建築・都市学生が考える”アーバニスト”とは?
▼分不相応ですが一コマ講師をしてきました
ありがたいことに前職の関係で芝浦工業大学修士1年の講義に呼んでいただき、一コマお話をさせていただいてきた(2023年4月10日)。講義名は「都市計画概論」、その中で「地域デザインの実践紹介」というテーマ、「豊かな地域をデザインする”アーバニスト”とは?」というサブタイトル。
僕自身は、都市計画コンサルタントを17年やったのち、芝浦工業大学では教員としてではなく、産学官・地域連携コーディネーターという職員の立場で4年3ヶ月関わらせていただいたのち、現職(一般社団法人アーバニスト立上げ、シティラボ東京ディレクター)として過ごしている。いわば、「都市計画」から「都市に関するsomething」へと、どんどん逸脱(?)している身なので「都市計画概論」という講義に立つには若干冷や汗をかかざるを得ない気もするのだが…。
ただし、「地域デザイン」という言葉自体が、従来の「都市計画」に対して、「都市だけでなく地方も対象」、「トップダウンで描く計画から市民と共に実現していくデザイン」というニュアンスがあるということなので、変容する都市と、そこに対する関わり方ということで、なんらかの意味もあると自分に言い聞かせながら引受させていただいた次第。
講義では、僕が関わってきたある意味典型的、ただし当時としては頑張ったぞと言える「都市計画」(概ね1997年〜2014年)、大学でが地域に関わるアプローチとしての「まちづくり・ものづくり」の融合(2014年〜2018年)、NPOとして地域の人々と一緒に取り組んだ東日本大震災の復興まちづくり(2013年〜2020年)を話すと共に、これからの都市に必須となる「サステナビリティ」をどう考えていくべきか、シティラボ東京での経験をふまえて話を行った。
そして、そのような都市計画/まちづくり/地域デザインを進めていく主体としての”アーバニスト”という考え方を紹介して講義を締めた。この”アーバニスト”という考え方は、従来の「都市に関する専門家」や「都市を楽しむユーザー」という意味を含めつつ、両者の「汽水域」で都市に積極的に関わっていく姿勢を示したもので、都市に対するニーズが多様化する時代、都市を「使う」ことが大きな意味を持つ時代に、「都市の負債を資産に変える」ために重要な考え方だと思っている。詳しくは下記投稿、より詳細には書籍を呼んでいただければ幸い。
『アーバニスト ー魅力ある都市の創生者たち』(2021年11月10日、ちくま新書)
note(特に第5章を中心にした紹介)
▼学生さんからのフィードバック
さて、せっかく講義をしたのだから(先生たちも採点をしなければいけないし)ということで、学生さん達には下記3つのお題について、後日フィードバックをもらうこととした。
あなたが地域デザインに興味を持ったきっかけはなんですか?できるだけ個人的な体験から教えてください
これからの地域デザインにとって大事だと思うことはなんでしょう?その理由、望ましい方向性などについて教えてください
あなたがイメージする“アーバニスト”(になる可能性がありそう)な人、組織などについてアイデアをください
34件のフィードバックで、皆さんかなりしっかり書いてくれたので読むのもかなり大変だったのだが、なかなかおもしろい。
①:地域デザイン興味きっかけ
やはり多いのは、幼少時代から青年時代にかけての原風景といった「個人的体験」で、良くも悪くもまちが変わっていく姿を見たり、人によっては外国との多拠点居住でショックを受けたりといった事例が多い。次いで多いのは大学での講義や演習で面白さに目覚めたという感じか(建築・都市学生を対象としているので、個人的体験を経て教育で追加的に目覚めたパターンも多そう)。少数ではあるが学生団体やボランティアなど「課外活動」で地域の人と接した体験を挙げている学生も居て興味深い。
②:地域デザインこれから大事なこと
地域デザインを学ぶ学生であり、当然ながら「地域の個性」や「コミュニティ」といったキーワードが多い。もう少し細分化すると「ウォーカブル」や「プレースメイキング」、「高齢化社会」、そして「持続可能性」など今の時代性を感じさせるものも出てくる。全般としては真面目な工学系学生として、あまり変化球は多くないが、あえて「小ささ」という個人的趣味を打ち出してくる回答もあり、こういうのは大事にしてほしい。また、「時間軸」や「つながりを形成するプロセス」など、なかなか深い視野を感じさせる回答も。全般的に、実際に現地の人と接する志向性が強く、それを考えると僕の学生時代(約30年前…)は、まだまだ机上のプラン志向だったなと反省もさせられる。
③あなたの考える”アーバニスト”
これから都市計画・地域デザインの専門家を目指そうという学生さんに、あえて(なるべく都市の専門家ではない)”アーバニスト”として思い当たる人や職業について訪ねてみるというのも、ちょっとイジワルな質問かもしれないが…。ただし、今後とも、彼らはまちがいなく「都市の専門家」のコアとして、その上で、従来より多様な専門家や生活者と関わっていく必要があるということで、あえて聞いてみたかった質問(あとは、自分たちのアーバニスト研究を展開していく上でのヒントという下心…)。
なので、やっと本稿のメイン。以下、34人(複数回答があるので37件)の概要(次の項目で概要と特徴も挙げてみた)。
▼学生さんに聞いてみた「あなたの考える”アーバニスト”」
