カタナ・アサシン・ビスポーク
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カタナ・アサシン・ビスポーク

静かなジャズが奏でられる店内。

光沢を放つ、滑らかなカノニコのネイビーと鮮やかなグレーのグラン・トリノ。頑強さを漂わせるスキャバルに、サヴィル・クリフォードが陳列する至高の空間。

黄色のメジャーを片手に、わたしは目の前の男を採寸する。角張った肩に、丸太のような腕、鋼を思わせる大胸筋に、ささくれだった岩のような拳。それらを支える腹筋は、見立てでは凹凸明らかに割れているだろう。大樹の根のごとく、足は太い。

黄ばんだ歯をむき出しに、サングラスから眼を覗かせて男が笑う。注文は白スーツ。太めのピークドラペルに四つボタン、ポケットはスラント、ブレイシーズを留めるボタンつきのトラウザーズはツータック。全体的に厳ついスタイルをご所望だという。

「良いねぇ」
「何がです?」
「このメジャーで採寸してもらってる瞬間、ワクワクするよ、兄弟。仕立て服の醍醐味ってやつだな」
「ご期待に添えるよう、努力致します。Sir.」

慇懃なわたしの口調に口笛を鳴らし、男は鼻唄を奏でる。くしくも、奏でられるジャズにピッタリだ。

──採寸が終わった。
不思議なことに、この仕事をしていると人体の構造に詳しくなる。骨格、血流、どこを患っているか、手に取るようにわかる。

だから、異常拡張した男の義腕がわたしの頭を握り潰す寸前になっても、特段驚くことはなかった。

「看板のないビスポーク……俺みたいな殺し屋や悪党御用達のテーラー。それはいい。だがこの店を利用した『ビッグ・ナイフ』や『プロイラー・ジョン』が行方不明ってのは腑に落ちない。どういうことだ?」

問い掛け。わたしは嘆息する。『スイッチ』がはいる。『おれ』はギャバジンにくるませていた高周波ブレードの柄に手を伸ばす。

おれは『ヘッドカッター』。
採寸が終わったならば、『裁断』の時間だ。

奴の脳内から発せられた『潰せ』という指令より速く、抜刀、切り上げ。肉を裂く感覚を置き去りに、銀色の軌跡が宙を舞う。

遅れて、鮮血。耳を裂くような絶叫。

肉体を把握している以上、どう斬れば一番痛いか、どう斬れば血が出にくいか──お手のものだ。

「おれは殺し屋用の殺し屋。ここはお前たちを裁断する『テーラー』だ」

男の顔が憤慨と痛みで紅く染まる。もう片方の腕が異常拡張し、鋭い爪を携えた鉄腕に変化する。

おれは八双にブレードを構える。
トルソーがまた一体増えることになる。

【つづく】

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