見出し画像

『サッカーしか知らない奴』にならないために、僕はここまでどういう戦略を持って生きてきたか——。

「サッカーしか知らない者は、サッカーすら知らないのだ」

僕はこの言葉を、本当に信じている。一番最初にこの言葉を見たのは確かまだ学生の時で、誰の名言として書かれていたのかは忘れたけれど、有名な監督が言った言葉として本に書いてあったのは覚えている。日本に一瞬だけ来たリージョも、同じように言っていた。

サッカー監督になると決めたのは20歳の時で、そこからこの言葉を常に意識してきた。理由は単純で、サッカーから外の世界に出てみたり、サッカーとは違う世界の本を読んだりすると、あることに気がつくからだ。「日本のサッカー界、全然おもしろい人がいない…」。いや、もちろんいるんだけれど、当時の僕は、他の業界や世界にいるような「おもしろい人」は、サッカー界では出会ったことがなかった。これは、まずいなと思った。

そこから、僕は「サッカーしか知らない奴」にならないために、21歳で仕事としてサッカーに携わるようになってから、いくつかの工夫をした。それらは偶発的に起きたというよりは、戦略としてここまで意識してきたことだと言える。もちろんサッカーとは別のことを勉強したり、本を読んだりといったようなことは当たり前だけれど、それ以外のことには、戦略が必要だった。


・・・


多種多様なアルバイトで社会をみる

僕が絶対に譲らなかったのは、アルバイトで社会を見学しにいくことだ。日本のサッカー界の常識が、日本の社会の常識ではないことくらいはわかっていたから。仕事を始めた21歳からアルゼンチンに行く25歳まで、僕はサッカーのピッチに立ちながらアルバイトをすることを絶対に自分に課した。例えばサッカーのスクールコーチをしたり、いくつか掛け持ちでコーチをしたりすれば、サッカーだけで貧乏でも1人で生きていくくらいの給料は稼げるけれど、絶対にそれはしないと決めていた。その上で以下のルールを定めた。

1:できる限り多種多様なアルバイトをする(長い期間やらない)
2:海外に住むまでアルバイトをする(そのあとは絶対にしない)

先に「2」を説明すると、僕は海外に最低3年は住む手段を見つけて実行すると決めていて、その海外から日本に帰ってきたときは(しばらく帰ってこないと考えていた時期も少しあったけど)、監督としてのキャリアをなにがなんでもスタートさせると決めていたから、それ以降は意地でもバイトはしないと決めていた。逆に言えば、僕の「アルバイトで外の世界を見れる期間」は、そんなに長くないということだ。だからその中でどれだけ多くの場所でアルバイトができるか、意識をした。その理由は後述する。

アルバイトをするとき、同じ業種は絶対に選ばず、長くても1年で変えると決めていた。僕が経験したアルバイトは以下。

1:飲食店
2:ホテル
3:スポーツジム
4:事務所移転
5:大手ブランドの販売員
6:ゲストハウス
7:工場

何か忘れている気がするけど、多分以上。どうしてこういろんなアルバイトをしようと思ったのか、説明したい。全てのアルバイト選択に狙いを持っていた。

主な理由は、

1:いろんな種類の人間に出会うため
2:どんな人間ともうまくやる術を身につけるため
3:各業種で職場の雰囲気がどう異なるかを知るため

だ。まず、アルバイトといえども、本当に職場が変われば出会うに人間の種類や特徴は異なる。僕は監督という、人間を扱う仕事をすることはわかっていたから、できる限りいろんな種類の人間を知っておきたかった。サッカー界やスポーツ界にはいないような人間が、世の中にはたくさんいる。いろんな特徴を持った人たちと出会うことで、誰とでもうまく仕事ができる術を身につけることも狙いだった。自分がプライベートでは関係を持つことがないような性格の人とも、仕事では結果を出すために、もしくはうまくやるために、接していかなければならない。

職場の雰囲気とはつまり、組織の雰囲気で、組織の先頭に立つ監督という仕事をする上で、いろんな組織をみておくのは必須だと思っていた。本で「全ての仕事がマニュアル化されている」という組織を知って、その組織にアルバイトに狙って行ったこともある。やっぱり自分には窮屈で、ただこの大きな組織がこの仕事で結果を出すなら、全てをマニュアル化した方が効率がいいな、というのも同時に理解した。

ここから先は

1,521字
サッカー、またはサッカー以外の分野から日々何を学んでいて、何に気付いて、何に疑問をもち、どんな風に思考を巡らせているのか、そのプロセスにおいてどのような知識や仕組みが必要だったのか…などが書いているマガジンです。記事数は150以上。

蹴球症候群

¥300 / 月

他分野を通してサッカーを解明し、サッカーを通して他分野を解明する

いただいたサポートは、本を買ったり、サッカーを学ぶための費用として大切に使わせて頂きます。応援よろしくお願いします。