あじのある顔
右耳の付け根の下辺りに赤くなった傷がある。
文字にすると、なんだかかっこよさげに見えるが何のことはない、顔の輪郭にニキビが出来て、それを髭剃りでやむなく削っているうちに消えない赤い傷になってしまったのだ。
自分だと見え難い箇所なのだが、鏡から少し離れても傷の赤さが目につく。
多分、この傷、もう一生消えないような気がする。
顔に傷が出来て落ち込む度に、僕はある映画の台詞を思い出す。
もう何回繰り返し観たか分からないが、また観たくなるその映画は「ダージリン・リミテッド」ウェス・アンダーソン監督作品だ。
父をなくした、訳有りの三人兄弟が長男の思い付きでインドを旅する、コメディ映画だ。
久しぶりに会った長男は顔を包帯ぐるぐる巻きで、聞くとバイク事故にあったのだと言う。
映画終盤、長男が顔の包帯をとると、そこにはまだ生々しい傷跡が残っている。
長男が傷だらけの自分の顔を嘆くと、その姿を見て、エイドリアン・ブロディ演じる次男が、
「なに、顔にあじがでるさ」
と言う。
だから、僕も顔の輪郭の赤い傷を見て落ち込むと、「なに、顔にあじがでるさ」と呟く。
僕も人生折り返しの年齢だ。
良い加減、ニキビに悩まされるのは勘弁して欲しいものだ。
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