「ナチュールワイン」と呼ばないで♡
KAZU WINEの初リリースから、はや5ヶ月が経ちました。
皆様からのご好評をいただき、おかげさまで在庫もわずかとなりつつあります。
おかわりをご希望のお客様は、お早めに追加のご注文をお願い申し上げます。
この間、東京はもとより神奈川、広島、大阪、新潟でのワインイベントに呼んでいただき、いずれも大盛況となりました。
主催者の皆様、ご来場いただいたお客様、誠にありがとうございました!
以前は日本国内でワインの製造を行ってきましたが、拠点が海外へと変わったことで輸入の手続きが必要になったりと、これまでのやり方とは異なる経験を重ねました。
また、ワイン業界から離れていた3年間のブランクに、ナチュラルワインを扱ってくださる飲食店や飲んでくださるお客様の層が、以前とは比較にならないほどぶ厚くなっていると実感しています。
空前のナチュラルワインブーム到来
昔を振り返ると、ソムリエとして初めてナチュラルワインをお客様に注いだのは、かれこれ17年ほど前のことです。
当時は知る人ぞ知るマニアックな世界で、ともするとスノッブに見られかねなかったのが、この業界の特徴でした。
その後、既存のワインとはまるで異なるテイストに衝撃を受けた飲食店関係者がじわりじわりと増殖し、自分たちのお店でも取り扱いを始めていきます。
それと並行して、目利きのインポーターさんが優れた生産者のワインを次々と国内に紹介していったり、酒販店さんが精力的なプロモーションを展開してくださった
結果、ナチュラルワインは業界のいちジャンルの地位を築くに至りました。
しかしながら、2019年末のパンデミックの直前ぐらいまでは、現在のような爆発的な裾野の広がりはありませんでした。
それがいまや、お寿司屋さんや小料理屋さんのような和食系はもとより、町場の中華料理店やスパイスがっつりのインド料理店などでも、当たり前にナチュラルワインが提供されています。
おしゃれなカフェでも普通に置かれ、そこではコーヒーを飲むかのごとく、女子2人組が昼からグラスを傾けています。
このブームを象徴する出来事が、あのBRUTUSで「ナチュラルワイン、どう選ぶ?」と特集号(2022年5月16日号)が組まれたことです。
佐々木希さんの美しい横顔が印象的な表紙を眺めては、この業界もここまで来たか……と感慨に浸りました。
その呼び方、ぶっちゃけどうなんです?
ただ、いいことづくめではないと思うことも、最近はあります。
たとえば、イベントなどでお会いする方が、こうおっしゃることが増えてきました。
「ナチュールワインが〜〜〜」
ちょっと待ったァ!!!!
口にこそ出しませんが、内心はムズムズしっぱなしです。
そもそも、ナチュラルワインは各言語でこのように呼ばれています。
「ナチュラルワイン」は世界中どこでも通用する呼称です。
なぜ日本だけ、フランス語と英語をちゃんぽんした造語を使う必要があるのでしょうか?
造語で思い出しましたが、1980年代後半のバブル期に流行りだしたイタリア料理店を、メディアが「イタ飯」と呼んで持ち上げた時期がありました。
大好きなレストランをそう軽々しく呼ぶことを、わたしは苦々しく感じていました。
「イタ飯」なんて言葉は、もちろん定着していません。
同様に「ナチュールワイン」も、無責任に新しい呼び名を広めようとしている気がして、強烈な違和感があります。
イタリア料理もナチュラルワインも、ここまで日本で流行るようになった背後には、その文化を伝えようとする多くの方の尽力があったのは言うまでもありません。
だからこそ、ナチュラルワインに興味を持ち、好きになってくれたのでしたら、リスペクトのある言葉で呼んでいただければ幸いです。
マーケットの急拡大が招いたこと
ナチュラルワインがここまでの人気を得た背後には、ワインをお客様に提供する「注ぎ手」の存在があります。
飲食店の従業員が、仕事先でナチュラルワインにハマる
↓
転職や独立を機に、そこでも取り扱いをはじめる
↓
お客様や同僚たちを、次々とナチュラルワインの沼へと引きずり込む
この注ぎ手のパッションこそが、ナチュラルワインを扱うお店やファンを増やしていった源泉といっても、過言ではないと思います。
しかしながら、ここ数年の急速なマーケットの拡大により、単に流行っているからという理由でナチュラルワインを置くお店も増えてきました。
ワインを扱う人になんの知識も愛着もなければ、お客様にその魅力は伝えづらいでしょうし、通常のワインよりもデリケートなケアや温度管理が必要なナチュラルワインを、おいしく飲ませられるでしょうか?
