再帰誘発型能力

「再起」じゃなくて「再帰」

「再帰」という単語を普段あまり目にしないからか、「再起」と誤記されることも多い再帰誘発型能力。リリースノートでもこの誤記はよく見ます。
再帰とは簡単に言うと、あるものAの説明中にそのあるものA自身が出てくるような、堂々巡りの状態を言います。例えば、Webサイト作成などに良く使われるPHPは「PHP: Hypertext Preprocessor」の頭文字です。ではこのPHPは何の頭文字かというと「PHP: Hypertext Preprocessor」の……と説明が循環してしまいます。この状態が再帰です。

再帰誘発型能力は、呪文や能力の解決によってその呪文や能力が持つ誘発型能力が誘発する様が再帰的だとして名付けられたのでしょう。蛇足ですが、再帰誘発型能力はReflexive Triggered Abilityであるのに対し、数学的な再帰はRecursiveです。Reflexiveにも再帰としての訳があるので誤訳という訳ではないですが。

関係するルール

再帰誘発型能力の定義は

603.12 呪文や能力の解決によって、プレイヤーに強制または任意で何らかの処理をさせ、そして「[[[プレイヤー]]が]そう[した/しなかった]とき/when [a player][does or doesn't]」または「これにより[○○した]とき/when [something happens] this way」処理する、という誘発型能力が作られることがある。これらの「再帰誘発型能力/reflexive triggered ability」は、作られた直後にチェックされ、それを作った呪文や能力の解決中に、すでにその条件を満たしていたかどうかを参照するという点を除いては遅延誘発型能力のルールに従う(rule 603.7 参照)。

となります。

「呪文や能力の解決によって」誘発するものであるということが場合によっては重要になります。

603.7a 遅延誘発型能力は、呪文や他の能力の解決中に、あるいは置換効果の適用の結果、あるいはプレイヤーに何らかの処理を認める常在型能力の結果、作られる。実際に作られるまで、その直前に誘発イベントが起こっていたとしても、誘発することはない。その類のイベントによって、条件が決して満たされることがなくなることもありうる。

遅延誘発型能力は置換効果の適用や常在型能力の結果によっても作られますが、再帰誘発型能力は呪文や能力の解決による必要があります。

かつては常在型能力や置換効果による再帰誘発型能力も規定されていましたが、現在では「誘発型能力と関連した常在型能力」と整理されています。

603.11 オブジェクトの中には、誘発型能力と関連した常在型能力を持つものがある。(rule 607〔関連している能力〕参照)。この類のオブジェクトでは、先に常在型能力、後に誘発型能力という順序で、両方の能力が一行に書かれている。まれに、誘発条件が能力の最初ではなく途中に書かれているオブジェクトもある。

過去の再帰誘発型能力

心臓貫きのマンティコア

再帰誘発型能力の初出はアモンケットの《心臓貫きのマンティコア》です。
《投げ飛ばし》に相当する能力を持つカードですが、それまでは《投げ飛ばし》相当の能力は起動型能力に限られていました。

《カルドーサの炎魔》を例に取って考えます。このカードは誘発した際に対象を取り、ダメージの割り振りを宣言します。その後優先権のやり取りの後に、解決するにあたってアーティファクトを生け贄に捧げるかを選択し、生け贄に捧げるのであれば対応する間もなくダメージが与えられます。
そのため、対象が破壊不能を得ていたり、タフネスが上昇していたりして、アーティファクトの生け贄が「割に合わない」と感じた場合は生け贄に捧げないことを選択できます。全ての対象が呪禁を得たり戦場を離れていたりして不適正になっていた場合には俗に言う「立ち消え」で解決自体がされません。

《剛腕のブライオン》のような起動型能力の場合、起動の際に対象を指定して生け贄のコストも支払います。なので対象が破壊不能を得ていたり、タフネスが上昇しても、対象が不適正になったりしてもコストは戻ってきません。

《心臓貫きのマンティコア》は再帰誘発型能力によって、誘発型能力で「コストの支払いと対象の指定を先に行い、ダメージの発生の前に優先権が発生することで対応が可能になる」を実現しています。

夢喰い

《夢喰い》は再帰誘発型能力の新しい使い方を提示してくれました。
通常の誘発型能力では、対象とする「対戦相手がコントロールしている土地でないパーマネント」が不適正な対象になると、諜報4も含めて何も解決されない俗に言う「立ち消え」が起きます。
再帰誘発型能力は対象を取らない能力を解決した上で、対象をとる再帰誘発型能力が誘発することで、対象不適正で解決されない範囲を能力の一部に留めることに成功しています。

この利点は誘発型能力以外にも有益なため、《高熱仮説》で呪文の一部に再帰誘発型能力が利用されるなど、再帰誘発型能力が幅広い使われ方をするようになっていくきっかけになったと思います。

傲慢な血王、ソリン

《傲慢な血王、ソリン》はプレインズウォーカーで再帰誘発型能力を使ったカードです。プレインズウォーカーの忠誠度能力は原則として忠誠カウンターの増減以外をコストとして持ちません。そのため、《巧妙な偶像破壊者、ダレッティ》の-1能力のように、忠誠カウンター以外のコストを必要とする能力は、解決中にコストを支払う形になっています。

《心臓貫きのマンティコア》と同様に、再帰誘発型能力を採用することで忠誠度能力の解決で忠誠カウンター以外のコストの支払いを行い、再帰誘発型能力で対象を取ることができます。

計算された爆発

《計算された爆発》はこれまでと少し違う機能となるカードです。ランダムな結果を見た後に対象を取る、という挙動を再帰誘発型能力で可能としています。

人狐の呪い

《人狐の呪い》も変わった挙動のカードです。役割・トークンをつける都合上、再帰誘発型能力で状況起因処理を挟まなかった場合、役割が2つついた状態で格闘をすることになります。
再帰誘発型能力は対応のタイミングを挟む以外に状況起因処理を挟むことが出来るという面白い使い方だと思います。

爆発の仕掛け人、ブリーチェス

《爆発の仕掛け人、ブリーチェス》もまた面白い再帰誘発型能力の持ち主です。
ランダムな結果によって2種類の再帰誘発型能力のうち対応する方が誘発するというかなり独特の挙動をしています。

煙玉

《煙玉》は「やられた!」と声が出た再帰誘発型能力の使い方です。
常在型能力でクリーチャーに被覆を持たせているせいで、再帰誘発型能力を利用して先に生け贄に捧げないと、対象にとることがそもそも出来ないという能力同士の噛み合いが美しいと思います。

主に誘発型能力の解決を2つに分けることで、従来以上に多様な挙動を可能とする再帰誘発型能力。今後も創造的で画期的な能力が実現することがとても楽しみです。

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