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ベンチャー創業日誌@シカゴ(4):     できることは全てやらないと、人は信じてくれない      

私のお気に入りの漫才師、博多華丸・大吉のネタの中に以下のフレーズがある。

“酒のちゃんぽんと親の言うことは後から効いてくる。”

この言葉を日々実感しています。私の科学者としての背骨を作ってくれたのは間違いなくJoe Takahashi教授。私のアカデミックライフにおける父親のような存在です。私が彼の研究室を去って13年。彼のwisdomは日々の研究生活で今でもよく思い出されます。

先日補助金申請の審査結果が戻ってきました。資金獲得とはいかなかったですが、その中に非常に有益なコメントがありました。

“君たちの作り出した物は、複雑な脳の機能を変えることができる。しかし君たちは1つのメカニズムしか見ていない。確かにそのメカニズムは有望そうだけど、他には可能性はないのか?

このコメントを見てJoeのwisdomが蘇った。

今から20数年前、当時研究室で何か買うときにはJoeのサインが必要だった。私が試薬の購入を申請したときのこと。

“どうしてこの会社の試薬を買うのか?”

この試薬はどこの会社でも似たり寄ったりで、違うのは値段だけ。料理で言うと塩みたいなもの。そこでさらに3社の見積もりを持って行った。すると彼は最初の会社の試薬を買うように言いました。値段も見ずに。そこで私は思いました。

あ〜、選択肢(判断する材料)を与えると人は安心するのか。言い換えれば一つしかないと人は疑念を抱くのではないかと。

またあるとき、こんなこともありました。私は疾患原因遺伝子の候補を22個まで絞っていました。その22個を見ただけでどれが原因の遺伝子かはほぼ見当がついていました。ところがJoeは全ての遺伝子についてその可能性を徹底的に調べろ、と言ってきました。全部調べた結果、当然原因遺伝子は当初の予想のものでした。ここでも先ほどの試薬と同じロジック。

いきなり"これだ"と言われると人は疑念を抱く。他の可能性は?全部調べたの?と。

人に信じてもらうには、できることは全てやる。やり残したことがあるとそこにみんなの目が行き疑念が生じる。13年経って効いてきました。


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