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“デザイン” を重視しないプロダクトに発症しがちな3つの病い

この記事は、2017-09-13に他ブログで書かれた記事の転載です
死に至る病とは絶望である
セーレン・キェルケゴール

こんにちは、デザイナーの上田です。

先日経済産業省からIT関連産業の給与等に関する実態調査結果というレポートが発表されましたが、「デザイナーの給与水準が低すぎるんじゃないか」「デザインをもっと重視するべきなんじゃないか」と話題になりましたね。

個人的な所感は、大企業やITベンチャーの中にも経営チームにCDO(最高デザイン責任者 / Cheif Design Officer)のポジションを設置するなど、経営的にデザイン思考や人間中心設計を重視する企業も増え始め、世の中のデザインに対する価値観の転換を感じています。その一方で、社外のデザイナーと話していると、大半の企業は「デザイン?何それおいしいの?」といった状態であるようなので、リソース(人数、給与など)の割き方という意味で、“デザイン格差”がすごいのが現状なのかなーと思ってます。

では、率直な疑問として、デザインにリソースを割く場合とそうでない場合とでどのような“差”が生まれるのでしょうか?逆に言えば、なぜ企業がデザインに力を入れ始めているのでしょうか?

デザインにリソースを割かない場合に陥る症状は無数にあると思いますが、私の専門であるWebやアプリなどのプロダクトデザインに焦点をおいてご紹介できればと思います。

今回はご紹介する病いは、以下の3つです。

・情報アーキテクチャ不全
・バナー依存症
・ターゲット失調

一つでも当てはまる企業にお勤めの方は、ぜひお早めの治療をご検討くださいっ |´・ω・`)

病名①「情報アーキテクチャ不全」

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デザインにリソースを割かないと、情報アーキテクチャ不全にかかります。

情報アーキテクチャとは、対象のWebサービスやアプリが提供している情報を可視化し、ユーザーにどんな行動を取ってほしいのかを考え、適切な機能やコンテンツの配置に落とし込むアプローチのことです。

情報アーキテクチャの実践を怠ると、サービスの成長の過程で新しい機能やコンテンツを五月雨に追加する形になりがち*で、みるみるうちに情報構造が複雑になってしまい、ユーザーが混乱したり、迷ったりしてしまう症状に陥ります。

*類似する考え方として「誰のためのデザイン?」という本で、「機能症」という概念が紹介されています。

また、新しい機能やコンテンツを追加する時に、ラベリングや導線で延々の議論が続いてしまい収束しない経験はありませんか?

ユーザーの混乱を招く複雑な情報構造になってしまっているということは、裏返すと開発チームの視点で見ても同じように整理のついてない状態なことがほとんどなので、大抵は開発スピードの鈍化、自社サービスの展開力の低下につながります。

怖いですねー。

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Booking.com の公開している事例が分かりやすかった。これはリニューアル前のトップページの情報構造の可視化だそうですが、異なる性質の情報がページ内で散らばってしまっているのが確認できます。
引用:https://uxdesign.cc/booking-com-ux-analysis-and-responsive-redesign-5854d616c0b8

情報アーキテクチャ不全の治療法

治療法を考えてみます。

情報アーキテクチャ不全に陥った時、そんな時に活躍するのは情報アーキテクチャの実践なわけですが、具体的なアクションとしては、デザインシステムの策定・導入やデザインリニューアルを検討してみるのがよいかと思います。

抱える機能が肥大化してきたタイミングで、デザインリニューアルを実施する会社も実例としてはありますし、デザインシステムとしてプロダクトの情報設計やビジュアルデザインのルールを定義し、それに準拠して日々の機能開発を進めることで、情報構造の整合性を保ちやすい状態を作り出すことができます。

どうしても大きなコストはかかってしまいますが、ユーザー体験の向上や開発の生産性の向上につながる施策になると思うので、中長期的な視点で検討したい取り組みです。

クラウドワークスではどうしてるの?

自分でこんな記事を書いておいてなんですが、クラウドワークスは情報アーキテクチャ不全を抱えているサービスの一つです。

創業時にUIのコンポーネントをパーツ単位で管理するスタイルガイドを策定し運用を進めていたものの、情報アーキテクチャの指針やUIの拡張性のない仕組みだったこともあり、一部形骸化してしまっている部分があります。

そのため、クラウドワークスのUXデザイングループでは新たにデザインシステム作りのプロジェクトを発足させ、現在進行中で策定を進めている最中です。現時点で詳細をお伝えできず申し訳ないのですが、またいつかご共有できればと思います。

なお、今回は情報アーキテクチャについての詳しい説明は省きましたが、具体的に詳細を知りたい方はUXデザイングループの文部科学大臣、田村さんオススメの「しろくま本」を読んでみてください。

