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滝口悠生 ラーメンカレー

水平線を読んだ後、グーグルで作者の作品を検索していて、新作のラーメンカレーの最初のローマのフィウミチーノ飛行場から、ペルージャーへの描写の箇所が良かったので、久しぶりに単行本を購入して一気に読む。ドイツ駐在時にローマからレンタカーでイタリアの客先を回る事が年に何回かあり、イタリアの道路、田舎の何も無い小さな街の描写が懐かしかった。 

夏に同僚と二人でイタリアの田舎街に何回か仕事で出張しており、仕事の前日にその街に入り、街の中心部の広場に一軒しかレストランが無く、そこはおばあちゃんがお任せ料理とワインを出してくれる店だったのだけど、そこへ出張時に行っていて、席に座れば出てくるお任せ料理の内容をイタリア語で料理の説明をしてくれるのだけど、私たちはよく分からず適当に片言のイタリア語であいずちの返事していたのだけど(料理は本当に美味しかった)、ある日、まだ日の光があり広場に面したテラスで食事をしていた時期なので夏のはず、たまたまその店の前の広場を通りかかった日本人風の女性が居て、いきなりおばあちゃんが彼女を呼び止めて、彼女を通訳として料理の説明をしてもらった事を思い出した。おばあちゃんが彼女にもワインと料理を出して料理の説明をして日本語に通訳してくれた。 食事の説明以外にガイドブックにも出ていないその街の話を聞いたのだけど、日本人はイタリア人と結婚した日本人女性が二人だけいる程度の規模で、ミラノからアンコーナへ抜けるアウトストラーダー(無料の高速道路、日本で言うと東京と大阪を結ぶ幹線)から少しだけ離れた小さな街なので、幹線上にある街の工場へ車で働きに出ている人が多い街。1990年代の話なので、まだスマホもグーグルも無い時代の話です。業務用の馬鹿でかい携帯電話を持たされて出張していましたが。

イギリスの街の描写も、移民が住んでいる郊外の街の描写が懐かしかった。 家族、友達、恋人と一緒であれば、日本に比べるとサビれた感じが激しいロンドン郊外の街でも、こんな風に楽しいだろうなと思う。 一人だと日本よりも孤独感が強い街並みと私の経験と思い比べながら読んでいたけど。

滝口悠生氏の文章に惹かれるのは青春への郷愁と思う。この連作小説は40歳くらいになった人が20歳くらいの時を思い出して、20歳から40歳になって失ったものと得たものを表現している作品で、60歳を超えた私にとっても懐かしい感じで、そういったセンチメンタリズムの小説が好きなのだけど、更に40歳から60歳の間でも失うものと得るものがあるよ。 

後半の窓目くんの手記は、下手に内容を要約すると20歳の若い女の子に振り回される40歳の男の話となってしまうけど、ほろ苦い話になっている。


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