恋愛弱者

「恋愛弱者」という言葉の
本当の意味や定義は知らないけれど
わたしの恋愛に勝ち負けがあるのだとしたら
大黒星であろう。

黒も黒、
深淵を覗き、冥界への入り口となる穴のごとく
醜悪な色をした黒星だ。

相手に好かれて始まったと思った。
好きを浴びるほどに感じていると
こちらの愛や情も深くなっていった。

深くなりすぎて、底なしの沼になったと
気づいたときにはもう遅かった。

こちらを顧みず、好き放題遊び放題。
挙句の果てには女をタラシこみ、疑似恋愛。
そのくせこちらには愛想のひとつもみせずに
要求ばかりをつきつけてくる。

大きなベイビーかと思えば楽ではあったが、
金と知恵と性欲をもったベイビーはタチが悪い。
赤ん坊は純真無垢だからこそ
わがままをしても許される存在なのである。

ぷちん、と
今まで繋がっていた我慢の糸が
切れた瞬間がある。

きっかけなどは、どこにでも転がっている
小さくささいな出来事で
今更とやかくいうようなことではなかった気がする。
ただ、その時離別を考えるには十分な材料だった。

そこでようやく言えた「別れよう」と。

どんな理不尽にも暴挙にも耐えうるほどの
愛と情と執着と寂寞感を捨て去れると思った。

でも違ったのだ。

いざ相手の口から別れへの承諾を聞くと
喪失感と焦り、未練が
焦れた山が火を噴くかのように爆発した。

不思議なものだ。
今までの責め苦を請け負い続けてでも
手放したくないと思ってしまった。

散々な目に遭って
自分から離れようとしたのに
結局縋っている自分がいた。

私は、負けたのだ。
育んだ情に、費やした時間に、
美しき過去の呪いに、愛という妄言に、
君に。

こんなにも愛と憎悪とは根深い枷なのかと
地獄へ誘う呪禁なのかと
少し笑ってしまう。

これからも君に囚われ、縛られ、
地獄を味わうのだろう。
愛という空虚な蜜を味付けに。

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