ティッシュの中身

老人ホームのオバァはよく食事やおやつの残りをティッシュに包んで持って帰る。
パンとかお菓子だけじゃなく、唐揚げとか、剥いたりんごとか、シュークリームとか、オイそれはないだろう。というようなものまで。

これはね、もうお腹いっぱいで食えないから、後で部屋で食おうって思って。・・・ではないんだよ。まあそーゆう人もいるかもだけど。


以前、現在ほど利用者の介護度が高くない、みんな自立歩行で車椅子はなしの施設で勤務していた頃。専門的にいうと「軽費老人ホームA型」ってやつで、分かりやすくいうと「高齢者アパート(寮)」なんだけどさ。

当時相談員だった僕ぁ、苑内放送で「今日の夕飯はイカスミ汁で〜す」なんて放送したの。献立放送は日課だから。

夕食は一斉に食堂で18:00から。毎回皆それぞれ時間に合わせてやってくる。18:00に合わせてね。

しかし、今日は何故か17:30に、まだ食堂の扉が開かないうちに2〜3人が並び始めた。はて?
その後も少しづつ集まり始めて扉が開く17:50には12〜13人並んでいる。はてはて?
そしてみんな手に手にタッパーや蓋つきの鍋を持っている。はてはてはて?

いざ夕食時間になり、汁椀にイカスミ汁を装うとすると、そっちじゃないこっちに。とタッパーや鍋を指差す。はは〜ん。合点。皆さん、部屋でゆっくり食べようとしてますね〜?ダメですよ〜、ちゃんとこちらでお願いしま・・・・

「今度息子が面会に来たら持たすからよ・・・」

!!!。

あるオバァがポツリ。

すると別のオバァも

「今度家に帰ったら孫に食べさせるから。あの子たちはイカ汁大好きだけど、だぁ、私はもう作れんからよ・・・」

更に

「オジィのトートーメーにうさげるさ。私ばっかり食べていたらオジィがわじるかもしれんさ〜ね〜」

口々に。異口同意?言葉は違えど、みんな「自分で食べるのは余りにも勿体ない。大事な人たちに食べて欲しい」、その想いだけなんだよね。

そして素晴らしいのは、そこに悲壮感とか哀れな感じはなくて、みんな照れ臭そう笑いながら「家族」の喜ぶ顔を思い浮かべている。入れ歯がパカパカした口元を恥ずかしそうに手で隠しながら楽しそうに話している。自分は白米と漬物だけ、そう、イカ汁ってそれだけでオカズだからその時は他に大したオカズは出ないんだ、沖縄では。

白米と漬物だけをお茶で流し込んで、タッパーやお鍋を大事そうに抱えて食堂を出て行くオバァ達。面会人なんていつ来るかわからないのに(いや、そんな悲しいもんじゃないよ、予定がわからないってだけ!)、そのために自分ではご馳走を用意することができないから、せめて夕食に出た美味しいものを持たせてあげたい。はたまた、私はここでこんなにいいもの食べて幸せにしているから、あんたも安心して仕事して偉くなりなさいよ、と言うオバァの息子娘に対する気遣いか。まあ何れにしても、オバァだよなぁ。正に「オバァ」。

部屋に持ち帰っても、いずれ腐って俺が片付けることになるんだけど、それはまた別の話じゃんね。



今も昔も、オバァ達は美味しいものは自分ではなく大事な誰かに食べて欲しい♡って思いながらいるんだよね。だから介護職のKくん(22歳)は、しょっちゅうティッシュに直で包まれたえびせんや、タンナファクルーや、ひどい時(言うなや)は天ぷらをもらって来て「施設長、・・・これどうしたらいいですか?」と俺のところへ来る。んで、ありがたく食え!とパワハラする(笑)

あ、ちなみにタッパーを持って来るのはオバァだけで、オジィはサーブしているそばから、もっと入れろ!だの、あっちの方がイカが多いだのうるせえうるせえ。んで、ガツガツ食い終わった後、隣のオバァに「ぃえ〜、おばぁ!や〜ん、うり、かまんな?あんしぇ、わんに〜んかいかませ!」と身も蓋もない事を言うので、相談員として一発かます。嘘。

P.S.「オジィの言っていることが全くわからん」との指摘がありましたので。↓↓↓

「え〜婆さん!あんた、これ食べないの?だったら俺に食わせろ!」
かますでしょ?(笑)

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