ワインを造る側としても、正しく扱われているのか心配になります。
また、これは醸造家として自戒を込めて言わせていただくと、製法自体はナチュラルであっても、クオリティ的には首をかしげるようなワインがお店で提供されることが増えてきたと感じます。
もし、その1杯がお客様にとって初めてのナチュラルワインだったとしたら、あまりいい印象は持ってもらえないでしょうし、それは残念な話です。
マーケットが急激に大きくなったぶん、いろんな意味でフィルターの目が粗くなっているのではないでしょうか?
偏っていたプロモーション活動
自分は長年ソムリエとして、ナチュラルワインの魅力を数万人規模のお客様に伝え続けてきました。
そして醸造家になってからも、さまざまなイベントを通じて日本中のみなさんとかけがえのない時間を共に過ごしてきました。
だからこそ、いまの状況には看過できない部分があります。
しかし、ここで重要なことに気づいたのです。
わたしがこれまでに接したお客様の大半は、普段から飲み慣れているナチュラルワインラバーの皆様です。
過去にイベントに呼んでいただいたお店も、その地域では「聖地」と呼ばれるぐらい、昔からナチュラルワインの布教活動を行ってきたお店ばかり。
ナチュラルワインが初めてだったり、ワインにすら馴染みがないお客様を対象としたイベントは、記憶にあるかぎり参加したことがなかったのです。
地声のデカさには定評のあるわたしでも、玄人やセミプロの方ばかりを対象にしていたのでは、ワインに興味を持ちはじめたばかりのお客様に対して、自分のメッセージが届くはずがありません。
一部のお客様だけをひいきにして、なにをグダグダ言ってるんだという話です。
じゃあ一丁、これまでとは違うアウェイな状況で、ナチュラルワインを注がせていただける場はないか?と思い続けてきました。
渋谷の繁盛店にナチュラルワインゲリラが突撃!
この話を、渋谷のど真ん中で飲食店を経営するgood-eyeの目良(めら)社長にしたところ「そんなら、ウチでやりましょう!」と即決で話が決まりました。
ウチとは、渋谷の道玄坂界隈で屈指の繁盛店として知られる立ち飲み屋「KAMERA」です。
KAMERAは、オリジナリティの高い熟成焼売とウーロン茶ハイが専門のお店。
20代から30代前半までの若いお客様をメインに、連日超満員で賑わっています。
お店ではワインも置いていますが、普段はあまり出ないとのこと。
どうすればお客様にワインを飲んでもらえるか、試行錯誤していたそうです。
まだ暑い盛りの8月28日夜、KAMERAに単身特攻をかけました。
イベント名はもちろん……
「ナチュールワインと呼ばないで♡」
普段はワインをあまり飲まないお客様を対象にしたかったので、自分から告知は行いませんでした。
会場入りすると、店内はすでに満杯の大盛況。
お店のご厚意で、1杯40ccのグラスワインが3杯セットで500円!という今回限りの特価です。
もちろん、ほぼすべてのお客様からワインのご用命をいただきました。
以下は、お客様と交わした会話のごく一部です。
「これからナチュール勉強しようと思ってるんです」という20代の美女には、「ワインは勉強するものではありません。ハートで感じてください!」とお伝えしました。
仲良し同士の3人組とは、
「羊の焼売を頼みました」
「じゃあこれいっちゃいましょう!私が造ったロゼワインです」
「お肉には赤じゃないんですか?」
「こんなクソ暑い日に、ぬるい赤飲んでどうすんですか!焼売をもぐもぐしたらこいつで流し込んでください」
言う通りにしていただくと、目ん玉ひんむいてました。
