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日本初!ミニ・パブリックス+デジタル市民参加プラットフォーム‼

令和5年(2023年)12月17日(日)、前橋市で開かれている「市民がつくる、未来のまえばし会議~自分ごと化会議in前橋~」の第2回の会議を傍聴する機会を得ました。

この会議は、主催が、めぶくグラウンド株式会社、共催が一般社団法人構想日本。「めぶくファーム事業」の一環として、「自分ごと化会議」が開催されています。

1.会議の位置づけ

「めぶくファーム事業」とは、「リアル(対面)とデジタル(非対面)を融合した、いつでもどこでも安全に自分の意思を表明できる市民参加型会議プラットフォームサービス」として、デジタル田園都市国家構想推進交付金を活用して実施する「共助のまちづくり事業」の構築サービスとされたもののひとつです。

「市民がつくる、未来のまえばし会議~自分ごと化会議 in 前橋~」は、前橋市が無作為に抽出した15~79歳の市民2,000人の中で申し込んだ人から37人が選ばれて参加するものとなってます。すなわち、「くじ引き民主主義」で、「熟議民主主義」「ミニ・パブリックス」と言うことができます。

テーマは、家庭ごみの削減です。前橋市のこの事業についてのHPには、「本市は、「前橋市一般廃棄物処理基本計画」を策定し、計画の最終年度となる令和7年度のごみ総排出量の目標達成を目指しています。その目標達成に向け、「自分ごと化会議」で市民の皆様から意見をいただきたいと考えています。」としています。
気候市民会議を傍聴して来ましたが、気候市民会議とは違う「ミニ・パブリックス」を傍聴することになったのです。

「自分ごと化会議」は、一般社団法人構想日本が行って来たもので、2015年3月の大刀洗町の「住民協議会」から「くじ引き」の伝統があります。「住民協議会」とか「自分ごと化会議」という名称で行われています。気候市民会議の環境政策対話研究所系とは別系統のミニ・パブリックスの系譜です。

さて、「めぶくファーム事業」は、「リアル(対面)とデジタル(非対面)を融合した、いつでもどこでも安全に自分の意思を表明できる市民参加型会議プラットフォームサービス」ですから、ここにデジタルが出て来る必要があります。ここに、今日、全国の自治体で採用されて来ている市民参加型オンライン合意形成プラットフォームであるLiquitous(リキタス)のLiqlidが登場するのです。

ミニ・パブリックスにデジタル民主主義のLiqlidが合体するのは日本で初の取り組みです。

前橋市のHPの、「市民がつくる、未来のまえばし会議~自分ごと化会議in前橋~」の第2回の会議のお知らせに、次のLiqlidの画面につながるQRコードが記されています。ログインしなくとも、リアルのLiqlidの画面が出て、その中の投稿等も見ることができました! ~これがLiqlidか!


デジタル田園都市国家構想がミニ・パブリックスとデジタル民主主義の融合を後押し

デジタル田園都市国家構想で、こうした取り組みはさらに全国に広がる可能性があるのではないかと考えます。

2.傍聴のきっかけ

12月15日、日本で最もこども・若者の声を聴き、こども・若者とともに考えるコンサルティングファームである『C&Yパートナーズ』の設立記念パーティーが東京大手町で開催されました。

C&Yの代表取締役の土肥潤也氏
栗本拓幸氏によるC&Yの説明

代表取締役の土肥潤也氏、取締役の栗本拓幸氏(Liquitous代表取締CEO)ほか関係者が集合した中で、栗本氏から、参加していた構想日本の田中俊氏と尾中健人氏(前橋の会議のテーブルコーディネーターの一人)を紹介いただいたのです。これは、栗本氏に、「Liqlidは、ミニ・パブリックスというより、パブリックコメントに近いものとしての分類なのかな」と聞いたところ、ミニ・パブリックスと融合したこの前橋の会議の取り組みの説明を受けての展開でした。1月の会議傍聴を勧めていただいたのですが、当該日に先約があったため、急遽12月17日の会議の傍聴を決めた次第です。

こども家庭庁で「こども大綱」が作られ、次に、こども基本法の第10条に定める「都道府県こども計画」や「市町村こども計画」が作られる(いずれも「定めるよう努めるものとする」と法文はなっています。)段階になっています。こども基本法第11条には、次のようにこども等の声を聞くことが求められており、こうしたコンサルティングファームが地方自治体の動きを支えることとなると思います。

(こども施策に対するこども等の意見の反映)
第十一条 国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

こども基本法(令和4年法律第77号)

こども若者の権利とこども基本法』という本を監修されたりしている日本大学の末冨芳教授等との会話からこのC&Lが生まれたと土肥氏は話していました。

こども・若者の意見を聞く!

