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第3話:欲に素直になる 編|『あのサッカー大国は、天国か地獄か』

▼第2話:他人と違う自分編

第3話:欲に素直になる 編

『あのサッカー大国は天国か地獄か』3

どうしてアルゼンチンを選んだのか?この質問は、日本人にも外国人にも、これまで死ぬほど聞かれてきた。正直なところ、狙いをあげればキリがなくて、僕にとって世界で唯一「完璧な国」がアルゼンチンだった。そこにあったプロセスを、記憶のある限り記していく。迷いが全くなくなったのは、出発から約1年前のことだったように思う。


"欲"

帰国してしばらく、僕は大学での仕事に夢中になっていた。シーズン途中から加入した僕は、彼らのゲームを数試合外から観ることになる。開幕から負けと引き分けを繰り返していた彼らには、彼ら自身が思っている以上のポテンシャルがあることを一瞬で悟ったのを覚えている。当初はBチーム以下のトレーニングや試合に帯同する予定だった僕だったが、サッカーのことになると全ての意見をぶちまけてしまう性格も手伝い、仲間に認められていくのと同時にトップチームの練習を少しずつアレンジするようになった。公式戦ではハーフタイムだけベンチに行って選手に指示をすることが許されるようになり、それからチームは残りの試合1回も負けることなく、都2部リーグを優勝し、1部リーグへの昇格を決めた。

指揮をする選手、所属しているリーグに関わらず、このような成功体験を若い時にすることが出来たのは非常に幸運なことだったように思う。当時はとにかく、ピッチに立つのが楽しくて楽しく仕方がなかった。トレーニングをして、大学の歴史に残る試合を毎週毎週戦っていくその興奮は、何にも代えがたかった。僕がプロフェッショナルの監督として生きていく覚悟が出来たのは、ちょうどこの頃だ。

「プロフェッショナルの監督になる」という目的が勝手に現実味を帯びてきた僕にとって、『ターニングポイント』は次の海外にいくことだということは、深く理解していた。そこで何かを起こさなければ、選手としての実績がない自分は、到底戦えないということも同時にわかっていた。なぜなら僕には、もうひとつ人とは違う考えがあったからだ。

育成のコーチをすることで下積みをする必要はない。なぜなら僕は「プロ監督」になりたいからだ。それは別の仕事。出来るだけ早く、監督として土俵に乗りたい。

僕がアルゼンチンへの挑戦において立てる戦略は、全てこの「欲」がスタート地点になっている。


欲に素直になる

そもそも僕は、海外で監督がやりたいわけじゃない。しかも、早くやりたい。

この自分の欲に気付き、また素直になれたことは、これまでの人生の中でも本当大きな分岐点のように思っている。なぜなら、日本人が、外国で監督をするというサクセスストーリーに、長い間縛られていたからだ。海外で監督として成し上がって行きたいわけではないのに、なぜ海外に行きたいのか…それを整理することから全てが始まった。

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