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コンポストとローカルとマンジーニと

LFCコンポストをはじめてみました

今月8月に始めたこともあり、数十年ぶりに取り組む夏休みの自由研究のごとく、生ごみ回収の様子を毎日記録しています。
LFCコンポストの説明に関しては公式サイトをご覧いただきたいと思いますが、簡単に説明すると、家庭で出る生ごみを回収して、微生物の働きを活用して生ごみを分解・発酵させ堆肥化する取り組みです。コンポストにはLFC以外の製品や方法もあまたありますが、LFCのコンポストは分解・発酵に関わる人間と微生物の毎日の関係づくりのハードルを下げてくれ、初心者にもはじめやすい工夫がなされている製品だと感じています。

今回は、コンポスト活動の詳細を語るのではなく、活動を通しながら実感し始めている人間と微生物が作る循環の規模感、その先にある生活や社会との接続に関してデザイン研究者のEzio Manziniの論稿を引きながら考えてみます。

「ローカル」の再発見

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昨今、サーキュラーデザインや持続可能性のためのデザイン(Design for Sutainability)といった環境や社会に配慮したデザインが広がっています。僕個人がコンポストを始めたように、市民一人ひとりが、今当たり前に享受している生活を将来も継続させるために「ローカル」での循環を作っていく取り組みが各地で勃興している印象があります。「ローカル」はコミュニティなどの言葉で言い換えて使われることもありますが、いずれにしても小さな範囲、近い距離感といった意味合いを共通の認識として背後に持ち合わせているようです。

「ローカル」という言葉は、一昔前までは山間部の村や田畑の広がる地域を対象に使われてきました。もちろん、こうした地域は今でもあります。しかし、Manziniによれば、地理的に孤立し、文化的にも閉ざされているとも取れる上記の「ローカル」とは真逆の意味を持つ「ローカル」が昨今では立ち現れているとのことです。コンポストの活動の中で使う「ローカル」という言葉は、後者の意味を持ち合わせていることになると思います。特定地域の資産、それは文化遺産のような特別なものではなく、日常そのものや、そこで暮らす人々とのつながり、その場所で生産されるものといった当たり前の日常の中で立ち現れる些細な物事を共有する共同体であることを前提としています。更に、こうした無形の社会資本によって形成される価値を一つの場所にとどめておくのでなく、外の世界に対して開き、共有していく土壌を持ち合わせているものだと解釈できます。こうしてその土地固有の資産が形成され、活用され、消費され、循環し、必要とされる状態に還元されていく、ほど良い規模感、距離感が新たな意味を帯びた「ローカル」として、社会ー空間的に認識されていくのではないでしょうか。

更に、Manziniはソーシャルイノベーションの文脈で頻繁に使われる「ローカル」は固有の資産や機会の発見や循環を促すノード(結節点)であり、それらを結んだエッジ(線)によって構成されるネットワーク自体を指すとも言及し、その網の目を密に張り巡らせていく活動、つまりローカルネットワークの形成を推進するCreative Communityの重要性も指摘しています。

レイヤー構造としての「ローカル」

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こうしてManziniは、「ローカル」、つまり地域コミュニティそのものを豊かにしていくことと合わせて、「ローカル」同士が繋がり、互いに影響を及ぼし合える状態をも合わせて「ローカル」を価値づけています。それはCosmopolitan Localismという象徴的な言葉に代表されます。それまでは閉鎖的で大きな社会的インパクトを与えることとは無縁だと思われていた「ローカル」ではなく、分散型テクノロジーまたは分散型思考を用いて「ローカル」同士の大きなネットワークが構築され、お互いに開けた状態で相互補完的であることを「ローカル」の価値として付加しています。例えば、簡単な話ではありませんが、コンポストを行うことで特定地域内の自給自足が高まり、分散的な生産と消費が行われるとしたら、生ごみが地域の自給自足の一助となるように、その過程で生じた知恵やテクニックは、自分がいる「ローカル」を飛び出して他の「ローカル」を豊かにする資産としても援用されていくことも想像ができます。

