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星降る夜、君とふたりで

季節が移ろうように人の心も移ろいやすい
なんて誰が言ったのだろう。
夢の中での久しぶりの逢瀬。
鏡の前で1人、未だ恋焦がれているあなたの
ことを思い出していた。

空が濁った日。
「ごめん。今日はオリオン座見えないね。」
まるで自分が星であるかのように謝るあなたを見て、私は声を出して笑った。
それにつられて笑うあなたの耳はまるで、赤く
熟れた野苺のよう。
「食んだらどんな味がするんだろうね。」
「右に生っているのは少し酸っぱくて左に生っているのはちょうどいい。食べ頃だよ。」
なんて得意の冗談を言い合う。
とても大きな夜の小さな隙間に、私たちの笑い声が吸い込まれていった。

今日は綺麗に星が見えるよ。
どこに見える?なんて分からないふりも今日はやめるから。
だから今日はせーので指を指そう。
あなたはオリオン座に向かって、私はあなたに向かって指を指そう。
そうして2人。笑い合おう。
一つになれない2人が作った一つの小さな惑星で笑い合おう。
赤く生った2人の頬を擦り合わせて寒さを分かち合えるなら。
2人だけの小さな惑星で迷子になることはないだろうから。


名残惜しさを片手に別れを告げたあの日。
私はあなたに一通の手紙を残した。
感謝の言葉と惜別の言葉を綴った手紙。
“流行病には気をつけて。どうかお元気で。”
さよなら。さよなら。さよなら。
私の手紙は終わりを告げた。
あなたを慕う気持ちを言の葉に乗せるには
あまりにも未熟だった。稚拙だった。
何より、あなたを愛してた。


街ですれ違ってもあなたの香りがしても知らない顔をしよう。
あなたの幸せを願って。
私は現へと帰った。

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