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魔女と少女

この世の中で悪い魔法にかかると大切なことを見失うことがある。

見失うと二度と戻れないような道に迷い込むこともある。

迷っていると疲れてしまうだろう。

そんなときは一度立ち止まって今まで歩いてきた道を振り返ってほしい。

なにか忘れていた気持ちはありませんか?

忘れちゃいけないことはありませんでしたか?

心の引き出しにいつの間にかしまって見つかりませんか?

大丈夫です、この世界で生きているみんながあなたと同じです。

神様はいつだってそんな迷い子にに道しるべを残していますよ。

むかしむかしのお話です。

たくさんの木が生い茂る、鬱蒼とした森の中に、一軒の家がポツンとありました。

そこには魔女が住んでいました。

魔女は人里からはなれて森に住む動物たちと仲良く暮らしていました。

魔女はいつものように森へ食べ物を取りに行きました。

キノコや薬草を取っていると

突然ガサガサと草むらから音がしました。

あらわれたのは1人の少女でした。

少女は魔女を見るとびっくりして声を上げました。

「わっ!びっくりした!こんなところに人がいるなんて思わなかったわ!」

少女が高い声でしゃべると魔女はわずらわしそうにしました。

「あ!さては、あなたはうわさの魔女ね!」

少女は目を輝かせて魔女をまじまじと観察しました。

耐えきれなくなった魔女は少女を無視して森の奥へ帰ろうとしました。

「待って待って!行かないで!帰り道が分からなくなったの、それにお腹もぺこぺこだし、助けほしいの!」

魔女は歩きを止めました。

そして不機嫌そうな顔をしながら、持っていたキノコや薬草をぶっきらぼうに、少女に渡しました。

「町はここから南東に歩いていけば、夜には着くから、さっさとこれを持って行きなさい」

「ありがとう!あなた魔女なのに優しいわね!でも歩き疲れてしまったし、あなたの家に一晩だけ泊めてくれないかしら?代わりになんでもするからいいでしょう!お願い!」

少女は両手を合わせて頭を下げて魔女にお願いしました。

魔女は少しの間考えてから口を開きました。

「はあ、明日の朝になったら帰りなさいね」

「ありがとう!魔女さん!あなたはわたしの天使だわ!」

「わかったから黙ってついてきなさい」

「はーい」

魔女はしぶしぶ少女を家に泊めることにしました。

家に着くまでの間、少女は魔女にたくさんの質問をしました。

なんでこんなところに住んでいるのか

とか

魔法は使えるのか

とか

魔女って本当にほうきで飛ぶのか

とか

これから魔女にお世話になるというのに

普通の人ならしないような質問を次々と

遠慮なく聞きました。

魔女はそんな少女に面食らいつつも

答えられるものは答えてあげました。

日が暮れる頃に魔女の家につきました。

少女はまがまがしい家を想像していましたが、意外にも普通の家で少しがっかりしました。

魔女は
「現実なんてそんなもんよ」
と言ってさっさと家の中に入りました。

夕食はキノコと薬草のスープとイモで作ったパイでした。

少女はもちろん夕食の手伝いをできる限りしました。

意外にも少女は手際よく料理をしていたので、どうやら世間知らずの子供ではないなと思いました。

夕食も食べ終わり、2人は椅子に座って暖炉の炎を見ていました。

少しの間、静かな時間が過ぎて少女がゆっくりと話しはじめました。