3.自分ごと化会議開始。

構想日本の告知のページには、次のような記述(抜粋)があります。
【テーマ】
家庭ごみの削減
【議論の仕方と参加者】
議論の進行役をコーディネーターが務め、テーマについて全4回議論する。
●無作為に選ばれた2,000人の中から応募のあった37名の前橋市民
●前橋市職員
【傍聴】
どなたでも傍聴できます(無料、事前登録不要)

日曜日の朝9時からのスタートです。…横浜の自宅を朝5時台に出て、、。

高崎駅で乗り換えて前橋へ

会場は、前橋駅前のAQERU前橋5階 デロイト トーマツ MAEBASHI Social Innovation Hub セミナールーム。写真の緑の看板がAQERU。

前橋駅ホームから駅前のAQERU(緑の看板の塔の建物)

(1)全体会議の開始(9:00~) 

会場は、3つのテーブルに分かれ、それぞれ12、13席ほど配置。
各テーブル10人ほど着席したところで、全体コーディネーターの石井聡氏が話を始めました。石井氏は、逗子市福祉部長。構想日本の自分ごと化会議は、10回ほど行っているとのことでした。

全体コーディネーターの石井氏

各テーブルには、テーブルコーディネーターの3人、A班:尾中健人氏(構想日本プロジェクトマネージャー)、B班:松原康太氏(構想日本特別研究員)、C班:今泉宏保氏(太田市役所まちづくり推進課職員)が着席していました。

まず、Liqlidに来た投稿の共有。
気候市民会議でも、前回の会議後に出た質問等の対応を冒頭丁寧にやっていたので、それに通ずるものがあるかと思いました。
1つ目は、郵便で議事録が届いたが、家庭ごみを増やすことになるのではないかという意見。
議事録郵送の考えを示した後、次回以降、アンケートの中で、紙の議事録の郵送が必要か確認したいとのことでした。
2つ目は、個人情報の取扱い。スマホに登録等の情報がどうなるかについて。これについては、栗本氏から説明がありました。 
また、最初の登録、これより違う名前が良い場合は変える、今回は、4回で37人でのチャレンジだが、もっと大きい規模でできないかとなると、顔の見える範囲で議論し、ネット上で意見交換を組み合わせることが考えられ、個人が登録されるけど、画面に出ないで、1人1票を持たせるようなトライアルが考えられるが、プライバシー確保が重要、等の説明がありました。

次いで、各テーブルコーディネーターからそれぞれの班で前回出された話の振り返りの報告がありました。
いろんな立場の人がいる中で、ごみ減量もいろいろな形がある。汚れたプラはどこまで洗うのか。どうやったら行動に移してもらえるか、いかにして無理なく分かりやすく楽しくゴミが出ない仕掛けが続けられるか。興味がない人にはどうしたら良いか等の話が出たとの話がありました。

リアルの会議の振り返り以外のものとしては、Liqlidに寄せられたものとして、多くの世代の意見交換できた等の感想、一人暮らし、家族で、地域によって、町内会が違う場合、会社、学校で、ごみに対する行動も違う等の指摘、ホームページを見て、スーパーのリサイクルステーション見た等の話の紹介がありました。

(2)前橋市役所ゴミ政策課からの説明

9時17分、石井氏から、全体で共通して、もう少し知りたいなとされているものについて、前橋市の方から説明を受け、疑問を解消してもらい、さらに意見を出してもらえらばとの話があり、前橋市役所のゴミ政策課の久保田氏らによる説明が行われ、その後質疑応答がなされました。

前橋市からの説明と質疑応答
容器を示しながらの説明

説明の項目を配布された資料から取り上げると、次のとおりです。

 <参考>知っておきたい事業系のごみのこと
 <参考>今回のテーマは、「家庭ごみの減量」となるが・・・
 容器包装プラスチックの資源化について
 コンポストの活用による生ごみの削減について
 ごみ減量化危惧購入費助成(R5年度から電子申請受付開始)
 ごみ減量の普及啓発活動について
 外国人の方のごみ分別啓発活動について

傍聴人配布資料より

これらを、パワポと配布資料で説明がなされました。
汚れたプラ容器は、軽く水洗いでOK等、前回、あるいはその後に示された疑問点に答えるような説明となっていました。 

その後、第1回には欠席し第2回から参加した3名の自己紹介がありました。

更に、前橋市からの説明に関し、様々質疑応答がありました。
休憩10時12分。

(3)班別議論

10時20分から3班で議論が行われました。終了が11時35分頃とメモしてますので、75分とかなりの時間をとっての熟議です。
この前に、A班のテーブルコーディネーターが数日前に使い終わったペットボトルの処理を手作業でベルトコンベアーで行っているところを視察して来た時の動画が示されました。非常に状況が分かりやすい動画でした。
ホワイトボードを兼ねた移動式のパーテーションが出て来て、A班、B班、C班の間に入りました。

