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第19話 | 蕎麦

粋とかつかみどころのないとかそういったことにめっぽう弱いこの頃。

先日、大阪の実家から母が東京まで足を運んだ。
ここ一年半の間関東に住んでいる身として母を案内するのは少し誇らしげでとても楽しかった。

訪れた場所は、日本橋の室町砂場。
創業151年を誇る老舗で当日も約4組ほど列をなしていた

いざ入店してみると日本の家屋で美しい木目と出汁の良い香りが店中に漂っていた。
母と二人がけの机に案内され、

今回の本題はここからである。

隣の席に早くから来ていたおじいさまが一人ともう一つ隣に一人。
初めからはわからなかったものの、その二人は全くの他人で各自食事を楽しんでいるように見えた。
ビールに蕎麦屋のあてを数品。
なんとも優雅で粋な江戸っ子の飲み方である。

その後、我々も感想を言い合いながら食をすすめ鴨の鍬焼きや小田巻蒸しなどを食べてそばへと移った。

蕎麦をあらかた食べてしまった後、隣に目をやるとおじいさま同士で声高らかに笑い話している。
机を見ると、食べかけのつまみがまだ並んでいる。

(ん?もしかして蕎麦屋に来て蕎麦を食べないのがチャキチャキ江戸っ子の通な昼飲みなのか?)
と思い始め小さな声で母とも話していた。

まさか老舗の蕎麦屋で平日の昼間から引退した後のおじいさまがたはこんなにもかっこいい飲み方をしているのかと感慨深いものがあった。
我々も蕎麦を食べ終えたので、少し休んで店を出ようかという時すぐ隣のおじいさまが店員さんに向かって低く落ち着いた声で

「もりそばを最後に頂こうかね。」

『いや、食べるんかーーーーーい!!!』

と最後まで生粋のチャキチャキぶりに翻弄される楽しいお昼となった。
今度からまたお昼にでも蕎麦屋に来たらつまみとビールを頼んでゆっくりと楽しんだ後に〆でお蕎麦をいただこうとそう強く決めた。

それにしても老舗『室町砂場』の気の利いたつまみの数々をメモしておこうと思う。

ひろうす

これはがんもどきのことで、エビや銀杏に百合根にお野菜など豪華なひろうすの上に黄金色に輝く透き通ったお出汁。
別々に炊いてあるだろう季節のお野菜(今回は舞茸と菊菜)そして天盛りの針生姜。
椀の蓋を開けた時の幸福感は筆舌に尽くしがたいものである。

鴨の鍬焼き

淡紅色に輝く鴨の赤身といやらしくなく濃すぎない醤油ベースのタレ。
こんな上品ながらもビールとよく合うこのお味はさすが老舗というべきか。

小田巻蒸し

これは、専門学校以来初めて見たメニュー。お店では初めてで、まさに過去の記憶が蘇る品であった。
簡単に説明すると、ひとまわり大きい茶碗蒸しのそこにうどんが仕込んであるというものなのだが、大きい分少し蒸すのにお時間をいただきます。ということで初めに頼んだ。これもまた蓋付きの碗もので気が高揚した。
蕎麦が来る前にしてはもうお腹が一杯になってしまうかとも思ったが、二人なのでペロリと完食してしまった。

また、冬にメニューが変わった際に。

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