Z世代に生きるただの音楽好きとして

 先日、私は自身のYouTubeチャンネルで公開していたとあるアカペラ動画を非公開にし、こういうツイートをした。

 これはその動画で私が歌っている動画に権利関係で申告があったという訳ではなく、原曲のミュージシャンに対しての私なりの意思表明である。該当動画は再生回数が沢山あった訳ではない。なんせ8回しか再生されていない。
 しかし、そんな動画でも高評価やコメントを残してくださった視聴者の方がおられる。その方々には、こういった行動をとってしまい大変申し訳ないと思っている事を、ひとまずこの場を借りてお伝えしたい。

 誠に申し訳ございませんでした。


 さて、私が非公開にした動画の原曲ミュージシャンを上記のツイートでは名前を伏せたが、ここからは敢えて名前を出させてもらう事にする。

 まず非公開にした動画で歌わせていただいた楽曲は『さよなら夏の日』。

 そしてその楽曲をこの世に生み出したミュージシャンとは、山下達郎氏である。

 ここまで書けば、この記事で私が今からどういった事を書こうとしているかなんとなく推察した方もいるだろう。

 ここから私が書こうとしているのは現在世間の注目を集めている「音楽プロデューサー・松尾潔氏がスマイルカンパニーに契約を解除された件とそれに伴う山下達郎氏の言動」についてである。

 根本の問題であるジャニー喜多川氏の性加害についてや、松尾氏の契約解除、またそれを受けた山下達郎氏が自身のラジオ番組で発言した内容などについては文字起こしがされている記事や動画が既にいくつかあるのでそちらを紹介させていただきたいと思う。

※山下達郎氏のラジオ番組の文字起こしの記事などがあればここに置きたかったのですが、私では出来るだけバイアスを排除した中立性を保ったものを見つけられませんでしたので、動画の共有のみとさせていただきます。
 またジャニー喜多川氏に関する記事などはセンシティブな話題且つあまりに内容が玉石混交な記事が多いのでこの記事のみの共有とさせていただきます。


 あらかじめ言っておくが、これから書く事はあくまで、2000年生まれのZ世代の真ん中に生きるただの音楽好きな若者としての意見である。特段事情に詳しい訳でも無いから、あくまで現在報道されている事実に基づいた事のみしか言わない。あしからず。
 また私の基本的な主義は「自分なりの意見は持っておくに限るが、それを公表する事は特にしない」というものである。

 私が一体何者なのかは私のTwitterやこちらのnoteを参考にしていただきたい。要はただの一般VTuberである。


 はじめに、なぜ私が今回こういった事を書こうと思ったかを説明する。

 まず私自身の信条として

●作者と作品は分けて考える
●仮にもVTuberというエンターテイナーをやっている身として、私の活動を見た人が笑えないような事は極力したくない

というものがある。

 今回の問題に関しても全く愉快な内容では無いので、眺めるだけにとどめておこうと思ったのだが、今ここで何かをしないと最終的に自分で自分を許せなくなりそうだったから敢えて書こうと思った。


 次に言っておきたいのが、私はジャニーズのアイドルたちに好感を持つ者であり山下達郎氏に関しては親の代からファンであるという事だ。

 ジャニーズに関してはベストアルバムを数枚持っていたりドラマなどで素敵な演技をしたりバラエティで活躍する姿を見て良いな~と思う程度で、あまり熱心なファンではないが、それでもジャニーズのアイドルたちにある程度の好感は持っている方だと思う。

 山下達郎氏に関しても両親の影響で物心つく前から聴いていて、私の中の音楽の確立とその源流に少なからず関わっているミュージシャンのひとりであり、私の想い出に欠かせない音楽である。
 数か月前に山下氏が珍しくインタビューに答えた音楽番組や昨今の音楽業界について語っていたインタビュー記事などを読んで「流石は山下達郎だなあ」と素直に感銘を受けていたし、数週間前には彼を取り上げたnoteを書いてもいる。


 だからこそ、今回の件はとても悲しかった。

 尊敬する人の尊敬する人が凄まじい規模の性犯罪者であり、それが『事実』として認定されているにも関わらず尊敬している人がなおもその人への敬愛を強調した事が、何より辛い。

 これでは山下達郎氏を尊敬する私までもがジャニー喜多川氏を支持しているという事になりかねない。ラジオ番組で自身が言った通りに性加害(性暴力)を決して容認してはいけないと思っているのであれば、ジャニー喜多川氏への敬愛をよそに置いてほしかった。

 そして挙句の果てに「このような私の姿勢をですね、忖度あるいは長いものに巻かれている、とそのように解釈されるのであれば、それでも構いません。きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう。」と言い放ち、自身のファンに一種の踏み絵を強要する。これは非常にいただけない。
 それぞれの考え方で違うだろうが、人によっては「性加害の事実がある人の容認をしなければ自分の音楽は聴かせない」という一種の脅しとも受け取られかねない。

 それに、そのラジオ番組内でジャニー喜多川氏の性加害を「本当にあったとすれば」と形容したり松尾氏の事実のみに基づくジャニーズ事務所や音楽業界に対する『提言』を「憶測に基づく一方的な批判」と形容したりするなど、まるで事実かどうか不明であるかのように発言している事も悲しい。

 ジャニー喜多川氏の性暴力は1999年~2003年にかけての週刊文春とジャニーズ事務所の裁判で東京高裁により、少なくとも過去に行った行為は『事実』であると認定されている。

