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「朝の心と光の影」 - オリジナル小説①

新たな始まり

暗い部屋に、目覚まし時計の電子音が静かに響いた。福田聡は、寝ぼけた頭をこすりながら起き上がった。午前6時。これが彼の毎朝のルーティンだ。機械のように正確に、同じ時間に目覚める。それが、彼の日常のわずかな安定だった。

カーテンを引くと、朝の淡い光が部屋に差し込んできた。窓の外には、近所の小さな公園が広がっている。誰もいない静かな風景、桜の木が新緑に包まれ、風に揺れている。聡はその光景を見ながら、心の奥底にふとした孤独感を覚えた。「また今日も、誰にも会わずに一日が終わるのか」と、ため息をついた。

キッチンに向かい、冷蔵庫から卵と牛乳を取り出す。フライパンを温め、スクランブルエッグを作る。トースターにパンを入れ、コーヒーメーカーに豆をセットする。しかし、その動作のすべてが機械的で、彼の心はどこか空っぽだった。仕事のプレッシャー、孤独感、将来への不安が、頭の片隅に常に付きまとっている。

コーヒーメーカーから漂ってくる香ばしい香りが部屋に広がる。聡はカップに注ぎながら、深く息を吸い込んでその香りを楽しんだ。それは、一日の始まりを祝福するかのようだったが、彼の心の奥底には、「これで本当にいいのか?」という疑念が消えなかった。

トーストとスクランブルエッグを盛り付けたプレートをテーブルに置き、コーヒーと共に朝食をとる。窓の外を眺めながら、一口一口をゆっくりと味わう時間が、聡にとって唯一のリラックスのひとときだった。しかし、その静けさが時折、彼に孤独感を強調する。「もっと人と繋がるべきなのか?どうやって?」と、自問自答する。

朝食を終えた後、シャワーを浴び、スーツに着替える。鏡の前でネクタイを結びながら、今日の予定を頭の中で整理する。カバンに必要な書類を詰め込み、最後にコートを羽織ると、時計を確認して玄関へと向かった。「今日も、同じような一日が始まる。でも、何かが変わるかもしれない」と、自分に言い聞かせる。

玄関を出ると、爽やかな朝の空気が彼を包み込んだ。少し肌寒いが、それがかえって心地よい。聡は鍵をかけ、歩き始めた。毎朝の通勤路は、慣れたもので、静かに流れる時間の中で、彼は一日の始まりをかみしめる。しかし、心の片隅には常に、「このままでいいのか?」という疑問が付きまとっている。

続く

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