班別議論へ

気候市民会議で、メインファシリテーターが女性だったため、コーディネーターのジェンダーバランスが影響し、議論が堅苦しくなるのではとちょっと思っていたのですが、班別議論が始まると、笑い声や拍手も聞こえるなど、杞憂だったことが分かりました。話によると、前回、自己紹介等を経て、心理的安全性が高い状況が生まれているとのことです。

傍聴した気候市民会議と比較し、まず特徴的だと思うのは次の点です。
①班ごとに話の仕方が違う。3人のグループコーディネーターのスタイルも、一人はテーブルで話をして途中でホワイトボードに記載する、一人は最初から立ってホワイトボードに書いたものをベースに話をする、もう一人はホワイトボードを使わずに着席でPCに入力する、と別々。話を広げることが大事な段階なので、これはこれで良いのだろうと思いました。
②この日の市民の参加者は、33人と見受けられましたが、1テーブル10人以上の班なので、端の方と端の方の会話では、ちょっと聞きずらいところがあったように見受けられました。
➂この前橋の会議では、班員のシャフルは行われてないとのこと。
④傍聴人の写真撮影はOKとのこと。特段常識的な範囲であれば良いようで、撮影に際し、細かいことは言われませんでした。

ホワイトボードを使うグループコーデネーター。

気候市民会議では、1テーブル6,7人で、毎回、班が変わっていました。確かに話しやすい雰囲気で、ある程度の時間がとってあれば、人数が多い10人以上でも、話が結構深まるような展開も見受けられました。3班別々となると、3種類の話題が展開するので、トータルとして幅広い議論ができるとも考えられます。3回目、4回目で、どう全体の提言としてまとめていくかがキーですが、より少人数でシャッフルする方が良いとは一概に言えないのかなと思いました。

そして、何より特徴的だったのは、この75分の間、前橋市の担当職員が3班に分かれて、席に座りはしませんでしたが、かなり班別議論に加わっていたということです。参加市民が議論している中で、出て来た質問に答えるのが主でしたが、各論的に、参加市民からの個人的な提案を受けて感想を述べたりしていました。

班別議論に加わり、熱心に説明をする市職員。

この会議について、冒頭示したように、「本市は、「前橋市一般廃棄物処理基本計画」を策定し、計画の最終年度となる令和7年度のごみ総排出量の目標達成を目指しています。その目標達成に向け、「自分ごと化会議」で市民の皆様から意見をいただきたい」としている訳ですから、前橋市は、その担当課は、この会議の提言を受けて施策をする必要があります。これだけ関わるのは、市の職員側のそうした意識がはっきりしているからだとうと思いました。そうすると、参加市民の側も、会議の成果物に向けての検討をより深くするようになっているのではないかと思いました。

気候市民会議は、扱う範囲も大きく、その施策の遂行には、様々な利害関係者の対立も考えられます。市町の環境問題を担当する者が、気候市民会議の参加住民の議論にしっかり入り込んで、取りまとめられた成果物が、より効果的に使えるものとなるようにするのは理想ですが、現実的には、論点が多すぎてなかなか困難なのではないかと思います。よっぽど時間をかけられれば話は別でしょうが。それと比べると、「家庭ごみの削減」というテーマであれば、その分野での市の施策の説明や、論点の提示等はある程度できるので、担当課もしっかり参加市民の議論に加わり、そこで出された提言も、ある程度のものであれば、政策決定の必要はあっても受け入れられると考えて対応できるのではないでしょうか。熟議民主主義、ミニ・パブリックスの一番のポイントは出された提言等を、自治体がどれだけしっかり受け止めて実現するかということだと考える私としては、今回の市の職員の対応は、結果の有効性への期待を大変高くするものでありました。

このあたりが一番難しいところかもしれません。耳にしたところによると、今回の「家庭ごみの削減」というテーマは、「結果的にこれになった」ということで、何々を今、幅広く議論すべきだからということより、提言への対応も想定する中でのテーマ設定だったのかもしれません。

11時35分、班別議論はこのあたりまでということで、班別議論の全体会での共有が行われました。テーブルファシリテーターによる報告です。
A班:目的、メリット、プロセスの見える化があった方が、行動に移しやすいよねということが話された。ゴミ出しめんどくさいけどコミュニティを生む場合もあるということもあった。
B班:ゴミ袋有料化、シェア、フードバンク、習慣化等が話された。学校での対応は、入学時期の説明だけで良いのか?パンフ、資料わかりくい。聞きたいことたくさんあるが、質問等の受け皿がカジュアルにあると良い。
C班:どうすればより多くの人が動いてもらえるか、アピールをしていくことが大切。自然循環生ごみ、落ち葉収集等は、それなりの手間がかかる。ポイント制等あれば良いのでは等の話があった。

