【教育社会学】理論の紹介①(文化的再生産論)

今回の記事では、私が専門としている教育社会学の理論を紹介したいと思います。(専門研究者ではないので、学術的なご指摘も随時受け付けております。あくまで、初学者が己の解釈を徒然なるままに記述していると思ってください。)


教育社会学とは?

「教育社会学」を簡潔に言い表すとすれば、「教育と社会に関わる問題を、社会学的な手法によって分析する学問」と言ったところでしょうか。

「教育」と言われると、まず、学校での授業をイメージすると思います。
しかし「教育」とはもっといろんな意味をもっていて、授業以外の教育活動だってあります。
最近は、学校以外の場での教育活動だって進んでいます(不登校・オルタナティブスクールetc)。

つまり教育学は、"先生が授業のやり方を工夫すると子どもの理解が深まる"というだけの学問ではないのです。
その点で教育社会学は、"教育と社会の関連を分析する"学問であるということになります。

学校における教育活動そのものを考えるというよりは、その背景にある種々の要素、と考えると分かりやすいかと思います。
そんな性質から、格差・いじめ・不登校・ジェンダー・職業移行・教育政策・メディア・教師など、教育と関連づくものあらゆるものが、教育社会学の対象となり得るのです。

これまで注目されていない観点であっても、これからの研究において、スポットライトがあてられることが十分にあり得るでしょう。


文化的再生産論の位置づけ

今回述べるのは、教育社会学の主要理論の一つである文化的再生産論です。

これを挙げるのは、教育社会学の理論の中でも、そこそこに日常生活と結びつきやすいのではないかなぁと思うからです。
入門書でもほぼ確実に記載される程、重要な理論でもあります。

詳しい理論の内容は次の見出し以下に記載しますが、ここではまず基本的な情報を。

文化的再生産論は1980年頃に、フランスの社会学者P.ブルデューによって提唱されました。

その中身としては、家庭での教育(日常生活)と既存の格差構造が維持される(再生産)メカニズムということになるかと思います。

再生産を説明する理論は他にも数多くあるのですが、それらは以降の投稿に譲ることにしましょう。
文化的再生産論について、以降でより詳細に記述していきたいと思います。


文化的再生産論の具体

この概念を理解するためにまずおさえたいのが、「資本」の概念です。

  1. 経済資本(Economic Capital):金銭的な要素

  2. 文化資本(Cultural Capital)

  3. 社会資本(Social Capital):人間関係の要素

という3つが挙げられます。

今回の理論紹介で中心になるのは、2.文化資本ですが、他の2つの資本も含めて、それらの質や量が複合的に格差の再生産に寄与するとされます。

文化資本とは「家族から相続・継承される文化的能力や文化的資源」のことであるが、さらに、

  1. 客体化された資本(絵画・楽器・本などの保有)

  2. 身体化された資本(読書の習慣や美術館通い。ものの好み)

  3. 制度化された資本(学歴や資格の保有)

という3つの形態に分けることができます。


特に、2.身体化された資本は「ハビトゥス」とも言われ、日常生活の行動を決定する「行動原理」であり、尚且つ物事を知覚し評価する「精神構造」であります。(ここは少し理解が難しいかも。。)


つまり2.身体化された資本(=ハビトゥス)は、日常生活における行動決定と感受性?を司っているということになります。

こうした性質から、ハビトゥスは学校における成功-失敗を規定する大切な要素となっているのです。
というのも、学校が要求するハビトゥス(二次的ハビトゥス)と近しいハビトゥス(一次的ハビトゥス)を、家庭教育において既に身に付けている生徒or文化資本の多い生徒は、学校で同化(成功)しやすく、逆の場合には排除(失敗)に繋がるということです。

簡潔に言えば、

「これまで家庭で受けてきた教育によって、学校での活動の成否が規定される」

といったところです。

この他にも、家庭教育と学校教育の質による再生産構造を説明した理論には、他にもバーンスティンによる「言語コード理論」がありますが、それは次回以降に譲りたいと思います。


以上が文化的再生産論の概要でした。興味をもった方は、ぜひ専門書を読んでみて下さい。
文化的再生産論はほとんどの入門書に載っているので、そちらも参考になると思います。

最後にこの理論に関わって、とある記述を紹介したいと思います。

「教師にとって子どもは平等だが、子どもの背景は平等ではない」

半径5メートルからの教育社会学

教育活動の主役は子どもであって、教師の一方的な思いだけで成立する営みではありません。
学校には、教師自身と異なる境遇で育ってきた子どもたちがたくさんいます。

「異質な他者への想像力」(どの文献で見知った言葉なのか忘れてしまった。。)をもって、教育活動を遂行していきたいですね。

参考・引用文献

・小内透,2018,「再生産論」日本教育社会学会編『教育社会学事典』丸善出版,pp.96-99
・小澤浩明,2018,「文化資本」日本教育社会学会編『教育社会学事典』丸善出版,pp.106-107
・小澤浩明,2012,「文化的再生産論」酒井朗・多賀太・中村高康編『よくわかる教育社会学』ミネルヴァ書房,pp.14-15
・濱名陽子,2010,「幼児教育の社会学・入門」苅谷剛彦・濱名陽子・木村涼子・酒井朗編『教育の社会学〔新版〕』有斐閣,pp.121-136
・中西啓喜,2017,「学力の獲得は平等なのか?」片山悠樹・内田良・古田和久・牧野智和編『半径5メートルからの教育社会学』大月書店,pp.16-30


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