お寺に集まれ! 踊りの町・郡上白鳥でお寺活用イベントが始まった理由(わけ)
みなさんは、日常的にお寺に足を運ぶ習慣はあるでしょうか。
多くの人が「NO」と答えるかもしれません。とはいえ、どこの町に行ってもお寺はありますし、お寺は決して遠い存在というわけでもありません。文化庁「宗教統計調査」(令和2年度)によると、仏教系の寺院の数は76,844件(2019年12月31日現在)。ちなみに、全国のコンビニの店舗数はというと、55,924件※1(2020年12月現在)です。
※1...出典:(一社)日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」(2021年1月)
とはいえ、たいてい人にとっては、お寺に行く機会といえば、年に数回あるかないかのお墓参りや法要、あるいは観光で行った先にある有名な寺院を巡ったりする時に訪れるくらいなのではないでしょうか。
余談ですが、最近、個人的に訪れたお寺が、東京都文京区にある諏訪山吉祥寺。浄瑠璃などの題材にもなっている「八百屋お七」縁の寺院です。
撮影=小野和哉
また最近は、少子高齢化、檀家の減少、葬儀などの簡略化により、お寺の経営難や、お寺が廃止になってしまうという話も耳にします。昨年からの新型コロナウイルスも大きな打撃となっているようです。
今回私がご紹介したいのが、地元発信のお寺活用イベントの一事例。盆踊り好きの私が特に足繁く通っている岐阜県郡上市白鳥町の「白鳥おどり」、その盆踊り歌の中で「四(し)は白鳥の来通寺様よ〜」と歌われている真宗大谷派聞法山 来通寺(岐阜県郡上市白鳥町白鳥919)というお寺で、2018年から「来通寺テラス」というイベントが行われています(2020年はコロナで中止)。盆踊りにしか目のなかった自分は実は一度も足を運べていないのですが、地元の方が企画している手作り感のあふれるイベントで、しかもお寺という空間を活用されているということで以前から気になっており、昨年もコロナで中止にならなければ足を運びたいと思っていたところでした。
お寺をコミュニティの拠点として捉えようという動きは数年前から全国で見られますが、この白鳥町において、お寺を舞台にした「町づくり」の試みは、どのように行われたのでしょうか。イベントを主催している「チームTERAKATSU」の中心メンバーである、渡辺千登美さん、正者みゆきさん、切り絵作家の草太さんにオンラインでお話を伺いました。
取材・構成:小野和哉
写真提供:チームTERAKATSU
※2021年2月10日に取材した記事です。
お寺を昔のようにもっと気軽に来られる場所に
ーー主催者のみなさんはもともと、どういう関係性なのでしょうか。
正者:私と千登美さんは、同じ来通寺の檀家さんなんですよ。しかも、うちの義父方は、檀家総代をやるようなそういう家で。
渡辺:みゆきさんとは親戚同士でもあって。
正者:うちのおじいちゃんと、ここ(渡辺さん)のおじいちゃんは兄弟なの。
渡辺:もともと、お寺を使ったイベントをやりたいと言っていたのは、私と草太くんのお母さんなんです。そのお母さんが来通寺の住職と同級生という人間関係もあってずっと何かやりたいと言ってたんですけど、住職は最初あまり乗り気ではなくて(笑)。2018年に、ようやく実現したという感じです。
草太:千登美さんからずっと相談は受けていて、「手伝ってよ」みたいな感じで言われて、じゃあやりましょうかと。僕も白鳥出身なんですけど、当時住んでいた岐阜市内からちょうどこっちに戻ってきたタイミングだったので、何かするにはタイミングもよかったんですよね。
渡辺:草太くんは切り絵作家としてイベントに出演したりすることも多いので、そういったノウハウや知識もあるかなって。私、イベントの経験ゼロだったから。
草太:それこそ最初はちょこっと手伝う、いちスタッフとしてやろうかなと思ってやってましたけど、まさかここまでコアメンバーになるとは(笑)
渡辺:主要メンバーはこの3人で、あとは草太くんの奥さんをはじめ、あとは町内の奥様から旦那様から、賛同してくれる地域の人を引っ張ってきて関係者の人数が多くなったという感じ。来通寺のご家族にもすごくご協力いただきました。
ーー檀家さんの枠を超えて、地域ぐるみでやっているんですね。
正者:そうですね。人を集めて、家内制手工業でチマチマとやるっていう。
渡辺:私はいい加減な性格がずっとあるもんで、いい加減なのにいつの間にかちゃんとイベントになっていたのは、本当にみなさんのおかげだと思ってます。
ーーお寺でイベントをやろうと思った理由はなんですか?
