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UN04 国連機関の採用プロセス:書類選考

国連機関の職員の採用では選考の公平性が強く求められる。友人・知人・家族の採用に便宜を図る、いわゆる縁故採用は排除されるべきものだし、いかなる理由であっても応募者が差別されてはいけない。顔写真は応募書類に含まれない。
 
空席が生じた場合、その職務が公募にかけられ、厳正な採用プロセスを経ることになる。僕が勤務する国連機関では通常、応募書類とカバーレター(志望動機書)の書類審査、筆記試験、面接、レファレンスチェック、局長級以上の幹部の決裁を経て採用者を決める。
 
ちなみに、国連機関では日本の慣行と異なり、学卒を一括で採用し育成するわけではなく、中途採用が基本だ。最近日本でも聞くようになった「ジョブ型」が国連機関の雇用の基本だと思って差し支えないだろう。つまり、機関の機能が多数の細分化されたjobによって構成され、新たにプロジェクトが始まる場合や離職者が出た場合に、その空席の職務を遂行する最適任者を選ぶことが採用活動となる。このため、在職者もキャリアアップを目指す場合、空席に応募し、採用選考を経ることになる。
 
採用の第一段階は空席の公募だ。まず、採用活動を総括する採用担当マネジャー(hiring manager)が任命され、人事担当者と二人三脚で採用プロセスを企画する。ここで重要なのが職務記述書の作成だ。職務記述書に明記される職務を候補者が遂行できるかどうかが採用選考の主眼なので、書類選考や筆記試験、面接が全て、職務記述書に基いて行われる。
 
職務記述書には、その職務の背景、部局やプロジェクトの説明、直属の上司、職務、必要とされる知識、学歴、スキル等が明記される。新規プロジェクトや新設されるポストの採用の場合、採用担当官と人事担当者が、機関が用意しているひな形を基に職務記述書を起案する。離職者が出る場合は、既存の職務記述書を見直す。職務記述書が承認されると、2週間から1カ月公募にかけられる。公募されている職務に関心を持った志願者は、採用ウェブページに履歴書を作成し、カバーレター(任意)を添え、オンラインで応募する。
 
もしこの記事を読んでくれているあなたが国連の仕事に関心がある場合、2つアドバイスがある。書類選考をする側は、あなたの職歴や成果がいかに素晴らしいかではなく、あなたの応募書類が職務記述書の内容と合致しているかを見ている。公募されている職務と類似した仕事で成果を挙げているかどうかが重要で、そのことを念頭において応募書類を作ることが重要だと思う。
 
2つ目は任意のカバーレター(志望動機書)だ。添付しなくてもよいけれど、これは絶対に作成するべきだと思う。カバーレターは、数ページ(10ページを超えることもある)応募書類の「要約」にあたるので、書類選考で最も重視される。付言すれば、応募者が採用担当者に対して、アピールする機会を逃すのはもったいないからだ。
 
カバーレターの重要性は、書類選考担当者の視点から考えると分かりやすいかも知れない。面接に呼ぶ候補者が3~4人、その前段階の筆記試験を10人の応募者が受けるとしよう。そうすると、書類選考の目的は、筆記試験に呼ぶ10人を選ぶことだ。書類選考の第一段階として、人事担当者は応募者全体をふるいにかけ、20人ほど選び、採用担当マネジャーに回す。採用担当マネジャーはそこから10人に絞り込む。
 
応募書類が平均して7ページだとして、応募者が50人いる場合、書類選考の第一段階で350ページの文書を読むことになる。応募者はA4一枚のカバーレターに、自分がいかに公募されている職務の遂行に相応しいかを簡潔に記述することになっているので、書類選考担当者はそれをまず参照する。採用する側から言えば、数ページの職務経歴や業績から応募者が公募中の職務記述書に合致しているか確認する作業を行う前に、応募者の「言い分」を先に聞く方が合理的なのだ。
 
僕は数回、プロジェクト担当者の採用に際して、全応募書類を自分で審査したことがある。採用が重なって人事担当者が多忙を極めていたことと、プロジェクト担当者の採用を急いでいたからだ。120人程の応募者の書類に目を通すのは労力のいる作業だった。正直に言えば、全ページを同じように丁寧に読んだわけではない。カバーレターの英語が稚拙で国際機関の仕事の水準に達していない応募者や職務記述書と明らかに合致していない応募者の職務経歴は一瞥しただけで、他方、書類選考を通った応募者の書類は数度読んでいる。
 
ちなみに、公募の締め切り間際ではなく、出来るだけ早く応募した方がいいと聞いたことがある。書類選考は締め切り前に始まって、筆記試験に呼ぶ10人が見つかった時点で、それ以降の応募書類は見られないとか。僕の経験から言えば、これは事実ではない。応募した順にシステムに記録され、応募者のリストが出来るので、書類選考担当者は多分その順に書類を審査すると思う。とは言っても、最初の応募者が最後の応募者より有利というわけではないだろう。

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