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企業の永続的発展のための “Design as R&D”とその実践手法


はじめに


新年度を迎え多くの組織が新たに目標を設定したり、これまでの取り組を継続していく事を確認し合ったりしている季節かと思います。僕たちIDL [INFOBAHN DESIGN LAB.](以下、IDL)も、年度末から期初にかけてこれまでの取り組みを棚卸しし、再確認し合う事を通して、組織運営や顧客への価値提供の強化を行う為の議論をしてきました。その中から今回はIDLが考えるDesign as R&D(以下、DRD)について改めてお話ししたいと思います。


Design as R&D


いきなり核心めいたことになりますが、DRDの背後には、革新性(イノベーション)と、持続性(サステナビリティ)という概念が控えていると考えています。この考え方を企業経営とデザインの観点から綴ったこちらのポストでは、ロベルト・ベルガンディの「デザイン・ドリブン・イノベーション 」を引用しながら、企業の永続的な価値創造を支援する為に、製品・サービスを通して伝える「意味」の重要性が言及され、「技術だけではなく、『意味』そのものをR&D(研究開発)の対象として扱うことによって革新(イノベーション)を目指すべきである」との提言も紹介されています。また、企業におけるデザインの拡張、具体的にはバリューチェーンにおける「付加価値」としてのデザインからバリューチェーンをも変革しうる企業戦略の推進力としてのデザインについて指摘されています。

ここに書かれた内容を考慮すると、製品・サービスに込める「意味」は、企業戦略をも左右するデザインとも強い親和性を示すことが容易に連想できます。IDLでは、「意味」を考え、「意味」を作り出す営為としてのデザインも、企業の持続的発展の為に中長期スパンで思考させれるR&Dの対象と定義できるものと考え、Design as R&Dというコンセプトを掲げ、さまざまな方々との価値共創を行っています。


DRD SpiralとMaking & Meaning


IDLは、DRDを推進するのに役立つDRD Spiralという思考のフレームワーク(下図参照)を持ち、Making&Meaningという態度を有しています。

DRD Spiralは製品・サービスなどの事業開発工程をPoV (Proof of Vision) / PoC (Proof of Concept) / PoB (Proof of Business)の3つに分け、新奇性を予見する特殊解から事業性を占う一般解の探索へと思考/試行を進展していく為のフレームワークです。その過程で、製品・サービスに込めるビジョンストーリーを描き、それらを形のある具体的なアーティファクトに落とし込み、事業のフィージビリティを検討するビジネスモデルのデザインを行います。

この一連の行為は、「意味」を考え、それを自省的に批判する事でその「意味」を更新していく作業ともいうことができ、意味づける行為と意味を作る行為を即興的かつ臨床的に繰り返し行っているものです。この継続的な行為こそ、先に挙げたMaking & Meaningであり、作りながら考え、考えたことを形にするといったデザインの本質的な行為だと考えています。

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「デザイン知」のアーカイブ


Making & Meaningを実践していく過程で、他のプロジェクトや他のメンバーにも有用だと思える思考法やツールセットが生成されることが多々あります。デザインを科学的に分析することは極めて難しいとされていますが、「共通項」を切り出す作業は、デザインの普遍化に一役買うものと考えています。IDLではこうした日常の実践の中からこぼれ落ちる「知」を拾い集め、アーカイブしていく事を心がけています。

意味づけと意味づくりの中で立ち現れた道具としてのツール、ツールの使い方を示したテクニック、数あるツールとテクニックを掛け合わせてパッケージしたメソッド、これら3つの階層に分けられ、更新されていく「デザイン知」のアーカイブは、DRDを普及・推進していくのに不可欠なアセット群となると考えています。

殊更「デザイン知」の一つであるメソッドの一部は、サービスペーパーとしても提供しています(ダウンロードはこちら)。それ単体がプロジェクトの推進力として用いられる事もあれば、様々なプロジェクトの中に組み込まれ、プロジェクト固有のコンテクストを吸収しながら利用されることもあります。また、サービスペーパーとしてパッケージするほどでない些細なツール、テクニック、メソッドも順次何らかの形で公開していく事を検討しています。

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おわりに


今回紹介したDRDを起点としたフレームワークや態度、そして「デザイン知」のアーカイビングは、僕たちIDLが強い関心を示しつつも、まだまだ発展段階のものです。しかし、継続的に思考し、作り続けること、つまり辞めない事が価値になる行為だとも考えています。

あらゆる領域でイノベーションが期待されて久しくなり、IDLが取り組むプロジェクトも多くは企業や社会のイノベーションを支援するものです。しかし、それと同時に新しい概念や様式を定着させる為のオペレーションやその先にあるサスティナビリティへの思考と接続させることにも重要性を感じています。

DRDのコンセプトは、こうした「イノベーション」と「サスティナビリティ」の思考を併せ持った一連のデザイン実践です。科学的に示すことの難しいデザイン実践だからこそ、DRDが実践の中でどのように用いられ、解釈され、更にその姿を如何に変容させていくのかを記述することは貴重な記録になります。今後も、IDLで行われるMaking & Meaningを通したDRDの実践の記録を断続的にでもお届けしていけたらと考えています。

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