渡辺:白鳥という町もだんだん寂しくなって、さびれているもんで、お寺を使って(町を盛り上げるために)何かできないかなとは以前から思ってました。昔は、町に商店街もいっぱいあったからお年寄りはみんな買い物に出かけて町に人がおったけど、今はお年寄りはデイサービスに行って(町中に)おらんもんで。
ーー確かに、「白鳥おどり」で盛り上がっている時期に比べると、普段の白鳥の町ってとても静かですよね。
渡辺:そうそう。ほとんど猫や犬も歩いていないくらい静かな。緊急事態宣言せんでも、緊急事態宣言やったという町やで(笑)
ある土曜日の美濃白鳥駅前商店街。2019年撮影。
撮影:小野和哉
昭和45年の駅前通り。写真のキャプションには「町内で初の歩行者天国 白鳥駅前商店街の若い経営者らのアイデアで開かれたもので盛りたくさんの催しものが行われ大勢の人で賑わった」(原文ママ)とある。
出典:岐阜県白鳥町編「写真に残った白鳥 我がふるさと」岐阜県白鳥町、1986年
橋本町商店街。2021年、撮影。
提供:渡辺千登美
昭和33年頃の橋本町商店街。来通寺前の三叉路。
出典:岐阜県白鳥町編「写真に残った白鳥 我がふるさと」岐阜県白鳥町、1986年
正者:毎日が緊急事態宣言やもん。この辺りは白川街道、越前美濃街道とか交通の要所だったので昔から色んな人が集まったし、ダム建設で町が栄えた時期もあったのにね。江戸時代かいつの時代かわからないけど昔、橋本通りに芸者さんの置屋があったんだって。
出典:白鳥町教育委員会編「白鳥町史 通史編 下巻」白鳥町、1977年
ーーそれぐらい、栄えていたということですね。
正者:それに、若者たちにももっとお寺にきて欲しいという想いもありました。若い人にとっては、来通寺って除夜の鐘をつきにいく場所くらいのイメージ。イベントだって、毎年11月にやっている報恩講くらいで、しかも私たちの年代でも熱心に(報恩講に)行くような人ももういないし。
渡辺:いない、いない。もう70、80歳の人が報恩講に行ってる感じで、もう次の世代が継がんかったら終わるなって。
正者:報恩講って、めちゃくちゃしきたり的なことが細かくて難しくて。こんな小さいお餅を作って飾ったりとか、ご飯も特殊なご飯を使ったりする。でも、そういう(しきたりとかの)流れも、もうちょっと若い人たちに親しんでもらいたい。
報恩講の「タカタカマンマ」のお斎(とき)。
出典:白鳥町教育委員会編「白鳥町史 通史編 下巻」白鳥町、1977年
渡辺:そうそう、だから若い人たちに知ってもらうことがまず大事かなって。
正者:昔のように、お寺がもうちょっと気軽に来れる場所になって欲しいですね。
渡辺:お寺さんも、昔はイベントやってたんですよ。50何年前に、来通寺でちびっこのど自慢をやったことがあって、テレビでちびっこのど時間が流行った時に。
正者:昔、CBC(中部日本放送)かなんかでね。フジパンか、敷島パンかの主催で、子どもさんが歌を歌って、点数がパーンって出るみたいな。流行ってたんだよね。(白鳥でやったのは)本町発展会が主催で、境内のところに舞台を作って、生バンドの演奏で、点数が電光掲示板で出るやつだったよね。
渡辺:点数がいいとおもちゃとか賞状がもらえるの。お寺を使おうと思った理由は、郡上八幡のお寺さんで落語会やマルシェみたいなイベントをやっていたこともあって、それにもヒントをもらったのも大きいけど、そのちびっこのど自慢のことがむっちゃ私の頭の中にあったんやなと思います。
幼稚園児や地元の高校生も巻き込んだイベントに
ーー2018年、第一回目ではどのようなことをやられたのですか?