「わたしね、家出してきたんだ。パパとママと喧嘩したの。悪いのはわたしじゃないわよ。わたしを無視していつも仕事ばかりしている2人が悪いんだわ。いつもお手伝いのばあやが、2人はわたしのために働いてるから、きちんとして立派な女性になりなさいと言うのよ。最初はきちんとしていれば、パパもママもわたしを見てくれると思って、頑張ってきたのよ。でも、わたしの誕生日に約束したのに急に仕事があるとか言って2人とも出掛けちゃった。その時ね、なんていうか、うまく言葉に表せないけど、心がぎゅーと苦しくなって、もうここにはいれないって思ったの。そしたら考えるよりも先におうちを出て、走ったらいつの間にか知らない森に入ってて、戻れなくなったの。とても寂しかったわ。ばあやは今頃、腰を抜かして起き上がれなくなってるわね。本当にばあやには謝らないといけないわ。でもね、パパとママにはしばらく会いたくないわ。もううんざり、わたしがいなくなって慌ててるのかしら。いいえ、そんなことないわね。きっとまだ大事な大事なお仕事から離れられないでいるわよ。2人が反省するまでわたしは絶対戻らないんだから。魔女さんもそう思うわよね?」

少女は話しているうちに、興奮してきたのか鼻息を荒くしながら魔女に同意を求めました。

「とりあえず水を飲んで落ち着きなさい」

少女は魔女から水を受け取って、ゴクゴクと飲みましたが、急いで飲んだので喉に詰まってしまいました。

「ゴホッゴホッ」

「ほらほら、ゆっくり飲みなさいな」

魔女は少女の背中をさすって優しく言いました。

「ぐすっ、本当にもう許さないんだから。ごめんなさいって言うまで絶対に帰らないんだから」

少女は泣きながら、自分に言い聞かせるように何度も言いました。

魔女は少女の背中をさすりながら、黙って少女が泣き止むのを待ってから、話しはじめました。

「あなた、今まで頑張って耐えてきたのね。偉いわ、そんなこと普通は出来ない。あなたはじゅうぶん頑張った。ご両親に頑張って向き合ってきた。だから今度はご両親があなたと向き合うために頑張る番なのは当然のことよ。でもご両親はあなたよりも向き合ってこなかったから、うまくあなたの気持ちに答えられないかもしれない、そうよね。ならあなたがご両親を助けてあげなさい。ご両親にあなたの気持ちを全部話して、あなたがご両親にどうしてほしいか伝えなさい。大丈夫よ、きっと聞いてくれるわ。あなたはご両親はあなたを探していないと言っていたけど、あなたのご両親があなたを探さないなんてあるはずない。わたしの命をかけてもいいわ。だから心配しているから、絶対に聞いてくれるはずよ。それでね、話すときに心がけてほしいことがあるの。ご両親は、きっとさっきのあなたのように取り乱しているわ。だから、ご両親もあなたと同じ気持ちよ。言うべきことは言わなくても分かるわね。そしたらご両親もきっとあなたがしてほしいことをしてくれる。いいわね」

少女は魔女の話を一生懸命聞いていました。

その様子を見て魔女は優しく微笑んで少女の頭をなでました。

なでながら魔女は子守唄を歌いました。

少女は子守唄を聴きながら魔法にかかったように眠りに落ちました。

少女は夢を見ました。

パパとママとばあやと一緒に夕飯を食べている夢でした。

4人が幸せそうに色々なことを話して笑っていました。

少女は自分の名前を呼ぶ声で目が覚めました。

目を開けると大きな木の下で少女は座っていました。

少女の名を呼ぶ声が近づいてきました。

少女はその声をもう一度聞いたときに走り出していました。

目には涙をためて大きな声で愛する人たちを呼びました。

魔法のような夜があけて朝日が登りました。

綺麗な朝日を浴びながら3人の影がひとつになりました。

離れた木の影で魔女はその様子を見ていました。

魔女は少しだけ寂しそうにしましたが、すぐに後ろを向きました。

すると少女のあの高い大きな声が聞こえました。

「魔女さん、ありがとう!また遊びにくるわね!」

魔女はその声を聞いて少し肩を震わせながら黙って家に帰りました。

家の周りには魔女と仲良しな動物たちが集まっていました。

みんな優しい魔女が大好きなので魔女の気持ちが分かっていました。

「みんな、ありがとう」

魔女も少女も大事な存在がいます。

それだけで優しい気持ちになれました。

おしまい










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