ダブル・ドラゴン
「この仕事(シノギ)、アタシらを填める心算だったんですかエ」
ジャパン・タウンの火離榮会屋敷前で、カオル・トウゴウはジンナイを難詰した。
威厳溢れる縦縞のスーツは銃弾で引き裂かれ、筋骨隆々の体には無尽に包帯が走り、利き手は付け根に至るまでギプスで拘束されている。血走る眼にギリギリと軋む犬歯、じわじわと包帯に血が滲み始め、長ドスを握る手は戦慄く。
クロームに包まれた手でサイバー・アイウェアを操作したジンナイ。右目でカオルを見つめ、左目でフロント企業の株式を売買している。カオルの破れたスーツの隙間から、左肩に刻まれた黄竜の刺青が睨み付けていた。
「エル・コヨーテの奴らとはナシつけた。ハジイて来たのは向こうの不義理ってモンよ」
「若頭(カシラ)が絵ぇ描いたと違うんですか」
若衆らが懐に手を伸ばす。クロームを装備した自分たちなら、生身のカオルなど数秒で肉塊に出来ると自負している。
「手前ぇ、俺が骨折って助けてやったんじゃねえか。人死には無ぇしそれでトントンじゃねえのか?」
カオルのアドレナリンが怒気で一瞬で気化し、呼気と共に吐き出される。受動接種でジンナイらの体も強張る。
カオルの眼には彼方の思い出。
スラムで酌み交わした五分の兄弟盃。
銃弾剣舞の雨霰を潜りながら笑い合う金髪の男。
煌めくクロームに浮かぶワイバーンのホログラフ・タトゥー。
血溜まりに沈む肉体。
カオルの封じられた利き手が膨張し、ギプスが四散し、長ドスが雨粒を切り裂きながら煌めく。
銃を取り出そうとした若衆の体を切断し、返す刃で頭蓋を断つ。ジンナイを守らんと飛び出す若衆の体を逆袈裟に引き裂いて、その隙間から切っ先をジンナイへ突き出す。
硬質タングステンと軟性ケブラー筋繊維を備えたジンナイの腕を突き破り、左目紙一重まで凶刃が迫る。カオルの右腕に浮かぶワイバーンが睨み付けている。
「カオルぅ!!」
「兄弟の仇、殺(と)らせてもらいやす」
≪つづく≫
アナタのサポート行為により、和刃は健全な生活を送れます。