渡辺:お子さん向けの企画をメインにやりました。来通寺さんは幼稚園と保育園を経営されていますし、子どもたちが遊びに来れることをすれば、自然と親ごさんやおじいちゃん、おばあちゃんなど、大人も来てくれるかなと思って。子どもたちに貼り絵をしてもらって境内に展示したり、絵本の読み聞かせをしたり。
正者:子どもたち向けの法話を「おっ様の話」という形で企画したんですけど、それはお年寄りの方々からの期待が高くて、早い時間から待ってくれた人もいました。おっ様(住職)が緊張しきっちゃて、あまり話せなかったんですけど......(笑)
渡辺:いつもの法事の時の法話の方が、よっぽどお上手でした(笑)
正者:ほんで、草太くんに切り絵のライブパフォーマンスをやってもらって。鬼を切ったんやね。
草太:鬼、切りましたね。
正者:でもさ、時代が早すぎたね、我々は。
渡辺:早すぎたね。出すのが早かった。
ーー(鬼滅の刃.....?)。お抹茶体験は、郡上北高校の生徒さんがボランティアで参加してくれたみたいですね。北高校とはどのような縁があったのですか。
正者:私たち月に一回、お茶を習いに行ってるんですけど、そのお茶の先生が北高校の茶道部の先生もやってらっしゃるんです。生徒さんがあまり市民の皆さんにお茶を披露する機会がないらしいと聞いたので、では秋だし、紅葉を見ながらお茶をやろうということで、先生にお願いして来てもらったんです。
渡辺:私たちは技量がないので、若いお姉ちゃんたちがいいやろうって(笑)
草太:でも、高校生がいることで、イベントもいい雰囲気になりましたよね。
渡辺:高校生なんて、普段お寺に来んから。その友だちも来てくれればいいなって思いました。
草太:お年寄りから、子連れのご家族まで、結構、幅広い年齢の方が来てくれたと思いますね。
ーー町の人にとっても新鮮だったかもしれないですね。こういうイベントが開催されるのは。
草太:そうなんです。なかなか白鳥ではないですもんね、こういうイベントは。
白鳥の飲み文化を支える「頼母子講」システム
ーー開催される上で、苦労されたことはありますか。
渡辺:やっぱりお金ですかね。イベントをやろうとしたらお金がありません、どうしましょうって(笑)
草太:それこそ、顔の広い千登美さんが檀家さんとかいろんな人に声をかけて集めたんですよね。で、予想以上にお金が集まった(笑)。3、4回イベントできるんじゃないかっていうくらい。
正者:めっちゃ節約してたのにね(笑)
草太:なるべくお金をかけないようにはしてましたね。旗とかのぼりを自分たちで作ったりとか。
正者:ステンシルをこさえて。
渡辺:手作り感、満載。
草太:「来通寺テラス」って書かれた、「のれん」っていうんですかね? あれも手作りで。
正者:フエルトをこさえて、グルーガンで貼って。みんなで作ったんだよね。
ーーそして、夏には「白鳥おどり」シーズンに合わせて、お寺でビアガーデンを開催されましたね。これも大好評だったとか。
正者:この時は、ベリーダンスをやったんよね。
渡辺:ベリーダンスは素晴らしかったな。
ーー皆さんが、踊られたんですか!?
渡辺:私は恥ずかしてく踊れない(笑)。私のベリーダンスなんか白鳥おどりよりひどいから。習っている先生を引っ張ってきて踊ってもらったんです。
草太:来通寺テラスも、ビアガーデンも、イベントのゲストや出店しているお店とかも、メンバーそれぞれのつながり利用して、集まってもらっているんです。
ーー本当に人と人との縁でできているイベントなんですね。
正者:昨年はコロナでイベントができなかったけど、ビアガーデンは人気が高くて、開催を渇望されている方が多いですね。
渡辺:そうそう、「ビアガーデンは絶対やれよ」って(言われる)。なんせ飲み文化ですから、白鳥は。
草太:ビアガーデンでも、みんな飲みすぎて樽が足りなくなる事件がありましたね(笑)
今はなき、白鳥の居酒屋「マルモ」。
撮影=小野和哉
ーー白鳥の人ってそんなに飲むんですか!? あまりイメージがないのですが......。
渡辺:白鳥に「元文(布屋 原酒造場)」さんって、賞とかもたくさんもらっている有名な酒屋さんがあって、以前、樽びらきのイベントがあったんですけど......赤字やったんやろ? あんまり飲みすぎるもんで。
正者:3000円のチケットを買ったけど、赤字なんかな?
渡辺:だってあんたあんなちっちゃい瓶一本、1500~1600円するやん。あれ、どんだけ飲んだと思う?