 ただラジオ番組内で実際に1999年の裁判を知らなかったという旨の発言をしている以上、現在の山下氏はその裁判で認定された『事実』を知っているはずである。

 それなのに、聴衆に事実誤認をさせかねないような言い方をしている事が俄かには信じがたい。


 また、本当に今までジャニー喜多川氏の性加害について知らない上でジャニーズ所属のタレント諸氏を応援したいと思っているなら、まず『事実』を受け止めた上で彼らがこれ以上不必要な傷を負わない為に第三者委員会の設立に協力するなど色々と出来るはずである。

 しかし、実際に山下氏が行ったのは誰がどう見ても揺るぎようのない『事実』に基づいた松尾氏の『提言』を受け入れず、事もあろうに松尾氏の契約解除には松尾氏側に他にも過失があったと発言するという事であった。デタラメが拡散される事を卑怯と言うのなら後出しじゃんけんも卑怯である。

 山下氏の言う『ご縁とご恩』と私の中にあるその価値観とが乖離している可能性も否めないが、敢えてその感情論に則って言うのであれば、山下氏は『ご縁とご恩』を感じているジャニーズ事務所を断腸の思いで諫め、スマイルカンパニー社長から突如契約解除を言い渡された松尾氏を守るべきだったのではないだろうか。古い日本映画や世界の音楽が好きだと文化人を気取るなら、自らの首を斬られる覚悟で諫言するだったのではないか。私にはそう思えてならない。

 もしくは仮に山下氏の言うように松尾氏の過去の言動に看過できないものがあり、それを認識していたとしたら、松尾氏と『ご縁』を持つ先達として諭すなり諫めるなりして道を正す事も出来たはずなのにやらなかった事になる。どちらにせよ山下氏自身の過失も認めないと意味が通らない。

 しかし他人を諫め諭す行為にはとてつもなく覚悟が必要な事であるのも分かるし、怖気づいて諫言出来ない事もあると思う。人間だし、それくらいは誰にだって普通に起こりえる事だ。

 だが、山下氏ほどの人物がラジオ番組で発言する事を選ぶのなら、言葉を慎重に選び、言い方を工夫し、遠回しながらも松尾氏を擁護したりジャニーズ事務所やマスコミに対してそれとなく諫言する。またはその逆の事も出来たのではないか。

 それをせずにこういう顛末を辿ってしまった理由はなんなのであろう。

 もはや私には想像する事すら難しい。

 結局山下氏は、約7分に亘って『ご縁とご恩』を建前に長いものに巻かれる宣言をしただけである。

 内側から発露する感情に身を任せればもっと色々言いたい事が浮かんでくるが、それではいけないと学んでいるのでこれ以上感情に身を任せる事はしない。


 山下氏は自らの事を『ARTISAN(アルチザン)』、つまり『職人』であると言っている。

 これは自らをアーティスト(芸術家)であると形容する事に抵抗があるからだそうだが、職人であるならば、ことさら世の中に目を向け、今の自分に何が出来て何を生み出すべきなのかを考えた方がよかったのではないかと思う。

 たとえ遠くとも自らに関係がある問題に目を向けず、ただ自分の好きなものを生み出す。

 それはもはや職人ではない。ただの手先が器用な人である。

 もし本当に『職人』だというのなら自らを慕ってくれる数多の素晴らしい後進のミュージシャンたちを育てる義務があるのではないのか。

 それすらを放棄し、聴きたい人だけ聴けばいいと切り捨てるのは山下氏が敵と見なしている「文化人気取りのいけ好かない芸術家」そのものではないか。

 誰が聴くか分からないけれど、聴いてくれる人が聴いてよかったという音楽を作るのが『職人』としての責務ではないのだろうか。


 私はこの件で、この大規模な性暴力問題から距離を置いてあまり考えを巡らせなかった自分を恥じた。

 私もまた、被害者の声を聞こえないふりをしてしまった加害者である。

 だからこそ、その罪を償いたい。

 今回のジャニー喜多川氏の性暴力の被害を知って、何かしらのモヤモヤを抱えている人がいたら、可能であればそのモヤモヤと向き合って自らの中でこの問題に対する姿勢を確立してもらいたい。

 問題が問題なだけに考える事に非常に気力も体力も奪われる。

 実際、私自身も元々健康体ではない上に夏の暑さにすっかりやられている中で考えを巡らせたのでなんだか表情は晴れないし本当にこの文章を公開してもいいのかどうか悩んでいる。
 本当なら好きな音楽を聴いたり好きなアニメ観たり好きな漫画や小説を読んだり好きなゲームをしていたい。

 しかし、考えなければいけない。

 そしてそれぞれの姿勢、ひいては大衆の姿勢をジャニーズ事務所や芸能界に訴えなければこれからも何処かで同じような性暴力被害は続いていくだろう。

 今ここが変われる最初で最後のチャンスだと私は考えている。

 もし、このnoteを読んだ方の中に今回の諸問題について、事実に基づいた批評が出来る能力を持った方がおられるなら。

 どうか、考えてほしい。

 ジャニーズのアイドルたちが大衆から常にモヤモヤとした感情を向けられるこの不健全極まりない状況を一刻も早く健全なものにする為にも。

 性被害に怯え、その被害を訴える人たちが少しでも健やかな生活を送る為にも。

 これからを生きていく子どもたちの為にも。

 我々が、正しく『アトムの子』でいる為にも。



※もし、この記事の内容に問題がありましたら丁寧にご教示くださいますようお願い申し上げます。

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