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「目標設定」をどう考えるか?

医療職の内容が含まれますが、どの方でもご理解いただける『仕事のコツ』です。

(患者治療の)目標設定に悩んでいた若手言語聴覚士のころ、スーパーバイザーから「目標は必ず数値化せよ」と指導されたことがある。

目標設定はわりと難しいので、新人のうちはつい抽象的な目標を書いてしまいがちだ。たとえば「QOLの改善」とか「日常コミュニケーションの確立」など。しかしこれでは具体性に欠けてしまう。

バイザーの数値へのこだわりは「新人のうちは具体的な目標にしなさい」という意味合いでの指導だと思っていた。


ただ、疑問に思うこともあった。それは毎度のごとく「数値化」を求めてくるからだ。

言語聴覚士とは、脳卒中による脳の病状や、ことばを扱う医療専門家なのだが、病状のすべてを「数値化しろ」というのは難しい。もちろん標準化した評価尺度はあっても「前年度5%増し」のようなビジネスライクとばかりにいかない。

わたしはある一人の患者の目標を、悩んだ挙句「まんがの説明5点」という『数値を用いたが、治療イメージに欠ける目標』をバイザーに提出した。

下の画像は「まんがの説明5」の評価項目をもつ、言語検査の一部分だ。

「まんがの説明」とは4コマ漫画を見てもらい、説明するというもの。目標設定の5点とは「概ねことばでの説明が成り立つ」だが、所詮は検査レベルに過ぎない

この目標を見たバイザーはとっても納得していた。しかし、この症例を院内で発表すると私への”批判”が相次いだ。


その批判とは「ひとのコミュニケーション力を5とするのは窮屈で寂しいではないか」という、意見。確かにその通りだともう。

もしも、私がこの患者だとして、こんな目標を打ち出す療法士にリハビリを受けていたら正直やるせない。5という決められた枠のなかで、他人の人生や脈絡を判断されるなんて、あまりにも無機質だからだ。

その後、目標設定において、納得の一冊に出会った。

読んでみて分かったのは、ひとの思考パターンには「とある二峰性」があるということ。

ざっくり説明すると、バイザーは「具体」、わたしは「抽象」といった思考パターンだと分類できる。この思考パターンを目標設定、すなわち問題解決に活かすには、具体と抽象、双方の駆動が効果的だと書かれていた。

その方法とは、バラバラに散らばる具体案をつなぎ合わせてみて、その中から、それぞれの共通項を探してみるというもの。

すると、抽象性の高い人ならトップダウン的に線のイメージ(問題解決)が湧いてくる可能性があるのだという。

数値は「誰が見ても理解できる尺度」だけに、安易に使われがちだが、目標そのものが複雑であった場合、数値単一では足らなすぎる。そこを、具体、抽象の両翼で「思考の視野を拡大」し、画一的な思考パターンに陥らない様にするのだ。


リハビリの目標は「既往、現在、予後」を包括すれば、大体の目標が複雑になる。いま現在、確実に分かる要素や数値、医学的根拠を拾い、その患者の人生背景にある要素をつなぎわせ、日々の変化を鑑みて目標を設定していく。

こういった手順をひたすら繰り返せば「バランスが悪るく、不足ぎみ」な目標にはなりにくく、設定中のエネルギーコスト削減にもなる。


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