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昆虫食(コオロギ)の炎上を考察してみました〜

1.コオロギ食炎上の経緯

 まずはPascoブランドで有名な敷島パンのツイッターから事件は始まります。パンの春のキャンペーンの投稿に対して、コオロギパンに対しての投稿、非難が集まっています。

 敷島パンは去年から、Korogi cafe(コオロギカフェ)というオンラインショップで、コオロギパウダーを配合したクロワッサン、フィナンシェ、バウムクーヘンを販売し、昆虫食へ力を入れ始めたことに対して避難が集まります。「通常のパンへの混入の恐れがある」、「コオロギって本当に安全なの?」、「コオロギよりも日本の食料時給率を上げる取り組みが先なのでは」というような非難が集中して炎上し、不買運動に広がっていきました。

 次に徳島市の高校でコオロギパダーを使用した給食が食べていたことがわかり、炎上の的となりました。子供へ環境という観点で考えてもらうためということでしたが、甲殻類アレルギーが心配との指摘にはしっかりと事前に説明しており、強制的に食べさせるようなことは行っていないようです。

 すでに2022年11月の過去の事件が掘り起こされた形です。これは同じ徳島県内の昆虫食ベンチャーのグリラスという同郷のベンチャーを応援するという趣旨があったのではと推測されます。ベンチャーの取り組みは、大企業と比較すると世間の目はそこまで厳しく、認知も低かったのではと思います。

 炎上は他の企業へも広がっており、JALの機内食の提供へも多くの声が届いているようです。ただし、機内食での提供といっても、お客様が希望して購入する形式なので、選択ができる環境なんですけどね。こちらは今後の提供も続けていくとのことです。

 最終的には#コオロギ食べない連合まで生まれる始末。ここまでいくと注目度を稼ぎたいのが目的で、いいね!が稼げるだけで騒いでいる気もします。

2.なぜ昆虫食が炎上したのか?

炎上した要因はいろいろありますが、「昆虫食受容に関する心理学的研究の動向と展望」という論文を参考に枠組みで捉えて、見ていきたいと思います。
「昆虫食受容に関する心理学的研究の動向と展望」 元木 康介 石川 伸一 宮城大学 朴 宰佑 武蔵大学。https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_92.20402/_pdf

日本の昆虫食への受容性は低い

 こちらの2018年の論文を見てみると、世界のどの国よりも昆虫食への摂食意向が低いことがわかります。昔からイナゴやハチの子を食べていたので、昆虫を食べる食文化があったので、日本人は昆虫への受容性があるというのはデマ、実際に食べたいと思う人は世界で一番少ない国なのです。データとして測定して可視化することとはよくわかります。そんな日本の中で昆虫食が盛り上がってきたら、違和感を覚える人も多く、炎上しやすい状況であったと思われます。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/joss.12486

嫌悪感

 嫌悪感とは、汚染・感染の可能性がある刺激に対して抱く感情、不快感、吐き気など。つまり、腐っている、病気、非道徳な行為などが連想されてしまうこと、まさにコオロギを食べるという行為に嫌悪感が生まれてしまったのだと思います。
 特にコオロギの見た目がゴキブリやカマドウマを連想され、菌数が高くて衛生的でないという報道が生まれています。気持ち悪いという直接的な報道は避けられていますが、日本人はコオロギを食べることに嫌悪感が生まれることが多いのです。

食物新規性恐怖

 人は新奇な食べ物を躊躇、拒否する心理を持ちます。馴染みの店のいつものメニューを食べ続けたり、おふくろの味が好きになることが裏返しの心理となります。食事で失敗したくないという心理が生まれるのは、人類が長年食のリスクが高い環境に置かれていたこと、例えば縄文時代に食べるものがないときにいろんなものを食べるギャンブルをし、飢餓を脱しながらも命を失いことも多かったことから、食への安全・安心を一番優先するのはわかるような気がします。

3.本当に昆虫食に問題はないのか?