こうして「ローカル」が固有の特徴を持ったノードとしての豊かさを増し、更にノード同士をつなぐエッジとしての機能(結節点で生み出された知を他に転用していくための仕組み)を兼ね備えることでネットワーク化された「ローカル」が構築されます。こうなると「ローカル」のスケール感は消失し、地理空間的制約から解放され、社会的な影響力持つ高次の役割を備えた「ローカル」が新たに登場することになります。

SLOC(Small, Local, Open, Connected)の視点から描く未来のシナリオ

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Manzineは「ローカル」を複層的なネットワークとしてソーシャルイノベーションを推進する上での中心的な概念と位置付ける中で、「Local」と並置されるキーワードとして「Small」、「Open」、「Connected」を提起しています。これらキーワードの背景にある、適切な距離感や規模感の構築と相補的に作られる開放的で接続可能なネットワーク空間の構築という思想は、望ましい社会へのシナリオ作りに必要な要素として提示されています。そしてソーシャルイノベーションが求める先の望ましい未来に対して、分散的に知を集積していくためのcreativityや、テクノロジーに対する理解の必要性を前提としながらも、消費経済や、合理性を追求する経済価値が大きな指標となる現在の社会とは異なる代替的な社会が実現した状態を描くことを主張しています。論考の最後に”Something else”という言葉が挙げられていますが、大きな市場経済の中でのジレンマを内包しながらも、ソーシャルイノベーションに取り組む市民が、「ローカル」を基盤とした生活の豊かさ(Well-being)を物質的、社会的、環境的な側面から捉え直すことに期待した象徴的なフレーズです。

コンポストの活動はまだ始めて2週間足らず。SLOCの概念を用いて活動を解釈できたにせよ、まだまだ社会的な影響力は無いに等しい状態です。何を買うか、どう捨てるか、頭では理解しているサーキュラーデザインの必要性とて、実体験することで継続する難しさや無力感も湧いてきます。しかし、ゴミの選び方、刻み方、こうした小さなアクションではありますが、熟成された堆肥を少し先の未来でどのように使おうかと考えることで、局所的ではありますが明らかに思考と行動の密度が変化てきます。

こうした個人の活動とそれに伴う変化は、LFC会員の専用LINEコミュニティでも共有されています。まさにネットワークを利用して共有資産、集合知が蓄積されていっております。京都の中京区に住み一個人の活動として始めましたが、まだ見たことのないとて、他の「ローカル」という接続先があることは続けるに十分なモチベーションになります。こうして考えると、「ローカル」の複層性をデザインしているLFCは、サービスのデザインとしても上手く機能しているのではないかとさえ思えてきました。ここまで、コンポストを起点として「ローカル」を考えてきましたが、「ローカル」をアップデートするための手段としてのサービスデザインの可能性にも新たな興味が湧きます。いずれにしても身近で身の丈に合ったことから始めてみることで視座が上がり新しい視界が開けたことは間違いなく、Small, Local, Open, Connectedの視点を深めながらから現実的な未来シナリオを思い描いてみるのも未来デザイの方法としてユニークで面白そうです。

お知らせ

僕の所属するIDL [INFOBAHN DESIGN LAB.]が支援する丹後リビングラボが着地型事業創造プログラムを主催します。

テーマは「地域と都市のCo-Update(コ・アップデート)」「ローカル」の特色を肌で感じる機会になるかと思いますので是非参加をご検討してみてください!

参考文献

Manzini, E. 2014. Resilient systems and cosmopolitan localism — The emerging scenario of the small, local, open and connected space. CNS Ecologia Politica.
http://www.ecologiapolitica.org/wordpress/wp-content/uploads/2014/03/Resilient-systems-and-cosmopolitan-localism.pdf

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