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サくら&りんゴ #131 一枚の写真から

ああやっぱり

私はひとひらの写真を手にしていた。

日本に帰国していた時から気になっていた。カナダ湖畔の家のどこかに、確かダンボール箱の中に、その国の写真があったはずだと。

一面に広がる畑。それはどこかカナダではないと感じる場所。

小麦のビジネスで中国、アルゼンチン、そしてウクライナを往復していたと夫が話していたことがあった。私と出会うずっと前。夫が発音するUkraine(ユークレイン)と私の日本語のウクライナがまだ結びついていなかった頃である。

夫が亡くなった後、たまたま開けた箱の中にその写真はあった。小麦の穂を手に取って大写しにしたものや製粉工場の写真。私は興味がなくてまたダンボール箱に戻していた。

ただ、その中のいくつかの写真にあった薄っすらとした東欧の香りが、頭の隅にとどまっていた。

日本からカナダの湖畔の家に戻ってダンボール箱を探した。そして見つけたのがこの写真たちである。

青空の下のキャノーラ畑

青い空と黄色い畑の写真が数枚。そしてその一枚の裏に、夫の字でUkraineとあった。

帽子の男性が夫。左下の写真には遠くお城のようなものが見える

やはりウクライナの写真だった。日本に帰国中、戦争報道が始まるまでこの地の国旗も知らないほど私は無知だった。しかしそれが青い空と小麦の大地を表しているのだと聞いた時、頭の隅っこにあった写真の微かな記憶がふいに呼び起こされたのである。

国旗を意図して撮ったかのような美しい空の青と、キャノーラ畑あるいは向日葵の黄。そこに立ってカメラのシャッターを押していた20数年前の夫は、今あるその地の地獄を想像もしなかっただろう。

写真と一緒にこんな物も出てきた。
黒地に花や鳥の図柄がペイントされている。

Ukraine traditional painting で調べると似たようなデザインのものがヒットした。夫はお土産品で購入したと思われるが、本物はこういうものらしい↓

となると本棚にずっと置いてあるマトリョーシカも気になるではないか。なんだか可愛くなくて(私の好みとして)中を確認したこともなかったのである。マトリョーシカはネッカチーフをかぶった女の子でなくちゃと勝手に思い込んでいたものだから。

アルコールが入ったようなピンクのほっぺがユーモラス

布切れでつるりと頭の埃をぬぐう。
きゅくきゅくと音をさせて胴体を開ける。
すると
あらあらあらあら・・

女性は楽器を男性は食べ物を持っている

ネッカチーフの女の子も出て来るではないか。マトリョーシカは同じ図柄の物が入っていると、こちらもてっきり思い込んでいたのだ。
よく見るとそれぞれに持ち物が違う。

色々調べる中で、ペトリキウカ塗りはウクライナがソ連に併合されたあと黒地の大量生産品が出回ったこと、マトリョーシカはロシアの物は同じ図柄、家族構成になっているのはウクライナのものだと書いた記事も見つけた。写真のマトリョーシカは家族とはいい難いが・・・
(Matryoshka はNesting dollで調べるとヒットしやすい)

いちいち、へ~!と驚いている私である。

そしてウクライナ関係の新しい発見はこれだけではなかった。
(危機迫った戦況とは程遠い内容で申し訳ないけど)

冷凍庫にあった同居人の保存食。

彼がダンプリンと呼んでいたので、てっきり餃子だと思っていた。
そうしたらある日オーブンで焼いた後、刻みオニオンにメープルシロップをかけて食べている同居人を見かけたのである。

餃子にメープルシロップ?何それ?!

ひとつ拝借して口に入れる。
中から出てきたのは肉汁ではなく。くにゅりとしたマッシュドポテト。なんでもperogies(ピローギ?)とも呼ばれているらしい。

腹ペコ学生時代の定番だったよ

私が知らなかったことに驚いている同居人。

調べてみると↓

ウクライナの伝統的な料理のひとつだったのである。
さらに調べるとスラブ諸国、バルト諸国に広く普及していて呼び名も微妙に違うらしい。
さらにさらに、ウクライナ系の移民の多いカナダでは”スーパーマーケットの冷凍食品の定番”とあるではないか。全く気付いていなかった、あるいはギョーザだと思い込んでパッケージの詳細を見ていなかった私である。

思い込みとはホントに手が負えない。

そしてそのピローギ
なんとカナダ・アルバータ州には銅像まであるらしい。

写真はTourisme Albertaから拝借しました

空の青と小麦畑の黄。その旗を持つ知らない土地への思いに駆り立てられてきた。時に悲壮感も纏って。
でも今回の生活レベルでの文化探索の結末にはちょっぴり気持ちもほぐれることとなった。

それにしても、ダンプリンひとつとっただけで、知らない事は尽きないなあ。

日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。