それでは炎上が生まれている声の言い分について、それぞれファクトチェックしていきたいと思います。

コオロギよりもフードロスなど問題へ注力すべき

生乳を廃棄し、オカラを廃棄しているのに、コオロギだけでなくゴキブリミルクを飲めなんて狂気の沙汰。 日本人をバカにするな。コオロギ推進するPasco(敷島製パン)の商品は二度と買わない!

twitterのツイート引用

まさにごもっと!と言える根拠と言えます。それでは一つずつ論点を洗っていきます。

 牛乳のもととなる「生乳」の廃棄問題は、コロナによって給食の廃止、外食控えによって発生しました。夏休みや年末年始も給食がなくなるため、よくキャンペーンを開催しています。さらに2014年ごろ、深刻なバター不足が大問題となり、その影響で政府は国内の生産量を上げて、牧場の大規模化を推進してきた結果です。乳牛は2年半かけて子牛を生んでやっと生乳を作れるので、急な需要の増減に対応が難しいのです。生乳はもともと消費期限が短く、保存性に難があります。急に余ったからチーズやバターに生産できるかというと、すでに通常生産の生乳の手配を確保しており、工場に余剰生産能力はほとんどないはずです。余剰生産分が発生したときだけ保存が効く加工食品へ製造すると、余剰生産がない時期には生産ができず、事業として成り立ちません。

 おからについては、食用利用率1%となり、ほとんどが飼料や堆肥に使われています。なぜここまで食用利用率が低いかというと、栄養価が高くすぐに腐ってしまうためです。乾燥できる特殊な乾燥機を導入するにも何千万の費用が掛かり(水分高くダマになりやすくため)、専用スペースも必要で、売り先も少なくて安く買い叩かれるとなると、中小企業の豆腐メーカーが導入することは難しいのです。

 このようにフードロスとなる困難な理由がそれぞれ存在するため、餅は餅屋、牛乳殺処分は乳業業界や畜産業界、おから再利用は豆腐業界が解決してくべき課題と思うので、個社だけに大きな期待を寄せるのはどうかと思います。
 そもそもESG投資とは、企業の長期的なリスクへの対応への投資をすることで、敷島パンであれば、パンのフードロス問題へ対策する、パンの原料である小麦の自給率を上げる、小麦たんぱくを新たなテクノロジーで創り出すことなどの長期的な取り組みが企業として事業継続に優先されるべきです。食糧危機を自社のリスクとして捉えてるのなら、まったく既存事業と関係ない昆虫食を新規でやるよりも、もっと他にやるべきことがあるだろうという指摘はまさにその通りかもしれません。

コオロギを食べること自体は大丈夫なのか?

コオロギには、100度で加熱しても死なない芽胞菌(固い殻に包まれた細菌)の一種であるボツリヌス菌が含まれている。 ボツリヌス菌は、食中毒や神経麻痺になる細菌であり、重症化すれば呼吸機能障害を引き起こし、生死に関わる事もある。

twitterのツイート引用

 コオロギには本当に菌、特に加熱に強い芽胞菌が多いのでしょうか。
食品安全委員会は、2018年9月、EFSA(欧州食品安全機関)が公表した「食品としてのコオロギのリスクプロファイル」の文書での「懸念」として、
(1)総計して、好気性細菌数が高い。
(2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。
(3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。
(4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。
以上の懸念が上げられています。

これは当時のコオロギが東南アジアや中国の衛生的に好ましくない工場で養殖されていたことで、菌数が高くなる、芽胞が生存することがあったと考えられます。重金属濃縮もエサの管理によって異なってきます。よって、衛生的に生育したコオロギであれば、⑴⑵⑷の問題は無いはずです。

 現在日本で使用されているほとんどのコオロギの中国や東南アジアで、以前よりも衛生的な環境とは言え、やはり心配なのには変わりません。そのために加熱殺菌はしているのですが、少し心配は残りますよね。

タイのコオロギ養殖工場の現場

 残りの⑶であるエビやカニなどの甲殻類と関連した食物アレルギーが存在するのは事実です。昆虫食を使った食品にはアレルギーの注意書きがしっかりと書かれており、エビ・カニのアレルギーを持っている人が気をつければ大きな問題はありません。

グリーンウォッシュでは?

