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サくら&りんゴ #55 夜明け前

きっと朝のはずなのにまだ暗い
枕元のスマホを見ると7:00
最近は7時半にならないと日が昇らない
暗い朝は気持ちが沈む

夜明け前が一番暗いと聞いたことがある

遠くシーガルの声
東京だったらすでに一日の動き出しの音がしているだろう。
デイライトセービングが終わって1時間時計の針を遅らせるのが待ち遠しいくらいだ。


日本の事が心によぎる。

それはきっと昨日お隣さんに、

冬は日本に戻るの?

そう聞かれたせいである。
裏庭ガーデンで最後の踏ん張りがすでに虚しいトマトたちを、力づくで引っこ抜いていた時のことである。

そのつもりよ。

東京はここより暖かい?

うんとね。雪がないし。



冬のカナダが嫌いなわけではない。
雪のカナダがイヤなわけでもない。
むしろ
極寒の晴れた日のコバルトブルーと輝く雪の白とか
全ての葉を落とし裸になってなお、自然の美しさを見せつける木々とか
果てしないくらいに広がる雪の湖とか

そして薪ストーブの香りとか

心奪われるもの満載である。


でも冬場、ここでひとり過ごすのはあまりにつらい、今の私には。

日本食は大好きだがこの地にいて、日本食が恋しくなったことがない。
夫と生活していて、それどころではなったのかもしれないし、今より頻繁に行き来していたせいかもしれない。
カナダにいて日本が恋しいと思ったことがなかったのである。

でもブランケットの端っこが冷たい夜明け前、私の気持ちは何とも弱くなっていく。

心が東京に戻るのはきっと、昨日宅配物を受け取ったせいだ。
クリスマスのプレゼント、あるいはカナダのお土産にと、東京に居るすっかり大人の、私の子どもたちに買ったものである。

それは日本にいるちかリンに教えてもらったルルレモン。
モールでそのお店の看板lululemonを見ていながら、見てるだけよ~で発音していなかったため、頭の中でマッチしなかったというお惚けであったが、人気のスポーツ系衣服ブランドである。
来冬季オリンピックの公式ユニフォームを手掛けることになったとコマーシャルでやっていた。

買ったのはそのロゴのついたシャツを3種類とウォーターボトル。元サッカー少年マーチュと最近筋肉づくりに励んでいる、華奢で小さかった昔からは考えられないアーニャにピッタリかと。

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なんで3つずつかって?
そりゃ、アーニャとマーチュ、そして母の分。
母とおそろなんて、マーチュからはひかれそうだけれど、ほとんど会わないので(!)大丈夫。
しかしウォータボールがデカい!
勝手に日本サイズと決めつけて大きさを確かめなかった、相変わらずのうっかり母である。

そういえば、
大抵の配達は手渡しではないので、来る前と配達後にメッセージが来る。
lululemonからは

The waiting game is over
Your gear has been delivered

と気の利いたフレーズ。
たいていは二行目の様な、配達されました、だけなのに。

そんなこんなをクスっとしながら思い出す。
気持ちが日本にすっ飛んでいく。
ベッドの中で少し心が軽くなって ブランケットをぐいっとアゴまで引き上げる。

夢を見た
夫はお気に入りのアメリカンフラッグをデザインした襟付きの長袖シャツを着ていて、そこはどこだろう、日本のテーマパークか動物園か、広いエントランスにまばらに人がいて。
そこで私は、夫に何かを呼び掛けているのである。
何度か声に出して言ってそして自分で笑うのである、
あらやだ、私ったら日本語で話しかけてる。

可笑しくって目が覚めた。
声に出して笑ってたのに
思い出せない。
私は夫に何を呼び掛けていたのだろう


日はすっかり昇っていて
カーテンのない窓から差し込む朝日がまぶしい。
ノドに本当に笑ったような不思議な感覚が残っている。

ベッドから身を起こす
窓から外を見ると
数えきれないほどのシーガルたちが空を飛んでいる。

とりあえずの一日がまた始まる。

でもあるいは
何か新しいことが始まるかもしれない。
少し楽しいことも見つけられるかもしれない。

ふっと、そんな風にも思えた。

何がそう思わせたのかわからない。
ふっとそんな気がしただけ。





日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。