(A)学生(5件)
やはり、当人が学生ということで思い当たりやすいのかもしれないが、「自分たちが”アーバニスト”だ/になる」という意気込みは頼もしい。仔細に見ていくと、専門家の卵でありつつ生活者の一員という絶妙な学生の立ち位置、SNSといった学生が得意な武器などへの自覚があるようだ。
(B)生活者(8件)
都市・地域の当事者そのものである生活者に対する回答はかなりの割合を占めた。大きく分けると、まずは「意識ある住民」となるが、その中でも、地域に長く住んでいる人、Uターンしてきた若者、新しく居住してきた人など多様な立場があり、各々の「意識」が考えられる。豊洲という新旧住民が入り交じる地域で学んでいる学生なので気づく視点も多そうだ。もうひとつは「子供」で、柔軟な発想で都市を使う(遊ぶ)視点に着目したもの。最後は「専門家寄り」で、住民だが都市計画に詳しい(マニア?)、逆に専門家が関わった地域に住む(『人生フルーツ』的な)ということで、専門家と生活者の汽水域という意味では正に”アーバニスト”か
(C)公務員(2件)
ここから先はかなり具体の職業に関わってくる回答。断っておくが”アーバニスト”の第一義は都市に対する姿勢であり職業ではない。これらの職についている具体の人物像を妄想しながら読んでいただきたい。
まずは公務員の中でも具体の地域サービスに係る業種が上げられた。小学校の先生は子供と都市・地域の接点として確かに重要(中学校もカリキュラムに「まちづくり学習」が入るから重要)。警察官・消防士という回答もあり、確かに都市・地域の安全やレジリエンスに重要と思わされた。国土交通省でも「アーバニスト養成講座」として自治体職員を対象にした講座を行っており併せて考えていると面白そうだ。
(D)パフォーマー(3件)
都市・地域を彩ることで魅力的にするということではパフォーマー系の回答があったことも興味深い。書籍でも「キュレーター、アーティスト」として1章を挙げているが、回答では、ミュージシャンやスケートボーダーなどのストリートパフォーマー、音楽や演劇・ダンスなど劇場型のアーティスト、そして、写真家や画家など新たな都市の味方を教えてくれる人という3種類が上げられた。いずれも、プロだけでなくアマチュアから楽しめるものであり、そのようなものが地域の文化として根付いていく(いずれはプロを呼び寄せる)ものと感じる。
(E)都市専門家(3件)
従来型の都市プランナーなどはあえて挙げないでもらう条件で出題したが、「都市の専門家」としか分類できないものも上げられた。一つは都市と自然を融合した視点、もう一つは合意形成の専門家というもので、これらは本来プランナーでも必須だと思うのだが、「従来型」ではなおざりにされているという指摘なのだろうか…。もう一つは、未利用の公共空間を使い手と結びつける専門家ということで、具体的には公共R不動産の名前が挙げられていた。たしかに、これは新しい専門家像の一つだろう。
(F)ビジネス(12件)
最後は、やはり都市・地域に係るビジネスで、最も多くの回答が寄せられたが、中身はやはり多様。まずは、最もオーソドックスな分野としては「地域サービス」に係るもので、飲食店や八百屋といったローカルビジネスが元気になることで地域も活性化していくという視点。ただし、高齢化社会を背景に医師・看護師といった業種、また、タクシードライバーやキッチンカーといったモビリティ的な発想もあり、今の時代を感じさせる。新たな地域サービスとして都市内農業の提案もあった。
時代を感じさせるという点で特徴的なのは、インフルエンサーという業種(?)が2件挙げられていたこと。先の「学生」カテゴリーでもSNSに言及しているものがあった。地域プロデュースという観点で情報の重要性は確かに挙げられる。たぶん田園調布のような一体的宅地開発から遡れそうだが、ここでの回答はSNSやYouTubeなどが想定されているところが現代学生的。
最後は、必ずしも地域にとらわれない広域サービスを提供している企業で、実はここをどう変えていくかは”アーバニスト”だけでなくサステナビリティにも大きな影響があるのではないかと個人的には考えているところ。ここでは、GAFAやコンビニエンスストアなどが地域に合わせてリノベーションしていく、企業活動の一環としてイベントなどから地域に参加するといった提案や事例が挙げられた。
▼”アーバニスト”のこれから
まずは、学生さん達が”アーバニスト”について、真面目に頭を捻って回答してくれたことに感謝したい。
2021年に出した書籍では、前半で”アーバニスト”の概念の成立と変遷を追いかけると共に、後半では、都市計画プランナー、ビジネス、アートという3つのカテゴリーからその現代像を描いてみた。前半については中島直人さんがしっかりと包括的に描いてくれたのだが、後半については紙幅の関係もあり、カテゴリー自体、各カテゴリー内の事例共にまだまだ拡張の余地があると考えている。個人的には「ビジネス」という、本来的には組織で動く主体の中に如何に個人としての”アーバニスト”を見出していくかも重要なテーマだ。
日々の活動から得られることは多々あるのだが、それをどう整理して、新たな動きに還流させていくか…。学生さん達に少し背中を押されたような気もするので、今年度は少し動き出します、はい。
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