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フィボナッチは鳳梨を食べたか?/pineapple as a depreciable asset

 パイナップルは食用の果実をもつ熱帯植物で、小さな低木として成長し、受粉していない個々の花が融合して複数の果実を形成するパイナップル科の多年草である。アジアではハラ、ポーロ、ほうり、オンライ、フォンリー、黄色くて甘いやつとかなんとか呼ばれ、果実はおおむね黄色くて甘い。

 高さは1メートルから1.5メートルに成長し、もっと高くなることもあるが、ならないこともある。果実には目のような形状が螺旋状に並んでおり、そのパターンは自然界に多く見られるフィボナッチ数を示している。

 フィボナッチは中世で最も才能あると言われたイタリアの数学者である。その名前は「ボナッチの息子」を意味するが、本名ではない。本名はレオナルド・ピサーノという。「ボナッチ」は父親であったグリエルモのニックネームであり、日本で言えばブタゴリラと呼ばれて親しまれた男の息子がブタゴリラJr.と呼ばれて、それがそのまま苗字として歴史に残るようなものである。

 パイナップルがヨーロッパにもたらされたのは16世紀以降であるため、ある意味ではブタゴリラJr.みたいなものであるフィボナッチが存命中にパイナップルと出会ったことはない。出会っていたら歴史が変わっていた可能性もあるが、変わったとしてもおそらくウィキペディアに「フィボナッチはパイナップルを食べた」という一文が加わる程度のことである。

 フィボナッチ数というのは「前の2つの数を加えると次の数になる」数列である。パイナップルとは関係がなくもないが、フィボナッチ数がなくてもパイナップルはパイナップルであり、パイナップルがなくてもフィボナッチ数はフィボナッチ数であることから、仮にまったく関係がなくともとくに支障はない。

 全体的にごつごつしていて尖っている部分が多く、というのはもちろんフィボナッチその人ではなくパイナップルのことだが、これで人を殴れば鈍器としても申し分ないほど固くて重い。鋭利な刃物を手にする場合にはこのかぎりでなく、斬りつけてしたたる果汁とその果実は酸味があって甘みがつよいという点で、オレンジによく似ている。ただしそれ以外は似ても似つかない。

 日本では1830年に小笠原諸島の父島に初めて植えられたと伝えられるが、植えるためにはまず島に持ち込まれることが必要なはずであり、なぜ上陸する前に植えることが可能だったのか、その点については記録が残っていない。そんなことよりも島民が初めて口にした、めちゃめちゃ甘い果実に対するリアクションのほうがよほど重要であるようにも思われる。しかしその点についてもやはり、何ひとつ書き残されてはいない。

 法人税等の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に含まれる「生物の耐用年数表」によれば、パイナップルの法定耐用年数は3年である。放置していれば1年もたたずに腐るパイナップルの耐用年数が3年というのは直観に反して不可解におもえるが、法律というのはえてして不可解なものである。


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