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子育てはダイエットと似ている!?

 大分昔の事になるが、新聞にある国際的な賞を受賞した方のお母さんのインタビューが載っていた。

「素晴らしい息子さんですね。小さな頃はどんなお子さんだったのですか?」
「子どの頃ですか? そうねぇ……育てたのか、育ったのか……」

 この話が妙に記憶に残っているのは、これ程、親と子どもの立ち位置をうまく現した言葉はないと思ったからだ。

 親から見れば、子どもは何歳になっても「子ども」だ。

 無邪気で可愛かった乳幼児期の記憶を消す事はできないし、反抗されたり生意気な事を言われれば言われるほど、「あんなに可愛かったのに」なんてしみじみ思ったり……。
 親にとって、子どもとの距離感は、子ども達がいくつになっていようとも、「他人未満」であって、「他人」だと突き放すことはできない。だからこそ、いつまでもあれやこれやと細々と「口だし」したくなるし、子どもの将来を思えばこそ、子ども達の先を見据えて線路を引いて、その通りにお受験や、最近は就職先にまで口をだすなんて言う光景も。その挙げ句、単に反発されただけでなく、「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす毒親」などと言われてしまい、親子関係断絶、なんて事さえ起こっている。

 これは、あまりに切ない。切なすぎるではないか。

 おおよそ大多数の子を持つ親は、子ども達にとって「良かれ」と思うからこそ、口やかましくなるのであって、基本、関心がありすぎるから、親が示す線路の上を外れずに進ませたいと思ってしまうのだ。もちろん、中には自分の子どもに関心を示さない親もいて、実際、親から虐待されている子どもの数が留まるところを知らないかのように増え続けているのも一方の現実だけど。

 そうは言っても、多くの場合、親のどんな行為をとっても、それは子どもにとって「良かれ」と思った上での事だと言う事に疑う余地はない、はずだ。

 じゃあ、どこでボタンが掛け違うのか?

 問題は、子どもと言う生き物は、姿かたちだけでなく、一人の「ひと」としても、どんどん変わって行く存在だという事。そして、その「こころも身体も年々歳々変化して行くこと」が、子どもの大きな特徴である事に、親をはじめ、多くの大人たちが気づかない、あるいは気づいていても接し方を変えられない、と言う事だと思う。

 でも、なんで?

 それは、子育ても日々の生活習慣だから……って事なのではないだろうか。

 私たち誰にとっても、日常の生活習慣や行動を変える事は簡単ではない。お酒やタバコをなかなか止められないのも、ダイエットがうまく行かないのも、一度身についた習慣や行動は、そう簡単に変えられないから、って事だ。

 子どもが生まれた直後には、とても新鮮だった「子どもがいる生活」も、いつしか日常生活に飲み込まれ、生活習慣の一部になってしまう。最初は喜んでやっていた「オムツ交換」や「赤ちゃんとの入浴」だって、毎日となると、どうだろう。次第に新鮮味が薄れて、いつしか日常生活のルーチンワークになってはいないか?

 これが体重や食習慣ならば、まだ自分ごとの範疇なのだが、子育てに関しては、そこに「子ども」と言う、「自分ではない」相手がいて、しかもその人はどんどん変わって行く存在だ、となれば、ホントは親も合わせて変わって行かなけりゃならないけど、それがオトナにとってはとても難しい、と言う事なのだろう。

 そう、子どもが変化するならば、子ども達の成長に合わせて、親も変わらなければなるまい。年々歳々、子ども達との距離を変えて行かなければならないと言う事なのだ。

 「育てたのか、育ったのか……」

 親は、いつまでも「育てて」いるつもりでも、子ども達はと言えば、次第に一人のひととして目覚め、いつしか自ら「育つ」存在に変わって行く。やがて「自分」を意識し、自分である事を主張し始める。親から見れば、それは反発や反抗にしか見えないとしても、それこそ、子ども達が「自ら育つ」存在として歩き始めた印なのだ。そしてその境目が、いわゆる「思春期」と言う、親子にとって何とも厄介な時期なのだと思う。

 では、親としてできる事は何だろう。

 カンペキな答えではないにしても、それは親も自ら「変わる」事を意識することではないか。

 乳児のうちは文字通り「全面的に」守ってあげないとならないけれど、自我が目覚め始め、最初に反抗し始める3歳あたりから、そろそろ子どもとの距離の取り方を意識した方がよいだろう。イヤとダメばかりのこの時期から、何がイヤなのか、なんでダメなのか、イライラする気落ちをちょっとガマンして、クールに子どもの様子を観察してみる、なんて事を意識してほしい。

 遠からず訪れる思春期に、その真っ只中にいる子ども達と向き合うためにも、準備を始めるのに早すぎる事はない。なにしろ、出来上がっている生活の習慣を「変える」ためには、長い時間が必要なのだから。

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