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見て見ぬふりはしない、ということ。――路上と日常と


資源ゴミ回収の朝

昨日は、缶、ビン、ペットボトルの回収日だった。
所定の場所に向かうと、真っ白なゴミ袋が見えた。
ああ、今日もか……。

45リットルのゴミ袋に缶が入ったまま、回収箱に置かれていた。袋から缶を1本1本取り出し、潰して、箱に入れ直す。
すでに箱に入っている缶も潰す。缶の嵩(かさ)を少しでも減らして、箱から溢れないようにするためだ。

ペットボトルを入れる所定の袋にも、ゴミ袋に入れた物が積まれていた。中を見ると、すべて蓋とパッケージが付いたままである。1本1本取り出し、蓋とパッケージを剥がして、袋に入れ直していく。

作業の途中で、缶とペットボトルを持ってきた人がいた。
「おはようございます」と声をかける。この一言の中に、「分別してくださいね、缶は潰して入れて、ペットボトルは…(以下、略)」を詰め込むつもりで、言葉を発した。
念が通じたのか、その人は、ちゃんと分別して入れていってくれた。

時には、捨てに来た人に注意しようとも思うのだが、口調がきつくなりそうで控えている。
挨拶に思いを込め、あとは、缶を1本1本潰す姿を見てもらうことで、メッセージが届けばと思っている。

この日、蓋とパッケージを剥がしたペットボトルは、全部で20本ぐらいあっただろうか。蓋とパッケージは持ち帰るのだが、これが結構な量になる(後日、不燃ゴミの日に出す)。
苦笑しながら、家に帰って、手を洗った。

ゴミの出し方も、まちづくりの一つ

こうしたことを始めたのは、5年前からになる。
以前は、年輩の男性がやってくれていた。だが、彼が引っ越してから、缶やペットボトルがポリ袋に入ったまま置かれ、惨憺たる状態になっていた。

私も当初は、それを放置していた。
だが、見て見ぬふりをしているのは、どうにも居心地が悪い。
誰もやらないのなら、俺がやるしかないか……。
ある朝、ふと思い立ち、始めた。

夏は、缶ビールや缶酎ハイからアルコールの臭いがきつく感じ、缶を潰していると手が酒臭くなる。ジュース缶の飲み残しにはアリが群がる。

冬は、ペットボトルの蓋とパッケージを剥がしていると、手がすっかり冷たくなる。数十本剥がしていたら、指が冷え切って、痛くなった時には驚いた。

コロナ禍で家飲みが増えたから、ビンも、缶も、ペットボトルも多くなっている。回収箱に入りきらずに溢れることも、しばしばだ。それでも、なおも、その上に缶を載せようとする人がいる。だから、あらかじめゴミ袋を持参し、回収箱の隣に置き、そこに入れるよう「誘導」することもある。

一人ひとりが、ちょっとした手間と時間をかければ、景色は変わるはずだ。
自分が捨てた缶やペットボトルの、「その先」はどうなるか。ほんの少しの想像力と心遣いがあれば、やるべきこと、やってはいけないことは、自然にわかってくると思うのだ。

日本各地のさまざまな人を訪ねて、仕事や働き方について綴っている西村佳哲さんは、「ゴミの出し方も、まちづくりの一つ」といった趣旨のことを述べている(『増補新版 いま、地方で生きるということ』ちくま文庫、2019年)。

「窓辺に置いた小さな灯りが、夜に帰宅する人たちの心になにかを与えることもある。いわゆるまちづくりや町内活動だけが、まちへのかかわりではないんじゃない?(略)自分がどんなふうにゴミを出しているかということさえ互いに小さな影響力を持つことを考えると、本当にいろいろなレベルのかかわり方がある」(前掲書、155~157ページ)

この指摘は、目から鱗だった。
そうか、私のやっていることも、まちづくりになっているのか、と。

日常の積み重ねが、社会をつくる

目の不自由な人を街で見かけると、できるだけ声をかけるようにしている。
「よかったら、お手伝いしましょうか」と伺い、その人が行きたい所に案内する。
朝のラッシュ時、改札口で立ち往生していた人に声をかけたときは、「こんなに大勢の人がいるのに、どうして誰も手を差し伸べないのか」と憤りを覚えた。

今年に入ってから、ホームレスの人にも初めて声をかけた。
「よかったら、召し上がりませんか」と話しかけ、コンビニで買ったコロッケパンとお茶を差し入れ、マスクを手渡した。
そして、NPO「ビッグイシュー基金」が制作している冊子「路上脱出・生活SOSガイド」(*1)と、小銭をお渡しし、「お困りのことがあったら、ここに書いてある団体に連絡してみてください」と言葉を添えた。どれも、友人の活動(*2)を参考にさせてもらったものだ(正確に言えば、真似させてもらった!)

見て見ぬふりはしない。
思い立ったら、行動する。

これは、311後、路上でのアクションから学んだことだ。
デモや抗議に参加していく中で、身体に刻まれた気がする。

日々の暮らしの中で、一人ひとりのちょっとした行動が、その積み重ねが、地域を、社会を形作っていくと思うのだ。

始めるのに、遅いということはない。
気がついた時が、その時だ、と思う。

(*1)「路上脱出・生活SOSガイド」は、東京・大阪・札幌・福岡・熊本・名古屋・京都の各地域版が作られ、配布されている。「『食べ物がない』『体調がわるい』『泊まるところがない』『仕事を探したい』『今すぐ仕事がしたい』『生活保護を申請したい』などと思ったとき、『どうすればよいのか?』を具体的に書いています。また、路上生活者以外も活用できる相談先情報についても記載しています」。希望者には、送料のみ負担で郵送してくれる。詳細は、このリンクを参照
(*2)和田靜香「路上生活に至るのは自業自得じゃない 『路上に暮らす人』に声をかけてみる」(ウェブマガジン「DANRO」2020年12月12日)

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