草太:あはははは(笑)
正者:昔は、ご近所さんやお得意さんには無料で飲ませてくれたんですよ。めっちゃトロトロの原液みたいなやつ。あれ、飲んだら死ぬで。
渡辺:美味しすぎて飲んでるうちに「あ、やっちゃった......」って感じ。
ーーうますぎて、ぶっとんじゃうんですね(笑)
正者:でも、白鳥の女の人は夜、飲みに行く人が多いのよ。遊びでね。
渡辺:「頼母子講(たのもしこう)」があるから。
正者:「たのもし」ね。お嫁さんたちだけとか、女の人で集まってね。ちょっと離れた高鷲とかからもタクシーや旦那さんが車を運転して白鳥まで嫁を運んでくれて。
ーーへー、そんな文化があるんですか。
渡辺:「頼母子講」って昔は、銀行じゃないですけど、要はお金をみんなで出し合って、困ったときに貯まったお金を貸してもらうという制度で。
草太:今はどっちかっていうと、みんなでお金を出し合って楽しいことする集まりっていう感じになってますね。積み立てたお金で旅行に行ったり、飲み会をしたり。最近は、「たのもし」=「飲み会」というイメージです。職場の「たのもし」とか、同級生の「たのもし」とか、だいたい男の人なら一人3つ〜4つくらいの「たのもし」がありますね。
渡辺:昔はお嫁さんたちも「遊びに行く」っていうと年寄りや旦那さんに「行くな」って叱られたんだけど、「たのもし行ってくる」って言うと、「たのしもしなら仕方ない」ってなる。中身は変わらないんだけど、堂々と行けるんですよ(笑)
ーー遊びに行くいい口実になってたんですね。面白いシステムだな〜。
渡辺:そう? 私らからしたら当たり前で何とも思わないね。
正者:親の世代からそうだもんね。
お寺をもっと活用してほしい
ーー最後に、今後のことのお話を聞きたいのですが、2020年はコロナで来通寺テラスは中止となってしまいましたが、先日は前向きなコメントをFacebookで出されてましたね。
出典:来通寺テラスFacebookページ
正者:千登美さんが来通寺テラスを企画したきっかけも「お寺をもっと活用してほしい」ということだったんだけど、テラスやビアガーデンに限らず、他にもちょくちょくコンスタントにイベントをやりたいっていう構想はもともとあったよね。ただ、私たちだけがコンスタントにやるのはえらい(大変な)ので、もっと他の人にもお寺を使って何かやってほしいですね。
渡辺:そうそうそう、私らだけじゃなくて。来通寺をみんなに活用してほしいから、来通寺テラスがそういうきっかけになればいいなと思った。
正者:お寺にあるお参りするところ、御堂って言うのかな、は檀家さんの持ち物なんだって。昔はお葬式をあそこでやったから、使用料金が入ってきてたけど、今は何もやらないから収入源もないらしくて。だから利用してもらうのは、檀家としてもいいらしいよ。
渡辺:コロナじゃなかったら、写経やったり、精進料理やったり、ヨガやったり、朝活したり、いろいろとやってみたかったんだけど。でも、少人数ならできるかな?
正者:実は去年はコロナで白鳥おどりをはじめ、いろいろなイベントが中止になってしまったんですけど、来通寺さんは例年通り、報恩講をやったんです。
渡辺:(お寺さんは)「絶対にやる」ということで、私たちは「はい、わかりました」と(笑)
正者:でも、白鳥おどりがなんでこう続けてこれたかっていうのは、ある一部の白鳥生まれの頑固親父がおって、そういう人たちが、これは絶対止めちゃあかん、これはこうやなきゃあかん!って言ってきたから、踊りも祭りも来通寺の報恩講さんも、ずーっと続けられてこれたっていう面もあるんだと思います。でもいまはいろんな意見もあって、時代は大きく変化しつつあると思うけど。でも本当にね、うちのおじいさんたちの世代はめちゃくちゃ頑固で(笑)
ーー昨年は白鳥に限らず、いろいろな地域で祭りや行事の開催か中止かの苦渋の決断を迫られた年でしたね。どちらの選択も地元の方々の決定なので尊いとは思いますが、どうやったらできるか?を模索しながら続けていくという選択肢も一つの道なんでしょうね。そうなったときに原動力となるのが、地元にいる「頑固者」なのかもしれませんね(笑)
渡辺:頑固者がいる一方で、白鳥の人たちって新しもの好きだから、流行にはどんどん乗っていくよね。
正者:出てくるアイデアも斬新なんだけどね。すぐ飽きるという(笑)
渡辺:そうやろう。この来通寺テラス、飽きやすい私たちがいつまで続くのかなあ?
ーーそういう意味でも、新しい風が来通寺にどんどん入ってくるといいかもしれませんね! コロナがあけたら、東京の白鳥おどりファンともコラボして、現地の人との交流の場になったらいいなと思ってます。
正者:ぜひイベントを考えてください(笑)
渡辺:お寺で泊まるようなイベントも面白そうやなと思ってます。
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ひと昔前にサードプレイスという言葉が流行りましたが、全国どこにでもあるお寺という空間が、誰にも開かれたコミュニティとなれば、これほど素晴らしいサードプレイスはないのではないかと思います。何より、お寺さんには、その土地に根ざして地域の人々を見守ってきた場所だからこその「安心感」があります。老いも若きも、世代を超えて集って語らえる場として、お寺は大きなポテンシャルを秘めていそうです。
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