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TRPG『パリのカフェ日記』プレイ感想

前回のゲームマーケット2023秋で買った、アトリエミーミルさんの『パリのカフェ日記』を遊んだ感想です。2回プレイしました。

ゲームの概要

内容については、公式の紹介文をそのまま引用します。

本作は物語を読みながら、会話の選択肢を選んだり、ダイスの運によって展開を創作しながら、「手帳」に記録していくロール・プレイング・ゲームです。パリのカフェを舞台に、何度も遊びながら新しい人物たちと出会い、記録し、その積み重ねを経て、主人公のキャラクター像を作っていきます。

ゲームブック × ソロジャーナルRPGのシステムで、誰と出会うかによって、遊ぶたびに違った物語とジャーナリングを楽しむことができます。

物語を手帳に綴るダイアリーRPG『パリのカフェ日記』 | アトリエ ミーミル(サークルサイト)

1人用ゲームで、ゲームブックと記録用手帳の2冊があります。ゲームブックのテキストを読み、テキストの指示に従って手帳に自分のプレイングを書いていき、その積み重ねが物語を作っていきます。
手帳がフルカラーでシールも付いていてと内容物が豪華なのにイベント価格2000円はめちゃくちゃ安くて、同じ同人制作者としてはどうやって採算をとっているのか不思議です。すごいと思います。

シナリオの大枠はゲームブックが「パリに中期滞在して語学学校に通う留学生の、カフェでの出会いとさまざまな経験」と決めてくれているので、行動範囲を広げるのではなく、あるカフェを基点にして絵を描いたり写真を撮ったり音楽を演奏したり、といったひとつひとつの行動を深めていく進行形式をとります。

下の写真のように一日のプレイを記述します。進行はどの一日も手帳の同じ型枠に従っており、創作テーマが日替わりで音楽になったり美術や文学になったりするという違いです。ループものっぽさもあります。絵の創作に挑戦するといっても実際に絵を描くわけではなく、そういう自分を想像してみよう、どんな創作がしてみたいか自由に書いてみよう、ということです。

2周目の手帳。「日付」「朝のハーブティー」「心に残った言葉」以外は自由記述です

端的に言えば、ゲームというよりは、セルフリフレクションのツールです。点数を競ったり、目標達成を目指したりするタイプのゲームではありません。それは上の作品概要に見てとれる通りのことで、そういう広義のゲームも私はあっていいと思いますし、体験として楽しむことを念頭においてプレイしました。

ここが面白かった

私が本作にいちばん好感を持ったのは、グラフィックにもたれて作っていない、ちゃんとシステムと向き合った作品である点です。作者がグラフィックデザイナーの方なのでイラストの雰囲気を楽しむのかなと予想していたのですが、それに留まらない良さがありました。

筆者はTRPGやゲームブックの分野に不案内なので、『パリのカフェ日記』の作りが斬新かどうかは判断できません。が、それでも、ループ系RPGとしてのシステムを採用しつつセルフリフレクションのツールに落とし込んでいる作りは、類例が多いわけではないだろうと思います。

1日目(作中の10/23)は必ず同じルートをとります。これはチュートリアルで、本作の進め方を説明しながら、極力どんな人でも楽しめるような創作テーマに設定しています。2日目以降は分岐が発生します。創作テーマを示唆するような分岐になっているので、正解や不正解はなく、その日の気分で選ぶものです。
前日(作中の10/22)も手帳にあり、これはプレイサンプルになっています。自由記述は意外と難しいものですから、このサンプルを見ながらどんな記述をしていくかの要領をつかめるようにもなっていて、目配りが利いています。

初日チュートリアルのテーマ設定にせよ、ゲームブック全体の構成にせよ、ツールとしての立ち位置に自覚的な作品です。同じ日に何度も遊ぶものではないことを「一日」という区切りで明確にしており、数日~数週間かけて遅めのテンポで遊んでもらうことが意図されています。実際私も、1日に2つ以上のシナリオをプレイする気にはなれませんでしたし、やや単調とみえるループも隔日のプレイで思い出せるようにという点ではプラスに機能しています。最近のデジタルゲームっぽい作りと私は感じました。ゲームの目的に対してシステムをどう構成すれば効果的に機能するかをよく押さえていて、個人的にはこの点がいちばん勉強になりました。

オリジナルの音楽も3曲あり、YouTubeから再生できます。ゲームを邪魔しない音楽という要件に合ったプロの仕事で、作品の雰囲気に沿ったものだと感じます。(私自身はプレイ中にはこれを使わず、ラヴェルやサティ等の実際のフランス音楽をかけてプレイしましたが、オリジナル曲もぜひ聴いてみてください。)

結構な分量を手書きするので、時間はかかるし頭も使います。もちろんそれを目的としたゲームであり、デジタルから離れて——そのためにダイスの現物も同梱されています——休息する遊びとして、文章を綴るのは楽しいです。自由記述はプレイヤー側に面白さを委ねるのでずるいと言えばずるいのですが(笑)、外の型枠がわりと堅めなので、投げっぱなし感はありません。2日目は音楽テーマで書きながら昔習っていたピアノでサティを練習したことを思い出して、懐かしい気持ちになりました。

ひとまず2周しただけですが、ゲーム構造はそれで把握できるので一旦感想として書いておきました。また気が向いたときにふっと取り出して、写真を撮ったり絵を描いたりしに出かけたいと思います。


以下の有料部分設定は、専らむやみに人目に触れないためのものです。個人的に気になった、改善の余地があると感じた点について述べています。レビューの要点はここまでで尽くしているので、以降は読まなくても支障はありません。単なるうざったい感想です。

人を選ぶけれど意欲作で楽しいことは上に書いた通りです。表紙やコンセプトを見た瞬間に刺さる刺さらないは分かるタイプのゲームですので、いいなと思ったらその人はたぶんこのゲームに向いています。気になる方はぜひゲームを買ってみてください。

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