 環境負荷の影響をみると、他の畜産物と比較するとコオロギは圧倒的に負荷が小さいと言えます。

グリラスHPより

 ただし、コオロギのエサは大豆やとうもろこし、エネルギー変換効率は1.7倍なので、そのまま大豆やトウモロコシを食べたらよいではと思います。比較となる他の畜産は嗜好性、つまり美味しいのでそのような議論は起こりませんが、コオロギはそこまで美味しくわけではないので、大豆やとうもろこしをもっと工夫して食べる植物肉やプラントベースの方が環境負荷は低減できます。本当はフードロスを利用した飼料でコオロギが養殖できれば理想なのですが、現状ではまだ難しいようです。
 また、日本でコオロギ工場を建設するとなると、タイの養殖工場よりも密封性や衛生面をしっかりと整える必要があり、温度を上げるために光熱費も多くかかるため、上記のLCA試算よりも多くの環境負荷がかかると予想されます。
 ほとんどの企業が「食料危機」への対応と言っていますが、コオロギのエサが大豆やとうもころしの輸入に頼っている日本では、根本的な解決にならないのです(日本の自給率 大豆7%、とうもろこし0%、小麦15%)。

 このようにツッコミどころは満載です。ヒトが食べる以外に昆虫食は家畜の糞やフードロスを飼料へ利用し、魚の養殖や家畜の飼料のたんぱく源として開発が進んでおり、この循環サイクルは納得感がいくものです。やっぱり人間が食べるのは本当に最後のような気がします。

 無印良品のコオロギせんべいが炎上していないのは、製品コンセプトが「ちょっと面白いので食べてみませんか?」に留めていること、食料危機のような正義感ぶっていないことが一つの要因として上げられます。

4.なぜコオロギベンチャーが増えたのか?

  政治家が食べたことで炎上していますが、すでに1年前の出来事であり、ベンチャーや新産業促進という意味合いがあってこと、特に補助金が多いとか、日本として新産業を押しているということは全く見受けられません。
 それではなぜこんなに昆虫食ベンチャーが増えたのかというと、生産コストが安い、すでに養殖技術が確立されている、海外から買い物してくればよい、という参入障壁の低さが上げられます。社会受容性さえ大きくなれば、明日からでもコオロギパウダーを買って商品化することができます。よって、無数のベンチャーが立ち上がり、いろんな取り組みが増えているのが実情です。
 フードテックの領域の中に入っていますが、養殖するだけであればテクノロジーは必要ありません。今後は共食いをしない、食品へ利用しやすいように白くする、生産効率を上げるなどのゲノム編集や遺伝組換えが必要となった場合に限られます。

5.まとめ

いろいろ述べてきましたが、まとめると、

①そもそも日本人には昆虫食へ対する嫌悪感、恐怖が強く、すんなりと受け入れない。
②コオロギ食が増えてきて、ベンチャーも増えている。政治家たちが食べてアピールしており、徐々に不信感が募る。
③大手企業がなぜかコオロギ押し、コオロギ始めるぐらいなら、まずはフードロス対策するのが先のはず! 

→炎上へ

 昆虫食を食べたい人は選択肢の一つとしてよいと思いますが、社会的責任がある大手企業が始めるとグリーンウォッシュとして国民から見らえれてしまったようです。培養肉との違いは、すでに肉は今食べられていて、昆虫食はまだ食べられていないこと、新しい市場を作る前に既存市場のロス低減し、それでもダメなら代替を考えることが本来の食糧危機への対応のはずです。

 ちなみに敷島パンはパンを冷凍で流通させることで、パンの廃棄ロス削減へ取り組んでおり、すごく良いことをしています。

 SDGsや食糧危機への取り組みは一見正しそうに見えますが、なぜやる必要があるのか、なぜ自社がやる必要あるのかを問い正す必要があり、それだけ国民もSDGsへの意識が高まってきたと言えます。EUではグリーンウォッシュが規制に対象へ動いており、本当に環境負荷低減するのか、測定して可視化して証明が必要になります。コオロギも何となく食糧危機対策でなく、しっかりと可視化して、自社で取り組む意義を証明すべきですね。

 最後に昆虫食の老舗であるTAKEOのHPのQ&Aが秀逸なので紹介させて頂きます。

Q 昆虫を食べる意味って何ですか?
A たぶん、無いです。ぜひご自身で考えてみてください。
Q 昆虫は将来の食料危機、タンパク質不足を救いますか?
A もしかしたら救うかもしれないし、全然関係無いかもしれない。

TAKEO HPより

 大そうに地球を救うための食糧危機の対策と大風呂敷を広げるのでなく、食の一つの選択肢として増やしていくように地道にやっていくことが、昆虫食の普及への近道かもしれません。