見出し画像

保険はどこから来て、どこへ向かうのか

こんにちは。
損害保険を扱う代理店向けの営業支援ツールを開発している田上です。

皆さんは保険という制度がどのように発展してきたかご存知でしょうか?
保険という概念が生まれたことによって、人や企業はリスクを定量的に把握することが可能になり、より大きな挑戦が出来るようになりました。

今日は、そもそも保険という思想がどのように生まれ、どのように発展してきたか、また今後どの様な発展の仕方を辿るのかを簡単にまとめてみたいと思います。


最もプリミティブな保険の形

日本での最も原始的な保険の形は、今でいう「共済」に近い形態でした。郡や村などのコミュニティーで、飢饉に備え少しずつ米を出し合い、ピンチの時にはその米を使い、何事もなければ皆に還元する、そんなシステムが最も原始的な保険の形と言われています。

一方で、こうした制度は大抵の場合、以下の理由から制度が崩壊してしまいます。

1、米を強制せずに出してもらうことが難しい。
2、集めた米の管理者が不正を働いてしまう。
3、官(政府)からの関与を排除できなかった。

1、米を強制せずに出してもらうことが難しい。
どの時代も何か事故が起こるまでは行動しないというのが人の性で、先人たちは飢饉に備えることの重要性を粘り強く布教・教育することにより解決を図ろうとしていた様です。

2、集めた米の管理者が不正を働いてしまう。
集めた米の管理者は大体そのコミュニティーの適格者が任命されていた様ですが、貨幣経済の発達と共に集めた米を貨幣に変えて、利子をつけて貸し出す事で私財を肥やす人が出て来ました。こうした人たちにコミュニティーの人たちは不満を募らせ制度自体が崩壊に向かいました。

3、官(政府)からの関与を排除できなかった。
これも2、と近しいですが、集まった財というのは得てして国政に利用されやすく、コミュニティーの人たちにとって納得のいく運営方法ばかりではなかった様です。

こうしたプリミティブな保険制度が成功していたコミュニティーというのは総じて管理者が高い倫理観を持った人格者であったようで、再現性が低く、やがて廃れていってしまいました。


『P=WZ』 西洋文化から輸入された近代保険

18世紀の中ごろに以下の概念が発明されました。

P=WZ
1人あたりの保険料(P)、事故発生率(W)に1回の保険事故で支払われる保険金(Z)を乗じたものになるという数式

これは、同じ様なリスクを保有する人・会社で母集団を形成し、事故発生率を計算できたならば保険商品を開発できる、という統計学的な概念でした。前述のプリミティブな保険に対し、こうした統計学や確率論に依拠した保険を近代保険と呼ぶ人もいます。

近代保険の導入によるメリットは、地域性に縛られていた被保険者(保険を掛けている人)の母集団を同じ様なリスクを保有する人の母集団に変換することができる点でした。これにより多くの事業者がリスクをヘッジすることが可能になり、保険会社の受け取る保険料は急激に増え、また、集めた資金を運用して得る金利で益々規模を大きくしていき、より大きなリスクも引き受けることが可能になっていきました。

一方、デメリットとしては保険の元々のコンセプトである相互扶助(お互いに助け合う)の概念が薄れ、福祉性が損なわれたことが挙げられます。本来的には人や会社がリスクをヘッジし安心・安全な暮らしができる、より大きな挑戦ができる為に保険という制度が発達して来たのに、より多くの保険料収入や運用利益を得るための道具として使われがちになってしまった点がデメリットとして挙げられるでしょう。


近代保険の日本特有の受け入れ方法

日本に近代保険が導入された当初、日本では上述のメリットとデメリットのバランスを図ろうと試行錯誤が行われていました。

例えば日本生命では、保険契約者から少し多めに保険料をとるも、実際の余剰金が判明した際にはその保険料を保険契約者に割り戻す商品が販売されていました。保険会社の余剰金が溜まるということは保険契約者が損をしているということであり、保険事業こそ共済性を強く打ち出さなければ保険がただの金儲けの道具になってしまうということへの危惧があった様です。

実はこうした「営利性」と「福祉性」のバランスを図ろうとした国は多くなく、日本特有の受け入れ方法だった様です。しかしながらこの素晴らしい思想も、日本が戦争に突入し保険会社の運用資金が軍資金として利用されることで廃れ、戦後には現在のスタイルに定着し今に至っています。


保険とテクノロジーの融合

現在『Insurance(保険)』と『Technology(技術)』を掛け合わせた『InsurTech(インシュアテック)』と呼ばれる領域で世界中でベンチャー企業が立ち上がっています。

例えばドイツ発のベンチャー企業『Friendsurance』はテクノロジーの力を用いて『共済』的な保険システムを提供しています。知人間でグループを作り、グループのメンバーの保険料の一部をプールとして管理し、保険金を支払う際にプールの資金を利用する仕組みを提供しています。(以下図ご参照。)プールの金額で保険金を払いきれないときのみ、保険会社から支払うという仕組みをとっているそうです。

グループの保険料は前年度どれだけ事故を起こしたかによって影響を受けるため、加入者同士が気を配り合い、事故等のリスクが低下するという効果も報告されています。その結果、保険料が最大で5割引になるなど、加入者にとっての利益も大きい仕組みとなっています。

まさに『福祉性』と『営利性』のバランスが取れた保険のエコシステムだと思います。


今後の保険はどこへ向かうのか

この『Friendsurance』の登場は何を指し示すのか。共済的な概念から始まり、数理的ロジックを取り込んで巨大化した保険市場ですが、私は新たに生まれてくるテクノロジーの力を追い風に、もう一度『共済』的な保険に原点回帰するのではないかと考えています。

プリミティブな保険が凋落した原因は前述の通り3つほどありました。

1、米を強制せずに出してもらうことが難しい。
2、集めた米の管理者が不正を働いてしまう。
3、官(政府)からの関与を排除できなかった。

例えば、1、などはインターネットの登場により同様のリスクに晒されている人を簡単に繋ぐことが出来る世の中になっています。また、人や会社が抱える潜在的なリスクもインターネットやIoTの普及によって今後益々正確に把握することが可能になっていくでしょう。2や3に関してはブロックチェーンといった脱中央集権化を図る技術が出てきています。

こうした技術を集結した結果、保険という概念はもう一度本来の在り姿である『人や会社がリスクをヘッジし安心・安全な暮らしができる、より大きな挑戦ができる』為に活用されるという原点回帰の方向性に進んでいくのではないかという気がしています。

つまり、保険会社はより正確なリスクの把握が可能になり、適切な保険商品を作ることができ、被保険者は適切な保険料で自身のリスクをヘッジでき、その市場からは中央集権的要素が排除されている、市場関係者の「福祉性」と「営利性」のバランスが取れた状態に向かうのではないかと思っています。


まとめ

この様な取り組みは世界でも始まったばかりです。私は、こうした「福祉性」と「営利性」のバランスの様なテーマこそ日本の優位性が発揮できる分野ではないかと考えています。近代保険の導入期に先人たちが示した態度がそれを裏付けているのではないかと思います。

どの様な形で我々が貢献できるのかは分かりませんが、日本から世界をリードする様な保険市場の形成にに寄与できればなと思っています。

今日はこのへんで。


↓↓↓Twitterやってます!↓↓↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?