サくら&りんゴ #78 おしりでわかる位置情報
目が覚めると
あたりは仄暗い
遮光カーテンの隙間からわずかに光
灰白いシーツ
灰白い枕カバー
列車の音が聞こえる
裸足でベッドから絨毯に降り立ち
手探りでトイレへ
体はまだ眠っている
座ると
ぼんやりした半開きの目に
おしり
という文字が写った
あ、日本語だ
頭の中がぐるりと回って
そこではっと覚醒する
そうだここは日本だ。
無事日本に入国出来たのだった!
体の中の位置情報がまだバンクーバーのホテルから更新されていなかった。おしりは壁に取り付けられた、ウォッシュレットのリモコン表示である。
バンクーバー便は、昨夕5時ころに成田空港に着陸していた。そこまでの道のりが混乱を極めたのに、そこからがまた途方もなく長かったのである。
バンクーバーでのドタバタ↓
成田着陸後、入国組はしばらく待機し、機内を出たあとは書類配布と誓約書等の記入、陰性証明等の書類チェック、過去滞在地域の確認、インストールアプリの確認、位置情報設定の確認、QRコード登録。これら各々を関所のように通過してようやくPCR検査場である。
私にとってはこの5日間で3回目のPCR(は、鼻血が出そう、と思ったが3回目は唾液)
そして検査結果を待つ。
この時点ではまだ入国していない状態。
そしてそこで待って、待って、待った。
後に分かったが、PCR検査番号を使って宿泊施設(それぞれに強制隔離の有無や日数が違うので)に振り分けていて、検査結果が出ていてもその作業に時間を要しているらしかった。急に強制隔離地域が増えての事だろう。私は成田空港付近のホテルかと思いきや、汐留行きとなった。
グループごとにシャトルバスで移送される。
汐留のホテルに着くと、先行の到着者の受付が終わるまでバスの中で待機。その間、シャトルバスドライバーさんの無線機から聞こえてくる会話で混乱の様子が伺えた。このホテルはもともと羽田空港到着者だけだったのが、急に成田からの隔離者も振り分けられたらしかった。政府からの急な要請であわてているのは旅行者だけではなかった。
強制隔離中は成田空港周辺より汐留の方がウーバーイーツ頼みやすいかも、なんてお気楽に思ったりしたが、ホテルの担当者からはオーダーはできるが、デリバリーがあっても担当者がいつ部屋まで届けられるかが分からない。生モノや調理したものは控えてくれと。
その疲弊した様子に、文句を言えるような状況でないことが見てとれた。
ホテルの受付でも健康チェックや過去滞在地域の確認、QRコード、そして体温計とお弁当が配布され部屋に入ったのは夜中の12時近く。
着陸からすでに7時間が経っていた。
私はスーツケースのカギも開けずお風呂に入ったあと、髪を完全に乾かす力も尽きてベッドの上で意識がなくなったのだった。
電車の音に誘われてカーテンを開ける
ベイビーブルーの空が見える
それをキャンバスにビルが立ち並んでいる
高架の線路がホテルとビルの谷間を走っている
あ、山手線だ
草色の列車が通過していく。
そこへ空と同じ色をした、え~となんだっけ、
そうそう京浜東北線。
あ、新幹線だ!
嬉しくなって写真を撮る。
次は成田エキスプレス!
6歳の男の子の気分である。
撮っている間にも次の電車が来る
また次のが来る
ほらまた新幹線。。。
撮り始めて気づいた。
シャッターチャンスを逃すことが不可能なくらい、1分と空けず電車がやって来ることに
ああ、東京に戻って来たんだ。
そう思った。
ひとりで東京に戻って来たんだなと。
ところで、過去14日間の滞在地域を申請するときにのことである。カナダやアメリカは州単位で強制隔離期間が違う。
私はもともとオンタリオだけのところが、バンクーバーで予想外の一泊があり、こちらも申請しなければならなくなった。申請と言っても口頭で伝えるだけなのであるが、到着後一連の流れの関所で
滞在の地域は?
カナダです
どちらの州ですか?
オンタリオそれからB.C.です。
ワシントンDC?
いえ、バンクーバーの・・・。
?
ブリティッシュコロンビアです。
なんだか説明すればするほどわかりにくくなっているようで、フェースシールドをしたおネィサンが自信なさげに、しかし赤ペンで大きく
オンタリオ州、 ブリティッシュコロンビア と表記。
その書類を受け取って私は行きかけたが
すみません ここにも州って書いてもらえますか?
ブリティシュコロンビアの後をゆび指した。
コロンビアのことは知らないが、英国はカナダ・オンタリオの3日間と違って、6日間の強制隔離地域に入っていたのである。
ここほんの数日で、地域や隔離日数が目まぐるしく変えられている。
私など一人旅はまだどうにかなるが、小さい子供のいる家族連れや薬が必要な人など、急遽6日や10日の隔離になったりしたら悲惨である。
2回目(!)の滞在地域チェック関所では
B.C.ですね?
と確認され、無事(?)3日間の隔離となった。
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。