企業にとって「デザイン」はどのように扱われるべきか?ーデザインを研究開発対象として捉えるコンセプト“デザイン R&D”ー

このところ、『企業においてデザインはどう扱われるべきか?』について考えています。

デザインは、従来(特に日本企業においては)製品やサービス、そして事業自体を構成する企業にとって、一連の活動のほんの一部を指していました。マイケル・ポーターが著書『競争優位の戦略』で提唱し、広く使われるようになった言葉を用いるなら、それは『バリュー・チェーン』におけるプロセスですらなく、「付加価値」のひとつのようにして扱われてきたのです。

デザインがかたちづくるものは何か

しかし、近年デザインが示す対象、扱う範囲が拡張し、製品・サービス戦略のみならず、経営戦略を含む企業価値そのものとクロスオーバーしつつあります。(経産省が提唱するマニフェスト「デザイン経営宣言」を参照)

社会や産業、そして生活者を取り巻く市場の変化しつづけており、企業にとってのデザインの役割はもはや「付加価値」ではありません。製品・サービスや事業そのものをも含む企業の根底的な価値を意味づけ、バリュー・チェーン全体に影響を与える。さらには、従来のバリュー・チェーンそのものを解体・再構築する求心力にもなってきているのです。

バリューチェーンの解体・再構築は言うなれば、これまであった事業や産業の構造そのものがガラリと変わってしまうことを意味します。たとえば、企業にとってはもはや自社が存在すべき業界や、競合すべき他社、果ては自分たちが何屋さんなのかという存在意義そのものが変わってしまう。このような変化とともに、企業にとってのデザインの役割は、単に製品やサービスそのものをかたちづくるための手段だけではなく、上述したような「変化」そのものをかたちづくる行為になっていくのです。

「意味」自体を転換する必要がある

話は少し飛びますが、この20年近く、企業におけるイノベーション発想のためのアプローチとして注目されてきた、思考法であり実践論のひとつに「デザイン思考」があります。

デザイン思考は、さまざまな領域で用いられていた創造的思考法や現状革新のための実践論をアメリカの有名なデザインファームであるIDEOが体系化、メソッド化したもので、特に問題解決のための創造的アプローチとして多くの企業が導入しています。

デザイン思考は問題解決のための思考法としてはもちろん、多くの関与者(企業外のひとたち、たとえばユーザーも含む)をアイデア開発のプロセスに参加させ「共創(co-creation)」するためにも有益な手法だとして評価され、多くの企業に受け容れられてきました。

しかし片方で、インターネットの急激な浸透や技術進化などによって世の中はますます便利で、豊かになりました。便利で豊かな時代においては、およそのモノやサービスは改良され、洗練されて値段も下がり「だいたい悪くない」状態になっていくのです。

「だいたい悪くなくて、そこそこよくできている」製品やサービスばかりになってくると、ユーザーである消費者にとってなんとしても解決したい「問題」が徐々に少なくなっていきます※1。そうなると、問題解決を最大のゴールにおいたデザイン思考にも、画期的なアイデアを生み出すうえで限界が訪れ始めています※2。

こうした背景のもと、問題解決を主軸におく「デザイン思考」とは別のアプローチが注目されつつあります。ロベルト・ベルガンティらが提唱する製品やサービスにおける「意味のイノベーション」を見出すことを主軸においた「デザインドリブンイノベーション」です。

本稿では意味のイノベーションおよびデザインドリブンイノベーションには詳しく触れませんが、乱暴に要約すると、「問題解決だけでなく、今後解決すべき『新しい問題』を見出すためには、世の中に対して企業が製品やサービスを通して提案すべき『意味』自体を転換する必要がある。そうして見出された『新しい意味』こそが、市場や社会におけるイノベーションを起こす」という考え方です。

「意味のイノベーション」においては「意味」そのものが、企業戦略や製品戦略のすべての出発点となる最重要なものなので、ベルガンティは著書『デザイン・ドリブン・イノベーション』で、「技術だけではなく『意味』をR&D(研究開発)の対象として扱うことによって革新を目指すべきである」とも提言しています。

コンセプトは「デザインR&D(DRD)」

話を戻すと、この考え方はデザインに関してもかなりの部分で当てはまるのではないかと考えられます。これからのデザインは、個別の製品・サービスの開発において行われる短期的な行為だけではなく、中長期スパンで継続的に基礎研究が行われ、応用研究がなされたうえで個別の製品、サービス開発に落とし込まれていく——もはや企業の永続的価値創出活動にとって最も重要な「R&D(研究開発)」活動として位置づけられるべきではないでしょうか?

見方を変えると、デザインを研究開発の対象として扱うべきは、企業においてはデザインの専門部門にとどまらないでしょう。事業開発や既存事業の意味論的展開を担う部門、そしてマーケティングや文字通りの開発部門に至るまで、価値創造に関わるさまざまな部門がそれぞれの役割領域においてそのミッションを担うべきであると考えます。

わたしが所属するデザインチーム、INFOBAHN DESIGN LAB.(IDL)は、このようにデザインを研究開発活動そのものとして扱うコンセプトを「デザインR&D(DRD)」と定義し、個別の製品・サービスのデザインのみならず、企業にとって重要に扱うべきデザインテーマ(イノベーションのための研究課題)を探索。さらに新しい「意味」のデザインを経て、個別の製品・サービスへと展開していく営みを、継続的かつホリスティックに行うことの重要性を提案したいと考えています。


※1:もちろん厳密にはまだまだ問題を抱えている製品やサービスはあります。ここで言いたいのはそのようなレベルの製品やサービスは従来型のユーザー中心デザインなど、問題解決型アプローチがまだまだ有効であるが、問題解決だけでは発展の限界にきているようなものはどうすべきか?という論点であることをご了承ください。

※2:本来的な意味のデザイン思考(Design Thinking)は単純な問題解決のみを目的としているのではなく、問題の再定義による根本的な改善や、上述の「デザインドリブンイノベーション」をも範疇に含んでいるのですが、このコラムでとりあげている「デザイン思考」は、そのような本質的な意味でなく、表層的に「問題解決手法」として誤解・曲解されてしまった「デザイン思考」を指しています。

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