワーシップ

理想的なフォロワーは、上図の「協働者」ように組織の成果に貢献し、上役に対しても、言うべきことを言う人のことです。なかなかこういう人はいないですよね。多くは、図の実務家ゾーンに留まると言われます。空気を読みながら、自分も納得のいく範囲で行動するのです。例えば、お客様からクレームをいただいたとして、その原因となるミスが発生しないような対応は、ほとんどの人がやると思います。しかし、「そもそもその業務が必要か?」といったクリティカルな発言は控えがちです。なぜなら、社内の利害関係が多かれ少なかれ絡み合うからです。多くの人は、日々仕事をする中で、おかしいなと思いつつも、今まで通りのやり方で目の前のことを片づけていきます。そうやって少しずつ、会社は保守的になってゆきます。そうなると環境変化に短期的には対応できても、大きな変化には対応できません。

全員が理想的なフォロワーになることは難しいかもしれません。特に、上役に対して適切に物を言うのは難しい。普段の業務の中では、上役の方が正解を持っていると考えられているからです。少なくとも、短期的にはそれは正しいです。ただ、長期的にはどうでしょうか。誰も正解は持っていません。だから「それはお客様の役に立つのか」という問いが当たり前に立つ組織にしていきたいところです。そうすれば、物の言いやすさ、受け止めやすさが変わってくると思います。

そう考えるてくると、社長がその上役であるお客様に対してフォロワーシップを発揮することで、社員のフォロワーシップが開発されると言えそうです。

アイリスオーヤマの大山会長が貫いたこと

経営者としての私がしてきたことは、決して難しいことではありません。 製品開発に自ら参加して、「本当にお客様の満足という視点に立った製品作りができているか」をつぶさに、誰よりも厳しく見てきました。担当者がいくら優れた製品だと主張しても、私は必ず「おまえの嫁さんなら、この製品を買うか」と聞きます。 それで返事に困るような製品は、市場に出しても十分な満足感が得られる製品ではないからです。「新しい価値を創造して、潜在的なニーズに応えるからこそ、利幅が確保できる。それができない製品は提案するな」と社員に言い続けています。
出典:『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』大山健太郎

上記は、アイリスオーヤマの大山健太郎会長の著書からの引用です。大山会長は、大阪で父親が経営していた会社を19歳で引き継ぎ、経営者を56年間務めてきました。一介の町工場を7000億円企業にしてきた名経営者です。大山会長も一倉定さんの薫陶を受けています。

上記の書籍では、アイリスオーヤマの「ユーザーイン」発想の仕組みをはじめ、様々なヒントが書かれています。

私は、製品開発のヌシにならないように、全部門の責任者が参加するプレゼン会議で、「なぜ、この製品にゴーサインを出すのか」「なぜ、この製品はもっと改善が必要なのか」という意思決定の一部始終を見せてきました。そのノウハウは決して高度なものではなく、ユーザーの立場で買うかどうかを考え、個々の収益予測で判断するだけです。社員が計画通りに仕事をするのは、全部門長が集まる月次会議で細かく進捗をチェックする仕組みがあるからです。個々の製品において利益を確実に出せるのは、私が特別なノウハウを持っているからではなく、社員がICジャーナルという情報網の中から損益改善の方法を見つけてきたりするからです。私は会社のオーナーではあるが、私がいなくても会社が回るようにしてきました。私がヌシになってはいけないのです。仕組み化を進めればこのように経営がぶれず、事業承継にも有効です。
出典:『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』大山健太郎

詳細は、ぜひ本書をお読みいただければと思いますが、仕組みが優れているのは間違いありません。ただ、これを表面的に真似てもうまく行かないと思います。根幹にあるのは、一貫してお客様の方を経営者が向いて、判断する、その姿勢を社内に示していることです。そのためには、自分にはお客様という上役がいることに気づくことが大切です。

部下の方ばかり向いてしまう社長と話していると、自分が結果責任を持つことに不安を抱えていると感じます。この不安の出方はさまざまですが、「いいから俺の言うことに従え」というタイプもいれば、「みんなで考えてください」というタイプもいます。どちらの場合も、「結果責任への不安の裏返し」のように感じるのです。いや、大事ですよ、この自分の後ろには誰もいないという責任感。ただ、言葉遊びのようですが、持つべきは使命感です。どうなったらお客様が喜んでくれて、社会が良くなるか、ということです。つまり、「あなたの上役であるお客様は何を求めていますか」という問いに社長自らも答えようとすれば良いのです。

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