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「生きのびるための事務」<坂口恭平(原作)>を読んで

率直に、これまで「事務」という言葉が好きではなかった。「事務職」とか、「事務員」という括りに違和感があり、そこでなされる限定的な「作業」を表す言葉には、よい印象がない。馬鹿にしたり、蔑んだりしているつもりはなく、自分の置かれた職業、立場を「事務を担う人」と定義して、そこからはみ出さない生き方がもったいない、と思わせてくれる素敵な方々にたくさん出会ってきたからこその印象だと思う。今まで働いてきた会社でも、我が社でも、そういう人財に巡り合うことがたくさんできており、もっと活躍してほしいと心から感じてきた。

とはいえ、それは私の勝手な思いであり、「働き手の捉え方」がすべてだとも思っている。だから、目の前の人が望む働き方を実現させつつも、ちょっと一歩はみ出した世界を楽しんでもらうように、隙あらば仕向けたいともくろんでいる。

さて、私の「事務」という言葉の印象に、これまで全くもったことのない感覚を与えてくれた本に出逢った。

とても新鮮で面白い。私は、「自己啓発的な教え」をこれまでもそれなりに吸収してきた方だ。よくある考え方として、現在地と将来到達したいありたい姿を思い描き、そのギャップ・間を埋めていくというものがある。この本では、それが「事務」であり、「事務」とは何かが様々に表現されている。

「事務」とは、二つあり、「スケジュール」と「お金」を徹底して目に見えるように管理すること。創造行為である仕事と別個ではない。「事務」こそが創造的な仕事を支える原点である。

「事務」とは、やりたいと思い描いたことを実現する方法、やり方のこと。イメージできたものは必ず現実になる。ただ、実行していないだけ。そして、実行するために、描いたもののを具体的にしていく。解像度を上げる。たとえば、量を整える。書き出し、整理し、必要なことに絞るなど。これで「お金」の量がわかる。次に「スケジュール」。現実の24時間の使い方を円グラフで具体的にノートに書く。次に「未来の現実」もノートに書く。

「事務」とは、段取りのことでもあり、仕事を実現する力ともいう。建設業界のもっともメジャーな格言に「段取り八分」という言葉がある。段取りがしっかりしていれば、仕事の8割は終わっている。そのくらい段取りが大事。この段取りは個人的な道具の準備といった細かいレベルもあれば、そもそもの工程や計画、それに伴う関係者の調整なども含んでいるとても大きなもの。それらが決まっていれば、あとは決めた通りにやるだけ。まさにここでいう「事務」の世界である。「事務」とは段取りだと言われれば、その重要性も好感度も格段にあがっていくことを感じる。

さて、未来の現実をノートに描く。やりたいことをやるがベースだから、楽しいことを思い描くもの。「早起きしてコーヒーを飲む」だけではなく、「5時に起き、リビングのソファで、友人の焙煎したマメからいれたコーヒーを飲む」などと細かくイメージして決める。必要なお金も加えておく。漠然としている「将来の夢」の前に、解像度の高い「将来の現実」がある。解像度が高いがゆえに、迷わず近づくことができ、近づくと「将来の夢」もまた近づいてくる。これがやりたいことを実現する方法であり、「事務」である。

このあたりまでが前半部分の「事務」とは何かの概観であり、話は具体的な実践へと移っていく。「事務」とは、イメージを数値や計画に具体化する技術でもある。

「事務」の世界観には、できるかどうかという不安やできるという自信すら不要。やりたいことから出発しているので、好きだから継続する、継続するからこそ失敗はないという世界観だ。論語の知好楽の世界。『これを知る者は、これを好む者に如かず、これを好む者は、これを楽しむ者に如かず』である。最後は、楽しんで継続する。楽しいことしか続かないのである。

楽しいことを続けるという「やり方」の話にうつっていく。

例えば、本を出したい、書きたい。でも書くことは決まっていない。でも原稿がなければ、本は出せない。では、書くしかない。でも何を書く?で、ここで止まるのが「普通」かもしれないが。「悩まず、考えずに書く」が「やり方」であって、書けてさえいればOKとする。まだできることがないのに、上手にやろうとする必要はない。(いつまでも楽しく)続けていくことこそが才能であり、うまくできるとか、売れるというのは、行為の評価の話。ゴッホのように死んでから絵が売れた作家もいる。

私も人に公開する文章はそれなりに考えて書いてきた。数年前に、大人にもなって読書感想文をたくさん書かせていただく研修の機会に恵まれ、真剣に書いていたら、評価してくれる人も出てきた。なので、これからも、考えたことを公開して整理しておこう。そう思って、つくったこのnoteも見られるを意識した瞬間に、結局公開をふみとどまってしまう。結果、ちゃんとした「読書感想文」は、今まで一度も公開できていない。考えずに書くを積み重ねながら、充実感を得るという「やり方」の方が、結果に繋がる気がして、早速今、文章を書いている。ここに、きっちりとかっちりとやるという要素はない。ただ、本当にやりたいことをやるだけ。実践し、継続してさえいれば、最後にはうまくいく。そのための技術が「事務」である。

読後感として、随分と「事務」という言葉が好印象になっていて驚いている。決めて実践する「事務」を続けていきたい。

●この本はweb大人気連載の書籍化企画(とっても楽しい⤵)


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