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あなたの言葉は、だれを励ますのか?

『自分の病気』がきっかけで医療従事者を目指す人がいる。

私自身もそのひとりで、声を思うように発せられない。

かぜの後に、声がおかしくなり、話し続けることがきつくなった。いまでこそ慣れてきたものの、19歳というこれからの時期だっただけに死ぬほど落ち込んだ。

得意だったカラオケにはもう行くことはない。

とはいえ、話すことができなわけではないのでなんとか生活してこれた。これがきっかけで言語聴覚士(言葉・飲み込み・聴覚に障害がある人へのリハビリ専門職)を目指しなんとか合格。

医療職だけあってさすがに厳しい道のりだった。免許習得後はもっとキビシイ毎日で、研鑽に励まねば使い物にならなくなる。

そんな私を支えてくれた二人の先生からのことば。

「病気になった人は病気のひとの気持ちが良くわかる」
「あなたは天性を秘めているかも知れない」


言語聴覚士を目指そうと思い、はじめて出会った先生は当時日本でも珍しい、フリーランスの言語聴覚士(訪問言語聴覚士)であった。

なんとこの先生、ご自身が大学時代に『失語症』という、頭のなかで言葉そのものが作れなくなる病気になってしまった。わたしの音の病気よりよっぽどキツイ症状である。

キツイというのは単に「話す」だけでなく、「聞く・読む・理解する」ことも困難になる。

それはまったく言葉を知らない外国で孤立するようなものだ。

平澤先生は厳しいリハビリの末になんとか自分のことばを取り戻し、いまでは失語症の第一人者としてご活躍されている。

その先生のことばは、

「失語症者を理解できるのは失語症者であり、私たち言語聴覚士である」


私が実習生だったときに出会ったもう一人の先生は、とにかくすごい人だった。

横浜の元ヤンキーで、1度の留年と国家試験を5回落ちた日本で随一のネタ言語聴覚士だ。

生い立ちもさながら「俺はおちこぼれの落第生だった」と過去を赤裸々に語る先生はいま現在、嚥下障害分野において医師ですら学びを得に来るほどお方である。

そんな先生は私にこう伝える。

「きみは音声障害があるんだろうー?じゃあ患者さんの気持ちが誰よりもわかるはず。それってすごいよ。天性なんじゃないか?言語聴覚士が」

実習中、上手いことできない私にかけてくださったことば。

凄い人たちの発することばは『こうもあたたかく力強いんだなーっ』と感銘を受けた。臨床に出て幾年かたつが、今でもこのことばが私のこころに深く刻まれている。

テレビドラマでは医療スタッフと患者とのやり取りが多いが、現場ではこういった表に出ない医療従事者どうしのやり取りが隠されているのである。


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