おひとり様の美女とは、
「さっきの、おいしかったです!次のワインお願いします」
「もう5杯目ですよね?あの順番できたから……次はコレです!」
「私が飲んだものを全部覚えてるんですか?」
「当たり前ですよ!」
「すごい、でも赤から白ワインに戻るんですか!?」
「Why not????」
30代のカップルの男性には、
「ガタイいいですね!足のサイズ何センチですか?」
「29センチです」
「勝った!俺は29.5センチなんでつべこべ言わずに、この白飲んでください」
「えっ、足でかいすね!」
「日本じゃスニーカーしか買えるサイズがありません(笑)」
こんな感じで、ずっとしゃべり倒しの、せわしなく動きまくり。
人為的に亜硫酸塩を添加しないナチュラルワインは、のど越しにストレスがかからないので、すいすい飲めてしまいます。
すぐに「おかわりください!」とアンコールが殺到し、1500メートル走をずっと続けているような、にぎやかな3時間を駆け抜けました。
スマホがあれば、ワイン選びは超簡単
「ナチュラルワインの布教活動に行ったのに、ぜんぜんワインの話をしていないじゃん?」と思った方もいることでしょう。
もちろん、それには狙いがあります。
ただでさえ、ワインは産地や品種がどうのこうのと、難しくて堅苦しいものと思われがちです。
そういった先入観を抜きにして、まずはナチュラルワインの楽しさを素直に感じていただきたいと考えました。
だからこそ他愛もない会話をきっかけに、適切な温度で管理した最高の1杯を次々と繰り出すことで、ワインへの興味が続くようにアプローチしたのです。
このイベント中に、何組ものお客様から同じ質問を受けました。
「ワインって、どうやってレストランやワインショップで選べばいいんですか?」と。
その質問には、いつもこう答えます。
「今日も、ワインを飲みながらボトルの写真を撮っていましたよね?その中のお気に入りを、ショップの方やソムリエさんに見せてください。そうすればお客様の好みを察知して、最高の1本を選んでもらえますよ」
ワインの好みは、十人十色どころか千人千色でも足りません。
それに加えて、誰と飲むのか/どういう機会で飲むのか/お食事の種類は/予算は……といったファクターによって、そのときのドンピシャの1本はまったく違うものになります。
だからこそ、スマホの写真を手掛かりに自分の好きなワインを伝えられれば、選ぶ側も的をグッと絞りやすくなるのです。
気に入ったワインの写真は、酔って忘れる前に撮っておきましょう!
今回のイベント開催にあたり、目良社長、KAMERAのキョウスケ店長、ソムリエの中川さん、スタッフの皆様、本当にお世話になりました!
また、この日のためにたくさんのワインをご提供いただいたウミネコ醸造さんにも、厚く御礼を申し上げます。
今後もワイン初心者のお客様を対象に、わたしがオススメする最高のナチュラルワインを注ぎ倒す機会があることを願ってやみません。
もし、趣旨にご賛同いただける方がいらっしゃいましたら、業種は問いませんのでぜひお声がけください!
長かった夏も終わり、そろそろ赤ワインが楽しめる季節になってきました。
年末のラストスパートに向けて、ゴンゴン盛り上げていきましょう!
《KAZU WINEの最新情報はInstagramでお伝えしています。ぜひフォローをお願いします!》
https://www.instagram.com/kazuwine/
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