(4)Liqlidの入力

11時45分、いよいよLiqlidの登場です。
「改善提案シート」の記入です。
まず最初に、「紙で書きたい人は紙で出してもらって良いです。」との説明がありました。ただ、見たところ、参加市民の方、皆さん、スマフォを取り出し、Liqlidを操作し始めているようでした。

やり方のサポートもしますよ。
参加市民がLiqlidを操作。

「改善提案シート」の記入ですが、次の写真にあるように、今日の議論を受けて、各自が考える現状の課題を書き、それについて、その課題を解決する方法を書きます。解決する方法は、
〔住民の役割〕
個人としてできること(自助)
地域としてできること(共助)
〔行政の役割〕(公序)
〔その他〕
となっています。この分類、「気候市民会議in逗子・葉山からの提案 素案」の「市民の取り組み、事業者、地域市社会への提案」、「市・町(県、国)への提案、官民協働の取り組み提案」の分類と同様と思いました。

できるだけ多く改善提案を「Liqlid」に入力してくださいね。

Liqlidの入力を、対面とのハイブリッドな取り組みの中で、西鎌倉では、入力者を置いて対応したけれど、実際、参加市民が直接入力した場合もあると聞いていましたが、目の前で、参加市民が現場で入力を行う姿を見ることができました。
画面を見せてもらいましたが、次々と入力されている様子がうかがえました。再度ここにLiqlidとのリンクを置いておきます。
Liqlid ←

最後に、第3回までに行っていただきたいことの説明がありました。
 「改善提案シート」の入力は引き続き行っていただいて良い。
 第2回に参加した感想。
 普段ごみを出している集積場の様子
 ごみの減量・分別のために自分がしている工夫
 (写真の投稿も歓迎)
 他の投稿を見て、「いいね」やコメントをつける
 前橋市への質問等あれば、そこへの投稿

第3回会議までの入力の要請。

4.傍聴を終えて

班別討議の人数、時間、シャッフルの有無については、一概にどれが良いとは言えないというのが今のところの考えであることは前述のとおりです。
全体のとりまとめがどうなるか、注目したいです。
一番の感想は、これも前述したところの、前橋市の職員の関わり。気候市民会議とは対照的で、説明もしっかりして、その後の議論にも加わっている様子は、成果物の充実とその有効活用につながる期待を高めます。

私もあるワークショップに関わってますが、付箋に書いたものを集めて係の人がネットに掲げたりしてますが、なかなかそこから話が広がらないし、時間が経つと何を言ったが忘れてしまったりします。市民の対面の集会とLiqlidを合わせて使うのは、大変良いように思います。前橋市への質問等のところは、市も返事をするでしょうから、ここはLiqlidの得意分野でしょうし、会議録と、Liqlidの入力、やり取りが見られれば、熟議を1回欠席してしまった人が次に出席するハードルを、かなり下げることになるかと思いました。

終わってから、全体コーディネーターの石井氏と話すことができました。逗子市の福祉部長ということで、かながわ気候市民会議in逗子・葉山のことも話をしました。提言を逗子市長も受けて今度は行動計画を作る段ですねと。前橋の会議における市役所職員の関わりとの比較も話をしました。気候市民会議in逗子・葉山は神奈川県の事業という要素もあるとのことでした。石井氏は構想日本の会議に10件ほど関わっているということでした。私が、これらミニ・パブリックスと地方議会の関係はどうなるかも関心があり、一つは、地方議員が、首長サイドがミニ・パブリックスの提言等をどれだけ取り入れているか監視をするということはあるのではないかと話しをしたところ、ミニ・パブリックの結果を議会に報告し、議会がそれを受けて、首長サイドに要請をするという、岡山県新庄村の例を教えていただきました。

そう、ミニ・パブリックスが代表制民主主義の議会とつながる例です。これは画期的なもので、また別に機会があれば取り上げたいと思います。
yahoo!ニュース 議会の本来の機能を回復させる!いま地方議会が注目する無作為抽出の手法(自分ごと化会議)-新庄村議会 伊藤伸 2020/2/28

栗本拓幸氏は、自身のフェイスブックで「ミニ・パブリックスにデジタルを接続する、まさにハーバーマスが言うところの「2回路制デモクラシー」を具現化する試み」と言ってます。栗本氏が示した「政治分野における液体民主主義の構想」も着実に進んでいるように思えます。

現実が動くのは、本当に一歩一歩ですが、位置づけや今後のチャレンジを考えると、実に興味深い現場に立ち会うことができたのではないかと考えます。


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