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⑤生命の味がする絶滅危惧の天然塩、海水を煮込む鉄鍋の購入を支援したい。

伝統的技法で、昔ながらの道具を使って作るこの天然塩はマングローブの森を巡ってたどり着く塩田で育まれます。驚くほどゆっくり、自然に抽出される塩は、天然塩という言葉では収まらないほどの豊かな旨味を含みます。その味は生命の味、大自然の味とも言えるものです。

今現在、この塩はわずか4家族の塩作り職人たちの手作業で作られています。20年前は、50を超える家族がそれぞれの庭先で、この塩を作っていたそうです。それがなぜ今はたった4家族だけになったのか?…それは、道具の老朽化と経済的に買い替えも難しい貧しい暮らしで、道具が新調できずに塩作りを断念して職を代えていったのだそうです。それでも、多くの人はこの塩田から離れることが出来ず、今では塩作りをしていないにも関わらず、ここに住み続けているのです。老朽化していった道具とは… 鉄鍋です。

海水を煮込んで塩を抽出する大型の鉄鍋が、この20年で価格が大高騰しました。この鉄鍋は、直径80センチ・重さ50キロを超える鉄の鋳物です。しかし、時代の流れで鉄鍋はステンレス素材に代わり、持ち運びが楽な軽いモノになりました。価格も安くなり、ちょっとした大家族なら買えるぐらいになりました。調理用ならば、それでも良いのですが、塩作りの現場では海水を最低でも4時間は強火で煮込みます。軽量化された鉄鍋やステンレス製の鍋では2日も持たずに焼けて穴が開くそうです。
では、その鉄鍋はどれぐらい高価になったのでしょうか? …20年前は5000ペソで買うことが出来たそうです。しかし、今はこの肉厚の鉄製の大型鍋は1社しか作れず、しかも受注生産です。なんと、30000ペソもするんです。この20年で6倍に値段が高騰した、と考えてください。塩作りをしている貧しい家庭では、容易に手を出せる代物ではありません。

この鉄鍋は重さ50キロを超えます。20年使い続けているのでいつ割れるか、心配が尽きません。

塩作りには、職人の技術や知識と同列で重要な要素がありました。それは長時間の強火の煮込みに耐えうる肉厚の鉄鍋が必須であることでした。この鉄鍋は金属疲労で定期的に割れてしまいます。早ければ数か月で、運が良くても数年で割れてしまいます。これは避けられないことです。問題は、今の価格では誰も買い替えることができないということです。鉄鍋が割れた時が、塩作りを断念して転職をする時なのだそうです。そうやって、多くの塩作り職人が転職をしていった結果、今では4家族だけが細々と塩作りを続けている状況になっています。4家族が一つの窯と鉄鍋で作業を分担しながら塩作りを続けています。20年以上使い続けているこの鉄鍋は、いつ割れてもおかしくない状態です。そのため、塩作り職人たちは ”今日も割れませんように…”、”今日は無事に塩作りが出来ますように…” と祈りながら作業を続けています。

塩田の土に祈りを込める職人さんの姿


生命の味がする天然塩は、職人さんたちの汗と祈りと、継続できますようにと願いも乗せられた特別な塩でした。マングローブの森からのミネラルと、塩を作る人々の願いが凝縮されて結晶化した光の粒でした。

私はこの塩を守りたい。この塩を育む自然環境を守りたい。この伝統技術を守りたい。

マングローブの森からのミネラルと、塩作りをする人々の祈りが込められた光の結晶です。


乾季の12月から5月まで、ほぼ毎日この窯で海水を煮込んでいる鉄鍋。
この地域で現存する鉄鍋は、これ1つだけになりました。
この最後の鉄鍋が割れた時、塩作りが終わるのかも知れません。


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