情報アーキテクチャ 第4版 ―見つけやすく理解しやすい情報設計

病名②「バナー依存症」

デザインにリソースを割かないと、バナー依存症にかかります。

バナー依存症とは、トップページやマイページなどアクセスの多いページがバナー置き場になる病いのことです。

実はこれ、オライリーで出版されてる「デザインの伝え方」という本でも紹介されてまして。

トップページ症候群

アプリケーションの起動画面やウェブサイトのトップページが「なんでもありのガラクタ入れ」と化してしまう事態。リンクやボタン、バナー広告がひしめきあって使い勝手が非常に悪く、デザイナーが「泣きながら寝入る」しかない。

身に覚えのある方もいるのではないでしょうか。最近はあまり見かけなくなってきましたね。

バナー依存症が発症してしまうと、対象ページにバナーを五月雨に追加する形になりがちで、使い勝手が非常に悪くなってしまい、ユーザーの適切なサービスの理解を損ない、ページの本来の役割を果たせない症状に陥ります。

ユーザーの期待や目的と内容が異なるケースが多いので、ユーザーの離脱につながりやすく、コンバージョンなどの成果も多くは見込めません。残念ですね(マイクロコンバージョン的なものはもちろんあると思いますが、あまりオススメできません)

バナー依存症の治療法

具体的なアクションとしては、 ユーザーの行動をできる限り阻害しないバナー表示エリアの確保や、ユーザーが新着の情報を受け取りやすいお知らせ機能の整備などがよいのではないでしょうか。ユーザーに訴求したい新サービスや新機能が増えること自体は喜ばしいことなので、伝えたい情報がしっかりとユーザーに伝わりやすい仕組みを作ることが重要と考えます。

クラウドワークスではどうしてるの?

クラウドワークスはバナー症候群の感染に気づき、対策を進めていますが、まだ道半ばです。

実際にクラウドワークスのトップページやマイページでもファーストビューにサービスの機能とは関係ないバナーがたくさん表示されてしまう課題など、症状に現れていまして、現時点の対策としては、ユーザーのサービスを利用する行動を阻害しない形で新着の情報を露出できるように、マイページのUI改善のタイミングでデザインを変更・リリースなどの手を打っている状況です。

また、バナー依存症の症状を避けたほうがいいのではないかとデザイナーが気づけたとしても、実際に改善を進めていく上ではマーケターやエンジニアなどの理解や協力が必要になるケースが多いと思います。その際は、デザイン思考や人間中心設計の考え方を軸にしつつ、関係者とコミュニケーションをとりながら改善を進める形になるでしょう。

マーケターやエンジニアなどの関係者とコミュニケーションをとっていく上で、少し応用編にはなりますが、クラウドワークスではプロダクトのユーザー体験の指針となるUXガイドラインを策定・浸透する活動を行っているのですが、組織のリテラシーや価値観の啓蒙にも役立っています。

病名③「ターゲット失調」

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デザインにリソースを割かないと、ターゲット失調にかかります。

ターゲット失調とは、サービスのターゲットとなるユーザーを曖昧にしたままサービス開発を進めてしまい、機能やコンテンツの一貫性を保てなくなってしまう病いのことです。

開発チームから「自分たちは誰のためにサービスを運営しているんだろう?」「これは誰のための施策ですか?」という声を聞いたことはありませんか?ものづくりをする上ではターゲットの設定は当たり前のようにも思えますが、競合の動きや技術の進化に引っ張られる形でサービスを開発をすると、ターゲット失調にかかる可能性が高まります。開発チームもモチベーションにも影響しますね。

ターゲット失調の治療法

具体的なアクションとしては、ユーザーインタビューなどの定性調査によるペルソナやカスタマージャーニーマップを通じたターゲットとなるユーザーや体験の可視化が一般的です。

具体的な事例だとAirbnbの取り組みが代表的で、ユーザーストーリーというデザイン手法でターゲットとなるユーザーや提供する体験を可視化し、開発プロセス内で常に参照できるようにすることで、工夫をしているそうです。

クラウドワークスではどうしてるの?

クラウドワークスは今年から定性調査の取り組みを始めています。

ユーザーインタビューやユーザビリティテストの実施や分析の回数を重ねるごとに、少しずつ自分の中にもユーザーの人物像やニーズについての感覚が芽生え始めてるようにも感じますし、ペルソナやカスタマージャーニーマップといった形で具体的なアウトプットになりつつある状況です。

さいごに

いかがでしたでしょうか?

今回は“デザイン” を重視しないプロダクトに発症しがちな3つの病いというアプローチで考えてみましたが、書き進める中で感じたのは、どの病いも症状が明らかに顕在化するわけではないので、病いの自覚や対策の打ちづらさがあるなーという点でした。

数字で表しづらい分野だと思うので、デザイナーやデザインを活用したい方々は、適切にデザインの理解を深め、検証しながら自分たちなりのデザインのスタイルを形作っていくのみなんでしょうね。

こんな形で日々悩みは尽きないわけですが、クラウドワークスをデザインの力でよりよくしていける仲間を募集していますので、ぜひお気軽にオフィスに遊びに来てください〜。

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