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大学院への進学を検討する人に向けて

はじめに

自分は医師で現在も医学研究を続けているが、時々大学院進学に関して助言を求められることがある。現在も博士課程の大学院生の指導をしていること、自分自身も日本、スペイン、スイスなどで研究をおこなってきたこともあり、あくまで医学系かつ個人的な経験なので偏りはあると思うが一つの意見としてまとめてみることにした。

なお質問項目は大体以下のようなものなのでポイントごとに考えを述べてみようと思う。今回は私の略歴を提示するので、参考になりそうで興味が湧くようであれば次回より見てもらえれば幸いである。

  1. 大学院ではなにをやるのか

  2. 自分は大学院に進学した方がいいのか

  3. 自分は研究に向いているのか

  4. いつ大学院に進学するのか

  5. 進学先の選び方

  6. 在学中の生活費をどうするのか

  7. 学位が取れそうもない

  8. 学位を取ってどのような役に立つのか

  9. 学位取得後のキャリアパスはどのようなものがあるのか

大体、上記の質問が多いので順番に書いてみようと思う。ただし、私は実は博士課程は卒業してない、いわゆる論文博士である。しかも自分が人生の中でのハイライトだったと振り返る、スペインやスイスでの医者としての活動期間やスイスの大学で臨床疫学の資格講座を修了した後に日本で取得したので典型的なコースでは全くないことは念頭に置いていただければ幸いである。

学位取得までの略歴

私は1995年に大学を卒業し、外科系の臨床研修医として社会人としてのキャリアを開始した。その後2001年からスペインの大学病院で研修を受ける機会を得て足掛け3年半に渡り現地で過ごしたがこの時に独学で臨床研究という患者データを用いた研究を開始した。その後日本に帰国し市中病院でも臨床研究を続けていたが、2009年に退職を余儀なくされ、二年間某研究室で研究生として動物実験を行っていた。それらの成果が認められて2011年からスイスの大学病院に移り、ここでも医者として働く傍ら研究を続けながら現地の大学の臨床研究の資格講座に通い、この時独学から逃れて初めて系統的なプロによる教育を受けた。

この時に強く感じたのは独学では全く話にならなかったな、ということだった。異論のある人も多いと思うが、医学の教育でもそうだが全ての分野を「無理矢理」単位取得のために勉強するかしないかがプロとセミプロの差であろうと痛感した。現在はデータサイエンスやコンピューターサイエンスを「独学で」学んでいるが、不十分であることを意識してその道のPhDを取得しているプロらと一緒に仕事をしている。

スイスでの講習では、疫学理論、統計学理論、統計学演習(統計ソフト実技)からなり、レポートと試験があり出席も含め全てクリアしたら最後に資格をもらえるもので、かなり勉強してなんとか取得できた。ただ今から考えるとあれだけ苦労したものでも本当に基礎中の基礎であり、医者で言えば臨床研修の二年間を終えた程度のものだったという感覚である。

その後帰国し、現在客員研究員として所属している講座で勉強をさせてもらいながら少しずつ自分のプロジェクトをやり始めて現在でもまだまだ発展途上だと感じている。ちなみに学位は帰国してすぐに昔お世話になって先生の教室で過去の論文をまとめて論文博士を取らせてもらったが、これがないと実質的には研究継続は難しく、全面的にご協力いただいた先生にはいくら感謝してもしきれないと感じている。

私は医学系の中でも基礎系ではなく疫学系の研究なので基礎系にはあまり参考にならないと思うが、研究を本格的にやるようになって痛感するようになったのは、本当に頭脳勝負だなということである。

医者として5年10年経ってくると知識や技術が安定してくるため、勉強熱心だと自分で思っていてもほとんどは頭脳というよりは経験が上積みされていくのがほとんどで、本気で頭を使っていなかったなと気がつかされた。

例えば疫学理論は範囲が非常に広い上に次々と新しい理論が出てくるためこれを大雑把についていくだけでも大変なのだが、自分は統計学的詳細に興味があるためベースとされる統計学の部分も数学的証明を飛ばさずについていこうとすると日々大学数学の演習を行なっているような状態となり、数学的解釈をクリアしながら新しい疫学理論を読むというのは毎日受験勉強しているような状態なので寝不足で頭がぼーっとしていたり疲れているとそもそも文章の内容が全く理解できない。したがって勉強するには頭をクリアにするために仮眠を取ることが増えて、客観的に見てものすごく楽そうな毎日だと思われるが(実際そうだろうと思うが)、理解できないことが多いと結構辛い。

研究を自分の仕事として行っていくというのはこういうことが好きかどうかということもあるのだな、ということは一つ重要なポイントだと考えている。ちなみに研究室などにいるといろんなタイプの人に会うが、時々存在する綺羅星のような優秀な人はこの学習能力が凄まじい。研究というのは好きか嫌いよりもそもそも自分がそういう人間かどうかを見極めることは大変重要だと考えている。

ということで今回はこの程度で。全く反応なければ今回で終了にするので続きが読みたい場合はいいね!してください。