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エッセイ集:自己・意識・生死をめぐっての随想

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文藝同人誌に掲載したエッセイを中心に、新たなエッセイも加えていきます。
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#意識

死んだら他者の心のなかで「生きて」いられるか

納得いかない考え方のひとつだ。 「人間は、肉体が死んでもそれだけでは死なない。誰かの心のなかで生き続ける(ことがある)」 「人が【本当に死ぬ】のは、その人をおぼえている人間が誰もいなくなったときだ」 それを本気で言う人が複数いるので、不思議でしかたなかった。 他者がおぼえている「その人」とは、他者の主観というフィルターがかかった変形物で、「その人」の意識そのものじゃないのに。 いつのまに、人は、本人の意識から、他者が抱いている記憶へと、すりかえられてしまったのだろう。

産道を通ったときのこと

── 生まれる前の記憶 ──  小学校一年か二年のころ、何日も続けて同じ夢を見た。そのあと決まって目が覚める。  粘液にまみれた暗い洞窟で、ひだのような壁に押しつぶされ、身をよじり、あがいている。肉のひだは膨らんだり縮んだりしながら圧迫してくる。頭がどこかにつっかえる。軟体動物にのみ込まれたような不安感。暗い。寒くはない。手も足も動かせず、壁の隙間に頭から突っ込んで行く。そしてまたつっかえる。  息苦しさが極限になり、もうだめかと思った瞬間、まっ白い光のなかに解放さ

覚醒ー自己意識について

睡眠からの自己意識の発生現場の記録     深夜、羽田発の国際便に乗った。飛行時間は、乗り継ぎのフランクフルト空港まで十一時間。このところ寝不足が続いていたせいか、離陸直後に眠気が襲ってきた。エコノミーのシートでは、頭の位置がうまく調節できず、首が痛くて目が覚めてしまう。それでも八時間以上は眠っていた。  その間に、不思議な体験をした。  眠りから覚めかけ、でもちゃんと覚めてもいないような、どっちつかずの状態のまま、意識だけがある。ふだん、寝ていて目覚めかけたとき、よ